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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

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第十六話 王国軍

 部屋に入ってきたのは、黒髪の長身の男だった。


 端正に整えられた軍服を身に纏い、銀縁の眼鏡を掛けている。その姿からは隙のない真面目さが伝わってきた。


 男は無駄な動き一つなく壇上へ上がる。


 教室を一度見渡してから、静かに口を開いた。


「午後の新兵研修を担当する、ノイヤー・アシックだ」


 落ち着いた低い声が講義室に響く。


「私は第一軍シュトライザー軍所属、アシック旅団旅団長を務めている」


 一瞬の間を置き、続けた。


「階級は中将だ」


 百名近い新兵達の空気が僅かに張り詰める。


 旅団長自ら講義を担当するとは思っていなかった者も少なくない。


「私が今日伝えるのは、諸君が既に所属している王国軍についてだ」


 ノイヤーは淡々とした口調のまま続ける。


「諸君の未来に関わる話だと思って聞いてくれ」


 黒板へ向き直り、四本の線を書いた。


「王国軍は四つの軍を主力として組織されている」


 そのまま教室へ視線を戻す。


「君、分かるか」


 指名されたのはコルティオだった。


 コルティオは椅子から立ち上がる。


「第一軍シュトライザー軍、第二軍ジルライト軍、第三軍エンデヴァー軍、第四軍ハイム軍です」


 簡潔で淀みのない返答だった。


「その通りだ」


 ノイヤーは短く頷く。


「今日、他の講義室でも私と同様に各旅団長が説明を行っているだろう」


 黒板へ軍の編成を書き加えていく。


「各軍は複数の旅団を保有し、その下に大隊、中隊、小隊が置かれている」


 白墨を止め、新兵達へ向き直る。


「諸君らのほとんどは、小隊へ所属しているはずだ」


 講義室は静まり返っていた。


 誰一人として私語をする者はいない。


「では、もう一つ質問だ」


 ノイヤーは最後列へ目を向ける。


「他にも軍が存在している。それは何か分かるか」


 姿勢良く座っていた男性兵士が立ち上がる。


 少しだけ考え、


「近衛軍です」


 と答えた。


「そうだ」


 ノイヤーは頷く。


「近衛軍は近衛長の指揮下にあり、王国軍とは異なる任務に就いている」


 一拍置き、その言葉を少しだけ強くした。


「国王及び王宮の護衛任務だ」


 新兵達の表情が僅かに引き締まる。


「だからといって出自が違うわけではない」


 ノイヤーは黒板へ五つの役職を書き並べた。


 軍務長。


 医務長。


 工務長。


 訓練長。


 近衛長。


「これらの所属は全て王国軍から辞令を受けている」


 白墨を置く。


「専門分野については、民間から所属している者もいるがな」


 再び教壇の中央へ戻った。


「話を戻そう」


 静かな声だった。


「現状、四つの軍で王国の軍事を支えている」


 しかし、その表情は変わらない。


「四方を他国に囲まれている我が国では、正直、心許ないのが現状だ」


 教室の空気が重くなる。


「だからこそ」


 ノイヤーは新兵一人一人を見渡した。


「諸君らの成長が必須ということだ」


 その一言に、誰も口を開かなかった。


 ラウルは静かに前を見据える。


 軍学校では学ばなかった、現役の旅団長だからこそ口にできる現実だった。


 その後も講義は続いた。


 各軍それぞれの特徴。


 運用の違い。


 部隊が連携する際の基本原則。


 そして軍隊行動の基礎。


 実戦を率いる旅団長の説明は無駄がなく、一つ一つが現場を知る者の言葉だった。


 講義終了の鐘が鳴る。


「以上だ」


 ノイヤーはそれだけ告げると、無駄な挨拶もなく講義室を後にした。


 静まり返った教室には、彼の最後の言葉だけがいつまでも残っているようだった。


「諸君らの成長が必須ということだ。」

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