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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

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第十九話 行軍

 王都ラピタルを出発して二日。


 ルミエル小隊の行軍は驚くほど順調に進んでいた。


 本来、新兵訓練で学ぶ長距離移動は徒歩行軍が基本である。


 しかし今回の任務は護衛対象が同行せず、移動距離も長いことから、小隊では荷馬車を二台使用していた。


 一台には水や食糧、予備装備など任務に必要な物資を積み込み、もう一台には小隊員の半数が乗る。


 一定時間ごとに徒歩組と交代することで体力の消耗を抑え、目的地までの移動速度を維持していた。


 ラウルは荷馬車の横を歩きながら、その無駄のない運用に感心する。


(これも隊長の計画か……。)


 二日目にはオスカーナへ到着した。


 補給を終えると一泊し、翌朝、夜明けとともに再び出発する。


 その後も予定どおり行軍は進み、数日後にはオリオルへ到着した。


 しかも予定より半日ほど早い。


「今日は長めに休憩を取る。」


 ルミエルの一言で、小隊員達から小さく歓声が上がる。


 それぞれ思い思いに街へ散っていった。



「ラウル、コルティオ。市場を見に行くぞ。」


 コルド・ルビック中尉が気軽に声を掛ける。


「はい。」


「了解っす!」


 一方でルミエルはナタリアへ視線を向けた。


「少し付き合ってくれる?」


「はい!」


 二組はそれぞれ別方向へ歩き出した。



 市場は旅人や商人で賑わっていた。


 乾物の匂い、焼きたてのパンの香り、威勢の良い商人の声。


 そんな中を歩きながら、コルドは二人へ振り返る。


「初めての長距離行軍はどうだ?」


 ラウルは素直に答えた。


「以前の小隊でも長距離行軍自体は経験があります。ただ……」


 一度周囲を見回し、続ける。


「これほど充実した行軍は初めてです。」


「俺もそうっす!」


 コルティオも勢いよく頷く。


「こんなにも計画的な行軍は初めてっす!」


 コルドは吹き出した。


「お前は変わったやつだな。」


 普通なら疲れたとか飯が美味いとか言う場面で、行軍計画を褒める兵士など珍しい。


 笑いながら肩を叩く。


「でも間違っちゃいねぇ。」


 そして少し誇らしげに言った。


「ルミエル小隊の行軍は数ある小隊の中でも指折りだ。しっかりついてこいよ。」


 ラウルは前から気になっていた疑問を口にする。


「どうしてここまで質が高いんですか?」


 コルドは即答した。


「そりゃあ、ルミエル隊長の行軍計画が凄いからさ。」


 少し照れくさそうに笑う。


「もちろん、俺やマークが副官ってのも大きいけどな。」


 するとコルティオが納得したように頷いた。


「計画が良くても、実行してくれる人がいないと意味がないってことっすね。」


「そういうことだ。」


 コルドは力強く頷く。


「俺たちが隊長を支えることで形になってる。隊長一人じゃここまで上手くはいかねぇ。」


 その笑顔には副官としての誇りが滲んでいた。


 ラウルはその姿を見つめながら思う。


(一人じゃできない。)


(優れた隊長にも支える副官がいて、それを動かす小隊員がいる。)


(組織は、一人では作れない。)



 同じ頃。


 オリオル中心街の食事処。


 昼食の時間帯を過ぎた店内は静かで、落ち着いた空気が流れていた。


 リシア・ルミエルは紅茶を口に運びながら、不意にナタリアへ尋ねる。


「ラウル君とコルティオ君が配属されてきた時、軍学校の同期だって話していたわよね。」


「はい。」


「仲が良いわよね。」


 突然の話題に少し驚きながらもナタリアは答える。


「コルティオは軍学校からの同期です。ラウルは……初等部からの幼馴染なんです。」


「そうなのね。」


 リシアは微笑み、


「で、どっちが好きなの?」


 とさらりと言った。


「ぶっ――!」


 飲んでいた紅茶が危うく噴き出す。


「あらあら、大丈夫?」


 リシアは笑いながらハンカチを取り出し、慌てるナタリアの口元を優しく拭う。


「な、なんて質問を……!」


 顔を真っ赤にして俯くナタリア。


 そんな反応を見てリシアは楽しそうに笑う。


「あら、違うの?」


「え……」


「私はずっとそうだと思ってたわ。」


 ナタリアは観念したように小さく息を吐いた。


「そんなに……分かりやすかったですか?」


「そうねぇ。」


 少し考えた後、


「他の小隊員にはまだ気付かれてないと思うわ。」


 その言葉にナタリアは胸を撫で下ろした。


「よかった……。」


 リシアは紅茶を一口飲み、優しく微笑む。


「あなた、二人が来てからすごく変わったもの。」


「え?」


「特にラウル・ローウェン。」


 その名前を聞いた瞬間、ナタリアの顔がさらに赤くなる。


「対抗心なのかしら。」


「努力の質が一段上がったように見えたわ。」


 ナタリアは少し照れながら笑う。


「初等部の頃から……ラウルは何でもそつなくこなしていて。」


「気付けば憧れていました。」


「軍学校へ入ったのも、ラウルの影響が大きいんです。」


 リシアは静かに耳を傾ける。


「何度か……好意が伝わるように接したこともあるんですけど。」


「全然気付いてくれなくて……。」


 リシアは思わず吹き出した。


「ふふっ。」


「ラウル君、鈍感そうだものね。」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 穏やかな時間はあっという間に過ぎていく。


 ナタリアにとって、そのひとときは久しぶりに肩の力を抜いて過ごせる、心地よい時間だった。



 夕刻。


 休息を終えたルミエル小隊はオリオルを出立する。


 そして行軍開始から八日目。


 一行は予定どおりシュタールへ到着した。


 護衛任務の舞台は、すぐそこまで迫っていた。

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