表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/35

第二十四話 危機

 ラウルたちは、斜面に倒れた大木の陰で身を潜めていた。


 辺りはすでに薄暗い。


 木々の隙間から差し込んでいた夕日も弱くなっている。


 だが、まだ人の姿を見分けるには十分だった。


 誰も声を出さない。


 聞こえるのは、風に揺れる枝葉の音。


 そして。


 ザッ。


 ザッ。


 斜面を踏み締める足音。


 ラウルは大木の隙間から下を覗いた。


 来た。


 一人。


 二人。


 その後ろにもいる。


 山賊たちが斜面を登ってきていた。


 手には剣や斧。


 周囲を警戒しながらも、こちらの位置にはまだ気づいていない。


 さらに後ろ。


 木々の間から、見覚えのある巨体が姿を現す。


 あの大斧の男だ。


 ラウルは息を殺した。


(まだだ。)


 山賊たちはさらに登ってくる。


 距離が縮まる。


(まだ。)


 ラシムたちも石や木を握り締めたまま動かない。


 緊張で手が震えている者もいた。


 それでも、誰一人として勝手には動かなかった。


 十歩。


 さらに近づく。


 ラウルは剣の柄を握った。


 ここだ。


 大木の陰から勢いよく立ち上がる。


「かかれぇ!」


 その声を合図に、ラシムたちが一斉に立ち上がった。


「うおおおおっ!」


 石。


 木片。


 太い枝。


 集められるだけ集めたものが、斜面の上から一斉に投げつけられる。


「なっ――!」


「なんだ!?」


 突然の攻撃に山賊たちは反応できなかった。


 斜面を登っていたところへ、上から石と木が降り注ぐ。


「ぐあっ!」


 一人の肩へ木片が直撃する。


 別の男は顔を庇ったところへ石を受け、その場に倒れ込んだ。


 さらに。


 ゴッ。


 鈍い音。


 拳ほどの石が山賊の頭を直撃した。


「がっ……!」


 男は力なく斜面へ崩れ落ちる。


「上だ!」


「待ち伏せだ!」


「くそっ!」


 山賊たちが騒ぎ立てる。


 隊列が崩れた。


 足が止まった。


(今だ。)


 ラウルは剣を抜く。


「行くぞ!」


「はいっす!」


「うん!」


 四人が一斉に飛び出した。


 先頭を駆けたのはコルティオだった。


 混乱している山賊との距離を、一気に詰める。


 男がコルティオに気づき、剣を構えようとした。


 遅い。


「はぁっ!」


 コルティオの剣が真っ直ぐ伸びた。


 切っ先が男の胸へ突き刺さる。


「がっ……!」


 男の口から血が溢れた。


 コルティオが剣を引き抜く。


 男がその場へ崩れ落ちる。


 その横をラウルとナタリアが駆け抜けた。


「はっ!」


 ナタリアが一人へ斬り掛かる。


 山賊が剣で受ける。


 金属音が響く。


 ラウルも別の男へ向かう。


 山賊が横薙ぎに剣を振るう。


 ラウルは身体を沈めてかわした。


 踏み込む。


 一閃。


「ぐあああっ!」


 山賊の右腕が宙を舞った。


 剣を握ったまま地面へ落ちる。


 男が右肩を押さえながら絶叫した。


 そこへもう一人の兵士も斬り込んでいた。


「おおっ!」


 山賊の攻撃を受け止める。


 弾く。


 体勢を崩したところへ剣を振り下ろした。


 山賊が倒れる。


 奇襲は成功した。


 山賊たちの集団が崩れていく。


 その中で二人の山賊が仲間から引き離されていた。


「今だ!」


 ラシムが叫ぶ。


 腕っぷしの強い伐採業者たちが飛び出した。


 一人ではない。


 数人で一人を囲む。


「この野郎!」


 太い木が山賊の背中へ叩きつけられる。


「ぐっ!」


 振り返ったところへ別の男が石を振り下ろす。


 もう一人の山賊にも、複数の伐採業者が殺到した。


 作戦通りだった。


(いける。)


 ラウルは確かな手応えを感じた。


 数の差を潰せている。


 最初の一撃で敵を崩し、分断することにも成功した。


 このまま押し切れば――。


「きゃっ!」


 声がした。


 ラウルが振り向く。


 ナタリアの身体が吹き飛ばされていた。


 向かい合っていた山賊に殴り飛ばされたのだ。


「ナタリア!」


 男が倒れたナタリアへ迫る。


 だが。


「させないっす!」


 コルティオが間へ飛び込んだ。


 剣と剣がぶつかる。


 ナタリアもすぐに起き上がった。


「大丈夫!」


 二人で山賊を挟む。


 その時。


 ラウルの横から剣が迫った。


「っ!」


 身体を捻る。


 避け切れない。


 刃が身体を浅く切り裂いた。


「ぐっ……!」


 焼けるような痛み。


 だが、深くはない。


 ラウルはすぐに剣を構え直した。


 まだ戦える。


 その時だった。


「やるじゃねぇか。」


 低い声。


 ラウルの視線が動く。


 山賊たちの間から、大男が歩いてくる。


 手には大斧。


 オベール中尉を傷つけた男。


 大男は周囲に倒れている仲間を見回し、にやりと笑った。


「若造。」


 大斧を持ち上げる。


「ずいぶん好き勝手やってくれたじゃねぇか。」


 そして。


 大斧を振り回した。


 風を切る音がする。


 ラウルは剣を構えた。


 来る。


「おらぁっ!」


 大斧が振り下ろされる。


 ラウルは剣で受けた。


 ガァンッ――!


「っ!」


 腕が痺れた。


 重い。


 受け止められない。


 そのまま力任せに押し切られる。


 ラウルの剣が弾き飛ばされた。


 宙を回り、離れた地面へ突き刺さる。


「ラウル!」


 ナタリアの叫び声。


 ラウルは勢いを殺せず、地面へ尻餅をついた。


(剣……!)


 見る。


 遠い。


 すぐには届かない。


 大男がゆっくりと近づいてくる。


 ラウルは地面へ手をついたまま、後ろへ下がった。


 一歩。


 また一歩。


 逃げるように身体を引く。


 だが、大男は焦らない。


 獲物を追い詰めるように歩いてくる。


     ◇


「邪魔っす!」


 コルティオが目の前の山賊へ斬り込む。


 山賊が受ける。


 その横からナタリアが踏み込んだ。


「はぁっ!」


 山賊の意識が一瞬ナタリアへ向く。


 その隙をコルティオは逃さなかった。


 二人の剣が続けざまに山賊を捉える。


 男が崩れ落ちた。


「ラウル!」


 二人はすぐに振り向いた。


 だが。


 遠い。


 ラウルの前には、すでに大男が立っている。


「急いで!」


「分かってるっす!」


 二人が駆け出す。


 間に合わない。


     ◇


 大男がラウルを見下ろした。


 口元に笑みを浮かべる。


「終わりだな。」


 両手で大斧を握る。


 ゆっくりと振りかぶった。


 ラウルは後ろへ下がろうとする。


 だが、もう逃げる距離はない。


 剣もない。


 大斧が頭上まで持ち上げられる。


(まずい。)


 振り下ろされる。


 ラウルは咄嗟に目を閉じた。


 ――だが。


 何も起こらない。


 大斧が身体へ叩きつけられる感覚も。


 痛みも。


 なかった。


「……?」


 ラウルは目を開いた。


 目の前に大男が立っている。


 その身体が僅かに震えていた。


 そして。


 大男の喉元から――。


 剣先が突き出ていた。


 血が刃を伝う。


「が……っ。」


 大男の口から血が溢れる。


 その背後。


 一人の男が立っていた。


「……やらすかよ。」


 弱々しい。


 それでも、聞き慣れた声だった。


 ラウルの目が大きく見開かれる。


「オベール……中尉……?」


 マーク・オベールだった。


 顔は青ざめている。


 右脇には血の滲んだ包帯が巻かれ、立っていることすら不思議な状態だった。


 それでも。


 両手で剣を握り。


 大男の背後から、その剣を突き刺していた。


 マークが最後の力を振り絞るように剣を引き抜く。


 大男の身体が前へ傾く。


 そして。


 地面へ倒れた。


 動かない。


「中尉!」


 ラウルはすぐに立ち上がった。


 マークの身体がぐらりと揺れる。


 ラウルが駆け寄り、その身体を支えた。


 周囲の山賊たちも動きを止めていた。


 自分達の中で最も大きな男が倒された。


 すでに何人もの仲間が倒れている。


「くそっ!」


「逃げろ!」


 一人が走り出した。


 それをきっかけに、まだ動ける山賊たちが次々と逃げていく。


 統率などない。


 バラバラに森の中へ消えていった。


 誰も追わなかった。


 追う必要もなかった。


 守り切った。


「オベール中尉。」


 ラウルは腕の中のマークを見る。


 マークは苦しそうに呼吸していた。


 それでも、僅かに目を開く。


「……ラウル。」


「はい。」


 マークの口元が少しだけ緩んだ。


「よく……やった。」


 その一言を残し。


 身体から力が抜けた。


「中尉!」


 ラウルが呼びかける。


 ナタリアが駆け寄った。


「大丈夫。意識を失っただけ。」


 ラウルは大きく息を吐いた。


 そして、周囲を見た。


 傷ついた者はいる。


 疲れ切っている者もいる。


 それでも。


 守るべき人々は、そこにいた。


     ◇


 その後。


 ラウルたちはオベール中尉と負傷兵を救護しながら、慎重にドーハ山を下りた。


 戦闘を終えたばかりの身体は重い。


 それでも足を止めなかった。


 やがて木々の先に、見覚えのある伐採場が見えてくる。


 そこにはすでに人影があった。


「……ラウル!」


 聞き慣れた声。


 リシア・ルミエルだった。


 村から戻ったルミエル隊の面々が、すでに伐採場へ到着していた。


 リシアは駆け寄る。


 そして、ラウルたちの状態を見た瞬間、表情を変えた。


「マーク……!」


 意識のないマーク。


 負傷した兵士。


 傷を負ったラウルたち。


 状況を見ただけで、何かが起きたことは明らかだった。


 だが、リシアはそこで詳しい事情を聞かなかった。


「負傷者を優先します。」


 すぐに指示を飛ばす。


「マークと負傷兵を運んで。」


「動ける者は周囲を警戒。」


「すぐに村へ戻ります。」


「了解!」


 小隊員たちが一斉に動き始める。


 リシアはその様子を確認すると、ラウルへ近づいた。


 血と土で汚れた姿。


 浅いとはいえ傷も負っている。


 リシアは一瞬だけラウルを見つめた。


「ラウル。」


「はい。」


「詳しい話は後で聞きます。」


 ラウルは頷いた。


「……はい。」


 今は報告より先に、助けなければならない者がいる。


 ラウルは運ばれていくオベール中尉へ目を向けた。


『必ず、護衛対象を守れ。』


 その命令を思い出す。


 ラウルは静かに拳を握った。


 まだ任務は終わっていない。


 それでも。


 託されたものだけは――。


 守り抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ