83.嵐が去った後にまた嵐
「いや〜、それにしてもあのヴェルン副団長がなぁ…」
イスタークの一言に激しく同意だ。
「イスターク、一途な事はいい事じゃないの?俺達だってそうだろう?」
「確かにそうですね、殿下」
考えてみれば、俺達も一途だ。5年間(イスタークはもう少し長いけど)、他の女性に目もくれず、只管己の婚約者のみに愛を捧げてきた。
というより、この国の男は皆、一途で執着気質だと思う。
この国は大陸の中央にあり、今のような軍事力を持つ前は略奪されてきた歴史がある。
資源や食料は勿論のこと、ヒトも奪われてきた…。
愛するヒトを奪われる悲しみは、如何ほどのものだったろう…。
侵略の歴史があるからこそ、自分の掌中の玉には殊更に愛情を抱くし、執着もする。
それがミストラル人の特徴であった。
「まぁ、ヴェルン副団長のことです。いくら執着してても、アナスタシア殿下に無体は働かないでしょう」
「いや、されたら困るよ!アナは成人前の王女だから!ロイド、物騒な事言わないで」
「失礼しました」
そんな時、エイダ王女がこちらを訪れると先触れが来た。
何の用だろうか?
暫くしてエイダ王女がやって来る。
「アレクシス殿下、本日もご機嫌麗しく…」
「いや、そういうのもういいんで!恥ずかしいです」
「あら?私は結構気に入っているんですが」
「元・日本人なのによくできますね…」
「ホホホ…。慣れですわ!」
エイダ王女が前世持ちという事もあり、アレクシス殿下もリラックスして話に応じている。
「それで、今日はどうしたのですか?」
「先程まで、こちらにヴェルン副団長が来ていませんでしたか?」
「よくわかりましたね。さっき退室したばかりですよ」
「どんなご様子でした?」
うん?
何でこんなに前のめりで聞いてくるんだ?
ワクワクが全身から溢れているんだが…。
「混乱していましたが、嬉しそうでしたよ」
「キャー!やっぱり!これは、皆さんにお知らせしなければ!」
「えっ?皆さんて?」
「私達、『アナスタシア王女の行く末を見守る会』の会員なんですの」
いつの間にか、変な会が発足している。
誰がそんな珍妙な会に入っているんだ?
「ちなみにメンバーは…?」
「私と、ユリアさんと、クロエ様、スカーレット様、ガブリエラ様、イザベラ様、シルヴィア様よ」
俺達の婚約者じゃないか…。
アレクシス殿下を始め、全員が項垂れた。
「アナスタシア王女とアレクシス王子の仲を取り持とうと、皆さんでお茶会をしたらこうなりましたの。やはり、失恋にはあたらしい恋ですから!」
「えっ!ちょっと待って下さい!失恋て?」
「アナ様、アレクシス殿下の事がお好きだったみたいですよ。でも、ご兄妹ですから…。その気持ちを忘れる為に、あのような態度になってしまっていたそうです」
あ〜、クロエも昔そうだったな。
俺と結婚すると言っていたからなぁ。
懐かしい…。
「え〜…、初耳なんですけど。というか、キチンと俺の依頼を覚えていたんですね」
「当たり前ですわ。取引なんですから、キチンと成立させなければ!」
「律儀にありがとうございます」
アレクシス殿下がお礼を言う。
しかし、長年のわだかまりが分かって良かった。
今のところ、アナスタシア殿下が王位継承権2位だからな…。
アレクシス殿下の地盤が盤石とはいえ、用心するに越したことはない。
「それで、失恋には新しい恋という事になったんですね」
「そうですわ。アレクシス王子も身に覚えがあるのではなくて?」
「う〜んまぁ、確かにそうかもしれませんね…」
「あら?歯切れが悪いですね。もしや、前世ではモテなかった…」
「いやいや!学生時代から合わせれば、片手以上は付き合いましたよ!」
「お亡くなりになったのは何歳だったんですか?」
「25歳ですね」
「まぁ!では、とっかえひっかえですか!?」
「昔はですよ!…でも、死ぬ前に付き合った彼女とは割と長かったですね」
殿下がちょっとしんみりしている。
思えば、前世の恋愛話をちゃんと聞くのは初めてだな…。
「では、最期の彼女さんはとても悲しんだでしょうね…」
だろうな…。
長く付き合った相手が急死するなんて、オレなら耐えられない。
しかし、殿下は決まりの悪そうな顔をしている。
「いや〜それが…、死ぬ直前に振られまして。俺は結婚するつもりだったんですけど、仕事が忙しくてあんまり構ってあげられなかったから。自分の国にいるのも年に数回という状態だったんですよ」
「まぁ…」
「真奈…、あぁ『元カノ』なんですが、彼女には付き合っていた時も、別れた後も、辛い思いをさせてしまった。情の深い女だから、別れた後の俺のこともきっと気にかけていたと思うんてすよね。俺の事なんか忘れて、幸せになっているといいんだけど」
「そう簡単に忘れられないですよ!」
「えっ?」
急にエイダ王女が大きな声を出し、みんなが驚く。
「失礼しました。いえ、お話を伺っていると、お二人共全力で真剣に付き合っていたんだと思います。結婚まで考えるくらいですからね。そんな相手を簡単に忘れられるワケがないじゃないですか!亡くなってしまった事は悲しいですけど、交際中の思い出まで捨てさせようとするなんて、生者を馬鹿にし過ぎです。そんなものは死者のエゴですよ。『想い』の選択権は、常にそれぞれにあるのですから!」
死者に自我があるのかは分からないが、確かにその通りだと思う。自分の『想い』は自分のものだ。決して、他人に干渉されるものではない。
挫けても挫けても、自分さえ諦めなければ『想い』が消える事は無い。
だからこそ、厄介だ…。
俺は、エイダ王女の話を聞きながら、ある人物を思い出していた。
「もしや…。エイダ王女は、真奈…?」
「いえ、違います!私は、景織子です」
「ですよね〜。真奈は税務署職員じゃ無かったから」
アレクシス殿下は、ちょっとホッとしたような顔をする。
「ちなみに、真奈さん?は、何の職業だったんですか?」
「ん?ロイド、気になるの?」
「いえ、何となく…」
「真奈は、女優なんだ。エイダ王女、知ってるかな?月越真奈っていう芸名だったんだけど…」
「はぁぁ〜!!私が一番好きな女優さんなんですけど!」
どうやら、エイダ王女の『推し』だったようだ。
商社マン、税務署職員、農学部学生に女優…。
まったく縁が無い!(笑)
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