88.男のプライド
次の日、騎士団訓練場。
俺が来る前にショウ王子は来ていたらしく、ミレン辺境伯こと、エドワード卿と共に俺を迎える。
気合い入ってるな…。
事前に得た情報によると、最初の頃に比べ、めきめきと力をつけてきたようだ。
エドワード卿からも、その根性を認められており、騎士団でも音を上げる訓練を黙々とこなしているらしい。
発展途上の能力だが、エドワード卿から送り出されるくらいには成長したという事か。
あの人、実践訓練大好きだから、俺と戦わせる事によって更なる能力の開花を狙っているんじゃないか?
やれやれ…。
この戦闘ですら成長を促す糧とは…。『シナリオ』というヤツは底が知れない。元々油断などしていないが、気を引き締めないと『まさか』が起こりそうだ。
俺は纏う雰囲気をピリつかせる。
そして一寸の隙もなく、ショウ王子に対峙した。
俺の雰囲気が変わった事に、エドワード卿はニヤニヤとしていた。ショウ王子も、以前とは違う俺の圧に少し怯んでいる。
「ロイド、気合い入ってるな!」
エドワード卿が日に焼けた顔でニカッと笑う。
「レティがかかってますから。負けるワケにはいかない事、わかっていらっしゃるでしょう?」
俺は、義父に対して鋭い目を向けた。
「いいねぇ…、流石は俺の見込んだ婿殿だ。俺も一戦、交えたくなってしまうよ」
エドワード卿も、俺に対して圧をかけてくる。
必然的に、俺と卿が睨み合う形になってしまった。
だが、戦闘狂のミレン辺境伯家現当主の覇気は、圧倒的な恐怖を伴っていた。巻き添えで、周囲のギャラリーが数人気を失うのが見えた。
「親父…。ロイドの相手はあんたじゃないだろ?」
イスタークの言葉に、エドワード卿は雰囲気を和らげる。
「おお、イスト。今日は宜しく頼むぞ」
「分かっている」
エドワード卿の一声により、今回の審判はイスタークが頼まれていた。卿は、ショウ王子側のセコンドにつくため、今回は審判を受けられないという事だそうだ。
ショウ王子は、戦略については良い軍師を手に入れたようだ。
「けど、そういうイストもロイドと戦いたそうだな?」
エドワード卿がニヤニヤしている。
この表情…、めちゃくちゃイスタークに似ている。
親子だなぁ。
「まぁ、それは否めない。本気のロイドと戦うなんて…、考えただけでも興奮する」
何故かイスタークにまで好戦的な目を向けられた。
俺の相手は貴方達では無いんだが。
ふと、観客席にいるクリストフとレティを見ると、同じような目をしていた。
ミレン辺境伯家の血筋って…。
「それで、武器は何でもいいんですよね?」
「あぁ。得意なモノを使ってくれ。ロイドは槍か?」
イスタークに確認される。
「はい」
俺は、騎士団から槍を借りる。
「ショウ王子は何にされます?」
イスタークが今度はショウ王子に確認する。
「僕も槍でお願いします」
「本気ですか!?」
「はい」
イスタークが驚いて確認するのも無理はない。
槍は俺が最も得意とする武器だからだ。
元々、槍は剣より有利だ。
リーチが長い分、攻撃範囲が広い。俺のように高身長になれば、更に攻撃範囲が広がる。
そんな槍術に対抗するなら、低姿勢、高速スピードを活かした剣術か飛び道具しかない。
訓練場で銃や弓などの飛び道具は使えない為、小柄なショウ王子の体型を鑑みると、盾を構えて剣で戦うのが定石だろう。
しかし、槍を選ぶとは…。
「ショウ王子、何故槍なんです?」
俺は質問を投げかける。
「何故って…。ロイド様の得意な武器で戦って勝たないと、意味が無いと思ったので」
俺を見て、そう答える。
なんだ、つまらないプライドか…。
正直、俺は少し興が削がれた。
本気でレティを俺から奪いたいのなら、形振り構わずに来て欲しかった。
俺なら間違いなくそうする。
本当に欲しいモノを得るのに、己の矜持を優先するとは…。
物語のヒーローにでもなったつもりなんだろうか?
…あぁ、そういえばコイツが主人公の物語だったな。
はぁ……、
こんな相手には絶対に負けられない…!
対等な対戦者としての興が削がれたが、真に叩き潰す相手としては申し分無さそうだ。
いいだろう、全力で殺ってやる!
俺の意気込みの種類が変わった事に気付いたイスタークが、コソコソとエドワード卿に確認している。
「親父…、本当にいいのか?ロイドのヤツ、本気で殺る気だぞ?」
「仕方ないさ。俺も止めたが、本人が槍がいいって言うんだから。少しは立ち会えるようには仕立てたが、この様子じゃどこまで保つか…。死んだら外交問題だ。頼んだぞ、イスト!」
「なっ!コレを見越して俺に審判させたのかよ親父!」
「お前なら止められるだろ?ちゃんとお前の愛用のバトルアックスも用意させてるから」
「そういう問題じゃねぇよ!卑怯者!」
「何とでも言え!俺は我が身が可愛い!」
「クソッ!」
「話は終わりましたか?」
二人が盛大に驚く。
いや、全部聞こえているんだがな。
「死なない程度には加減しますが…。イスターク、あとはよろしく」
「あぁ!もう、わかったよ!けど、もしもの時は全力で止めるからな!」
そう言うと、イスタークは大声を張り上げる。
「俺のアックスはどこだ!!」
騎士団が二人がかりで、イスターク愛用の武器を持ってくる。イスタークの斧は大きさも然ることながら、重さが50キロある。大きくて重い部類のポールアックスでさえ2キロ前後なのに、ヤツはそれを片手で操る。
化物だな…。戦場の死神の名は伊達じゃない。
ショウ王子を見ると、驚きすぎてポカンと口をあけていた。
「では、ショウ王子!ロイド!用意はいいか?」
『はい!』
お互いが定位置につく。
イスタークが呼吸を一拍置き、合図する。
「始め!!」
イスターク、めちゃくちゃ使いやすい(笑)
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