96.舞踏会①
きらびやかなホールで、色とりどりのドレスを纏った令嬢達が蝶のように舞う。
アレクシス陛下の即位を祝い、各国からの来賓も多数参加していた。
「好、ロイド」
「フェイロン皇子、先日ぶりですね」
フェイロン皇子はラン様を伴い、シュブラン皇国の正装で現れた。
藍色の衣装の素材は最高級の絹で、細かな刺繍が素晴らしい。
特に目を引く刺繍の意匠は、シュブラン皇国王族の象徴たる龍だ。よく見ると、爪は3本である。皇帝になると、この爪が5本になるらしい。
「この前のイスタークとの試合は痺れたよ!やはり、シュブラン皇国に欲しい人材ね」
「ありがとうございます」
俺は一礼する。
「ランも、前のめりで見ていたね」
「主。アレを見させられて、興奮しない男はいないでしょう」
「是。確かに…」
「楽しんで頂けたようで、何よりです」
そう、にこやかに答えていると、フェイロン皇子の目が見開かれる。
「あの武器…。我はまだ諦めたワケでは無いからな」
こちらをジッと見つめてくる。
やはり、一筋縄ではいかない人物だな。
「…そうですね。フェイロン皇子の龍が5本爪になったら、陛下に掛け合いましょう。但し、一振りだけですよ?」
「ケチだな」
フェイロン皇子が口を尖らせた。
「だって、5本爪の龍はこの世に一匹だけですよね?」
俺の回答に驚いた顔をした後、ニイッと口角を上げる。
「フフフ…。ロイド・ウィラー、やはり惜しい人物だ!アレクの側近であることが残念でならない。これは、死ぬ気で勝ち抜けなければ…」
やる気になってくれて良かった。
数ヶ月後には、フェイロン新皇帝が誕生する可能性が高くなったな。せっかく今回の滞在で結んだ縁だ。有効活用しなければ勿体ない。フェイロン皇子には、頑張って貰おう。
「では、我はアレクにでも会いに行ってくるか」
そう言って、フェイロン皇子は去って行った。
すると、今度はラン様が声を掛けてくる。
「ロイド様。主の心に火を点けていただき、ありがとうございます。実は主はこちらに来る前、激しい選挙戦で心が疲弊していました」
「そうだったのですね」
ラン様がその時の事を思い、顔を曇らせる。
シュブラン皇国の選挙戦は、泥仕合だと聞く。
この期間に、暗殺される人も多いのだとか…。
それだけ『皇帝』の椅子には犠牲が伴っているという事だ。
「主は能力があり、人を惹きつける才能がありますが、欲が無い。この選挙戦も、嫌々参加されていました」
「フェイロン皇子は、お姉様のリオウ皇女を推していましたからね」
ラン様が驚いた顔をする。
「なんと、そこまで!ロイド様には、隠し事はできませんね」
ラン様が観念したように話し始める。
「そうです。リオウ様は主と特に仲の良い姉弟で、とてもお優しい方なんです。周囲の者の言葉に耳を傾け、ご自身の足りない部分は、能力が適した者に信じて任せる事が出来る稀有な方です。一人で何でもやってしまう主とは、まったく違うタイプなのです。だからこそ、お互いを尊敬しあっていた…」
そこで、話を区切る。
何かあったのだろうか?
「しかし選挙戦が始まって、リオウ様の婚約者が毒を盛られたんです」
「なんと…」
「犯人は、主に肩入れしている貴族でした」
「それは…」
何と声を掛けていいのか分からない。
フェイロン皇子が一番慕っている姉の婚約者に、自分の仲間が毒を盛るなんて…。
「幸い、一命は取り留めましたが、主は、あんな屍で出来ている椅子など欲しくない!と騒がれ…」
「辞退することは出来ないのですか?」
ラン様は首を横に振る。
「選挙戦は皇族の義務です。辞退は認められていない。死にかけでも、引きずり出されます」
「そうなんですね」
厳しい世界だ…。
「ただ、それを叱責したのがリオウ様でした」
凄いな、リオウ皇女。
「毒を盛られる事など想定内だと…。覚悟が足りなかった婚約者が悪い、と仰られたんです」
ますます凄いな!
「皇帝が病に倒れたのも重なった為、ウジウジしていた主をこちらに遣わしたのもリオウ様でした。リオウ様は、アレクシス王子の即位で、主の気持ちが少しでも前向きになればと思われたのです」
「立派な方ですね」
ラン様もコクリと頷く。
「リオウ様は、お互いを尊敬しているからこそ、正面からぶつかって勝負したいと思われているようでした。その気持ちが欠片でも主に伝わればいいと私も思っていました」
そうだったのか…。
そこまでは情報が入ってこなかったな。
これがリオウ皇女の手腕という事か…。
「そして、思わぬ収穫を得たのです。ロイド様とショウ王子の戦いとロイド様とイスターク様の戦いで、主の目が覚めたようです」
「あんな事でですか?」
「本気のぶつかり合いをやってみたくなったんだと思います。これで、主は迷う事はないでしょう。皇帝の薬の件と合わせまして、本当にありがとうございました」
そう言って、ラン様は深々とお辞儀をしてきた。
「良い報告をお待ちしていますよ」
「謝謝」
立ち去るラン様を見て、年明けの次期皇帝発表が楽しみになってきた。
一振りだが、陛下に武器輸出の許可を取らなければな。
フェイロン皇子の事情でした。
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