第二十話 襲撃
シュタールで一日の休息を終えた翌日。
ルミエル小隊は、護衛対象である伐採業者の作業拠点となる村へ到着した。
村の入口では、一人の壮年の男が深く頭を下げて待っていた。
「遠いところまでありがとうございます。」
日に焼けた顔に穏やかな笑みを浮かべる。
「伐採業者を営んでおります、ラシムと申します。」
男は丁寧に一礼した。
リシアも一歩前へ出る。
「第一軍ハーネス旅団所属、ルミエル小隊です。護衛任務の間、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
挨拶を終えると、ラシムは村の案内を始めた。
ラウル達小隊員は宿舎へ案内され、荷物を置く。
一方、リシア、マーク、コルドの三人はラシムと共に作業内容や護衛期間についての打ち合わせへ向かった。
◇
翌朝。
二十名の作業員は荷車へ道具を積み込み、ルミエル小隊に護衛されながらドーハ山麓へ向かっていた。
昨夜のうちに、打ち合わせ内容は小隊全員へ共有されている。
行軍経路。
作業場所。
護衛配置。
緊急時の対応。
全員が同じ情報を把握した状態で任務が始まった。
やがて伐採場へ到着する。
リシアは周囲を見渡すと、すぐに指示を飛ばした。
「各持ち場へ。」
「作業員との距離を取りすぎないように。」
「異変があれば直ちに報告。」
「了解!」
小隊員達は素早く持ち場へ散っていく。
ラウル達も伐採場周辺の警戒へ就いた。
伐採が始まる。
木を切り倒す音が山へ響く。
ラウル達は定期的に周辺を巡回し、安全確認を繰り返した。
しかし、不審な人影はない。
獣の気配こそあれ、山賊らしき姿も見当たらなかった。
そのまま一日目は何事もなく終了し、一行は作業場のある村へ戻った。
◇
翌日。
再び作業員達を護衛しながら伐採場で警戒を続けていた。
その時だった。
「た、大変です!」
一人の男が息を切らしながら駆け込んでくる。
ラシムが駆け寄る。
「どうした!」
「村に……山賊です!」
「村が襲われています!」
その報告を聞いた瞬間、リシアの表情が変わった。
昨日までとは違う、指揮官の顔だった。
実は出発前から、この周辺では山賊出没の報告を受けていた。
だからこそ、判断は早かった。
「マーク!」
鋭い声が飛ぶ。
「五名残す! 護衛は任せる!」
「残りは山賊討伐へ向かう!」
「了解!」
マークが即座に返事をする。
コルドもすぐに兵を集めた。
「エリック! カイン! 続け!」
次々と名前を呼ぶ。
そしてラウル達を見る。
「ラウル!」
「コルティオ!」
「ナタリア!」
「お前達はここに残れ!」
「了解!」
三人は同時に返答した。
リシアは七名の兵士を率い、コルドと共に村へ向けて駆け出していく。
◇
その姿を見送ったマークは、間髪入れず指示を飛ばした。
「作業員を集めろ!」
「伐採場所を一か所へ集約する!」
護衛対象を分散させない。
それが最優先だった。
作業員達は慌てながらも中央へ集まり始める。
◇
護衛を続けながら、コルティオが小声で尋ねた。
「ラウル。」
「なんで小隊を分けたんすか?」
ラウルは周囲を警戒しながら答える。
「村が襲撃されたからといって、護衛対象を放置はできない。」
視線は森から外さない。
「だからといって、作業員全員を連れて村へ向かうのも現実的じゃない。」
「護衛対象を守る部隊。」
「討伐へ向かう部隊。」
「役割を分けたんだ。」
コルティオは納得したように頷く。
「なるほどっす。」
◇
昼が近付き、作業員達が休息へ入ろうとした、その瞬間だった。
「うああぁぁぁっ!」
悲鳴が山へ響く。
ラウルが振り向く。
一人の兵士が吹き飛ばされていた。
その前には、巨体の男。
身の丈ほどもある大斧を振り下ろしたばかりだった。
兵士の胸元から鮮血が飛び散る。
「密集!」
マークが即座に叫ぶ。
「作業員を中央へ!」
ラウル達はすぐに動いた。
作業員を中心へ集め、その周囲を兵士達が囲む。
マークは迷わず大男へ斬り掛かった。
激しい金属音が響く。
大斧と剣がぶつかり合う。
その隙だった。
「ナタリア!」
「わかってる!」
二人は負傷兵の元へ駆け寄る。
ラウルが兵士の腕を掴み、ナタリアが足を持つ。
二人で中央まで引きずり戻した。
その時だった。
森の奥からさらに数人。
剣や斧を持った男達が姿を現した。
(まずい。)
ラウルは横目でマークを見る。
しかしマークはまだ大男と激しく斬り結んでいた。
こちらへ援護に来る余裕はない。
山賊達が一斉に迫る。
兵士も迎え撃った。
剣と剣が激しくぶつかる。
ラウルも一人と斬り結ぶ。
横薙ぎを受け流し、返す刀で斬り返す。
しかし相手も簡単には倒れない。
数が多い。
◇
その時だった。
マークが大男との距離を取る。
そして叫んだ。
「山を登るぞ!」
その一言だけで全員が理解した。
コルティオはすぐに作業員達へ向き直る。
「みんな! 山を登るっす!」
作業員達は必死に走り出した。
ラウルは山賊を牽制しながら後退する。
兵士も負傷した兵を担ぎ上げる。
ナタリアは周囲を警戒しながら、その退避を援護していた。
全員が少しずつ山へ下がっていく。
ラウルとマークも後ろに下がろうとした
その瞬間だった。
大男が口元を歪める。
大斧を片手で持ち上げた。
そして――
投げた。
「っ!」
巨大な斧が空気を裂く。
避ける間もなかった。
ドスッ――。
鈍い音が響く。
大斧はマークの右脇へ深々と突き刺さった。
「ぐっ……!」
マークの身体が大きく揺れる。
「オベール中尉!」
ラウルは思わず叫んだ。
視線の先では、大男が口元を大きく歪め、にたりと笑っている。
ラウルは迷わず駆け出した。
マークの肩へ腕を回し、身体を支える。
「立てますか!」
「……まだ、動けます。」
そこへナタリアも駆け寄る。
「私も支えます!」
二人でマークを支えながら、山の上へ向かって駆け出した。




