95.舞踏会の前に…
アレクシス陛下が、バルコニーから国民に姿を見せる。
新しい王の誕生に、国民は湧いた。
もちろん、陛下の見目が良い事も十分に加味されているだろうが…。
しかし直近の都市改革など、国民の生活を豊かにする政策が受け入れられている事も事実だ。
皆、アレクシス陛下に期待しているのだろう。
国民一人一人が我が国を誇れるように、俺たちも頑張らなければな。
国民に手を振るアレクシス陛下を見ながら、俺も決意を新たにした。
「陛下、次は舞踏会になります。少し、時間が空いたので何かつまめる物を用意しましょう」
「ロイド、助かる…」
ソファにぐったりと凭れ、アレクシス陛下は天を仰ぐ。
「まじで、こんなに大変だとは思わなかった…」
「挨拶の連続でしたからね」
挨拶にて次ぐ挨拶で、陛下の脳はパンクしていた。
何しろ、謁見の人数が多い。
こちらのフォローもギリギリの状態だった。
「でも、まだ当面は父が宰相に留まってくれますから」
「ホント、それな!めちゃくちゃ助かる!むしろ父の公務のほとんどは、ウィラー公爵の手腕があってこそだから!恥ずかしい話だけど…」
陛下がそう言うのも無理はない。
前王ヴィクトール公の裁可の前には、必ず父の根まわしがあった。前提となる資料と複数のプランを用意し、その中で最善となるものを摘み取って貰っていたのだ。
ヴィクトール公の『直感力』はとても優れたものがあったが、事前調査を疎かにするフシがあった。
そこをフォローしていたのが父である。
調査方法やプラン策定のプロセスなど、俺もまだまだ学ぶ事が多い。これからみっちり仕込まれるのかと思うと、ゲンナリする。
コンコン。
ノックの音がした為、入室を促す。
すると入ってきたのは、ワゴンを押したユリアとイスタークだった。
「はぁ〜…、参った!」
イスタークが疲れた顔でぐったりしている。
「どうした?イスターク」
陛下が聞く。
「どうもこうも、陛下とお近づきになりたい連中が群がってきて…、振り切るのに苦労したって話ですよ」
「あぁ…。お疲れ」
陛下が遠い目をしている。この後は舞踏会だからな。
謁見より距離が近くなる分、どんな展開が待っているのか想像したのだろう。
目が死んでる…。
俺は陛下の栄誉補給のため、ユリアが持ってきたワゴンから一口サイズのサンドイッチを乗せた皿を取ると、陛下の口にサンドイッチをねじ込む。
「ホ、ホイロ?!」
「食べないと体が保ちませんよ?」
その言葉で、もぐもぐと大人しく咀嚼し始めた。
ヨシヨシ。
「イスタークも食べろ。これから舞踏会だからな」
「ありがたい。そうするわ」
イスタークもむしゃむしゃと食べ出した。
「ロイド様、追加を持ってきた方が良いですか?」
ユリアが聞いてくる。
「そうしてくれ。おそらく、クリストフとヨハンも来るだろうから…」
バンッ!
言うが早いか、扉が開けられる。
「クリストフ…。ノックくらいしろ」
ギロリと睨むと、泣きそうな顔で訴えて来る。
「命からがらだから!許してロイド!」
「そうです、ロイドさん!着飾った香水臭い令嬢達が、ハイエナのように追って来てたので…」
「ほういう事?」
陛下がもぐもぐしながら聞く。
リスみたいだな…。
「陛下、みんな側妃狙いです」
「中には正妃狙いもいます」
ブフッ!
「陛下、汚いです」
「ゴホッゴホッ…。だって!えぇっ!?」
俺はお茶を渡しながら陛下に忠告する。
「まぁ、でしょうね。正妃はクロエに決まっていますから、よっぽどウィラー公爵家に盾突きたい輩か、馬鹿者でない限り狙いにいかないでしょう。それに王妃教育は過酷ですしね。ただ、側妃は別です。一定の教養は必要ですが、厳しい王妃教育も無く、贅沢が出来る。しかも寵姫となり王子を生めば、実家も後見として権勢を誇れますからね」
「俺は、クロエ以外を娶るつもりは無いからな!」
陛下がきっぱりと宣言する。
「しかし、世継ぎを生めなければ、側妃を迎えろと突っつかれますよ?」
「その場合は、アナに譲位する。子どもが出来ないのは、二人の責任だろ?俺は、クロエを犠牲にしてまで王位にしがみつきたいとは思わない!」
………。
本当にこの人は…。
「クックック…、やられたなロイド。だからこそアレクシス陛下は忠誠を誓うに値する人物なんだ」
イスタークがニヤニヤしながらそんな事を言ってくる。
「本当ですね。王としてという以前に、人として魅力的なんですよ、陛下は」
「えっ?今、俺褒められてる?」
陛下が嬉しそうにこちらを見る。
「こんな事を言うのは烏滸がましいですが、褒めてます。戴冠式で宣言された通り、陛下の献身がこの国をもっと良くしていきそうですね」
俺は思った事を述べる。
すると、陛下は顔を赤くして黙ってしまう。
「おや?恥ずかしいんですか?」
「そりゃそうだろ。滅多に褒めないロイドが褒めるんだから」
「兄貴も同じような事、言ってたけどね…」
「陛下は、とても立派です。僕も陛下のお役に立てるように頑張りますよ!」
みんなが口々にそんな事を言うので、陛下の羞恥心は限界点に達した。
「あぁ!もう、お前達!これから死ぬ程こき使ってやるから覚悟しろよ!」
照れ隠しで陛下が強がる。
これに対する皆の返事は決まっていた。
『もちろん!残業代は、はずんでくださいね』
すみません。
舞踏会まで、辿り着けなかったです…。
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