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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

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第二十三話 撃退

 決断したラウルは、改めて今ある戦力を確認した。


 戦えるのは、自分。


 コルティオ。


 ナタリア。


 そして、もう一人の兵士。


 四人。


 一方、襲撃してきた山賊は、あの大男を含めても五、六人はいた。


 それだけではない。


 まだ他にも仲間がいる可能性がある。


(戦力差が大きすぎる。)


 真正面から戦えば勝てない。


 四人で護衛対象を守りながら戦うとなれば、なおさらだった。


 どうする。


 どうすれば、この戦力で全員を守れる。


 ラウルは横たわるオベール中尉へ目を向けた。


 包帯には血が滲んでいる。


 意識は戻っていない。


『必ず……護衛対象を守れ。』


 先ほど託された言葉が頭に残っていた。


(必ず守る。)


 ラウルはもう一度、心に刻んだ。


「コルティオ。」


「はいっす。」


「来てくれ。」


 二人は大木の裏で身を寄せ合っている伐採業者達のもとへ向かった。


 ラウルの姿に気づき、代表のラシムが立ち上がる。


「兵士さん……。」


 不安が滲んだ声だった。


 周囲の作業員達も同じだった。


 何が起きているのか。


 この先どうなるのか。


 山賊は追ってくるのか。


 誰もがラウルの言葉を待っていた。


「ラシムさん。」


「はい。」


「俺達は、ここで防衛します。」


 ラシムの表情が強張った。


「ここで……?」


「はい。」


 ラウルははっきりと言った。


「追ってくる山賊を、ここで撃退します。」


 ざわり。


 作業員達が一斉に動揺した。


「撃退って……。」


「俺達もここに残るのか?」


「相手は山賊だぞ……。」


 不安が広がっていく。


 ラウルはその様子を見た。


 ここにいるのは兵士ではない。


 戦うために来た者達でもない。


 恐怖を感じるのは当然だった。


 ラウルは少しだけ表情を緩めた。


「大丈夫です。」


 柔らかな笑みを浮かべる。


「必ず、皆さんを守ります。」


 ざわめきが少しずつ収まった。


「そのために。」


 ラウルはラシムを見る。


「皆さんにも協力してほしいんです。」


 ラシムはラウルの顔を見つめた。


 しばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐く。


「……分かりました。」


 そして力強く頷いた。


「何をすればいい?」


 周囲の作業員達も互いの顔を見る。


「俺達にできることなら。」


「やるよ。」


「ここまで守ってもらったんだ。」


 動揺は消えていない。


 それでも、先ほどまでとは目が違っていた。


「ありがとうございます。」


 ラウルは頭を下げた。


 少し後ろにいたコルティオは、その姿を黙って見ていた。


(……ラウルが笑った。)


 珍しいから驚いたのではない。


 笑顔を見せた理由が分かったからだ。


 普段のラウルなら、必要なことを必要なだけ伝える。


 感情を表へ出すことも多くない。


 だが今は違った。


 怯えている伐採業者達を落ち着かせるために、自分から笑った。


(何か……変わったんすね。)


 指揮を託されたからなのか。


 人の命を背負うと決めたからなのか。


 コルティオには分からない。


 ただ、今までのラウルとは少し違って見えた。


 ラウルは周囲を見渡した。


「まず、周辺にある石と木を集めてください。」


「石と木?」


「はい。持てる大きさのものを、できるだけ多く。」


 ラシムが頷く。


「分かった。お前達、集めよう!」


 作業員達が動き始める。


 ラウルは次に、残っている兵士のもとへ向かった。


「話があります。」


「なんだ。」


「オベール中尉から、俺が指揮を引き継ぎました。」


 兵士が目を見開く。


「中尉が?」


「はい。」


 ラウルは真っ直ぐに兵士を見る。


「護衛対象を必ず守れと命令を受けています。」


 兵士は横たわるオベール中尉を見た。


 そして、ラウルへ視線を戻す。


「……中尉の指示なら従う。」


「ありがとうございます。」


 これで。


 戦える四人の意思は揃った。


 だが、戦う前に知らなければならない。


 敵がどこにいるのか。


 何人いるのか。


 どう動いているのか。


「コルティオ。」


「はいっす。」


「偵察を頼みたい。」


 ラウルは兵士を見る。


「二人で山を下りて、敵の位置と人数を確認してほしい。」


 コルティオが頷く。


「分かったっす。」


「戦う必要はない。見つからないことを優先してくれ。」


「了解っす。」


 二人は装備を確認すると、木々の間へ姿を消した。


     ◇


 時間が過ぎていく。


 伐採業者達が次々と石や木を運んでくる。


 拳ほどの石。


 両手で持てる大きな石。


 太い枝。


 切り落とされた木片。


 使えそうなものは全て集めた。


 ラウルはその間も斜面を確認し続ける。


 日が傾き始めた。


 森の中へ伸びる影が長くなっていく。


 まだ戻らない。


 ラウルは拳を握る。


 その時。


「ラウル!」


 聞き慣れた声。


 斜面からコルティオと兵士が登ってきた。


「どうだった?」


 コルティオは肩で息をしながら答える。


「来てるっす。」


 周囲の空気が張り詰めた。


「もう、すぐそこまで来てる。」


「人数は?」


「ざっと見ただけでも十人以上。」


 ラウルの表情が固まる。


 予想していたより多い。


「……大男は?」


「いたっす。」


 コルティオが頷いた。


「あの大斧の男もいるっす。」


(十人以上。)


 こちらは四人。


 敵は少なくとも倍以上。


 まともにぶつかれば勝てない。


 だからこそ。


 まともには戦わない。


「みんなを集めよう。」


     ◇


 大木の裏へ全員が集まった。


 ナタリア。


 コルティオ。


 兵士。


 ラシムと伐採業者達。


 負傷者のそばにも数名が残っている。


 全員の視線がラウルへ向けられた。


 ラウルは一度、斜面の下を見る。


 そして話し始めた。


「敵は十人以上います。」


 動揺が走る。


「まともに戦えば、こちらが不利です。」


 だから。


「最初の一撃で崩します。」


 ラウルは斜面を指した。


「山賊が斜面を登ってきても、すぐには攻撃しません。」


「できる限り引きつけます。」


 次に、集められた石と木を見る。


「十分に近づいたところで、ラシムさん達を中心に、集めた石と木を一斉に投げてください。」


 ラシムが頷く。


「分かった。」


「狙いを定める必要はありません。とにかく一斉に投げて、敵の足を止めてください。」


 そして、ラウルは三人を見る。


「敵が怯んだら、俺達四人で突っ込む。」


 ナタリアの表情が引き締まる。


 コルティオも真剣に聞いている。


「そこで数人を相手にしながら、敵を分断する。」


「全員を倒そうとしなくていい。」


「一部を孤立させる。」


 ラウルは伐採業者達へ目を向ける。


「孤立した山賊は、腕に自信のある人達にお願いしたいです。」


 ラシムが理解する。


「石や木で叩けばいいんだな。」


「はい。」


 ラウルは頷く。


「一対一で戦う必要はありません。何人かで一人を囲んでください。」


 戦える兵士は四人しかいない。


 だが。


 ここにいる全員を戦力として考えれば、話は変わる。


 兵士が敵を引き受ける。


 伐採業者が孤立した敵を複数人で倒す。


 敵の数を一人ずつ減らしていく。


「最初の突撃にかかっています。」


 ラウルは全員を見渡した。


「そこで崩せなければ、厳しい戦いになります。」


 誰も口を挟まなかった。


「だから。」


 ラウルは一人一人を見る。


「みんなを頼りにしています。」


 ラシムが力強く頷く。


「任せろ。」


 ナタリアも剣の柄へ手を置いた。


「やろう。」


 コルティオが笑う。


「絶対成功させるっす。」


 兵士も静かに頷いた。


 ラウルは最後に告げる。


「必ず無事に帰りましょう。」


「おう!」


「はい!」


「任せろ!」


 それぞれの返事が重なる。


 全員が自分の持ち場へ向かった。


     ◇


 辺りはさらに暗くなっていた。


 木々の隙間から差し込む夕日も、もう僅かしか残っていない。


 ラウルは大木の前に立つ。


 斜面の下を見つめる。


 背後には護衛対象。


 重傷のオベール中尉。


 負傷した兵士。


 ナタリア。


 コルティオ。


 そして、自分を信じて動いてくれた人達がいる。


 逃げる道を選ばなかった。


 なら。


 ここで守るしかない。


 ラウルはゆっくりと拳を握り締めた。


(必ず。)


 オベール中尉の言葉を思い出す。


(みんなを守る。)


 やがて。


 静かな山の斜面から――。


 何者かが土を踏み締める音が聞こえ始めた。

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