76.衝撃
「ただいま」
『お帰りなさいませ、ロイド様』
使用人たちが一斉に挨拶をしてくる。
しかし、その中にレティの姿が無かった。
「レティは?」
「スカーレット様は、サロンで旦那様と奥様と一緒にいらっしゃいます」
「わかった」
「お食事は?」
「あ〜…、軽いものをサロンに」
「かしこまりました」
俺は上着を預け、サロンへと向かう。
良かった。
昨夜のダメージをまだ引き摺っていなくて…。
レティが復活している事を聞いて、俺はホッとした。
サロンに足を踏み入れると、レティが父と母と談笑していた。
俺に気付いた父が声を掛ける。
「ロイド、お帰り」
「ロイ様、お帰りなさい」
「お帰り。あら?今日は遅いのね」
父につられ、レティと母も気付いた。
「ただいま帰りました。今日は仕事が立て込んでいたので」
「来週にはもう、アレクシス殿下の即位戴冠式だからな。最後の大詰め作業か?」
「そんな所です。宰相である父上も忙しい筈なのに、随分お早いお帰りですね?」
「私は仕事が出来る男だからね」
得意気にそんな事を言ってくる。
嘘つけ…。
俺は知っているからな。
次世代への引き継ぎと称して、こちらに仕事を振ってきているだろう?
大量の資料だけ寄越して、現場作業は俺達に丸投げだからな…。
俺はジト目で父を見る。
しかし、そんな視線をものともぜず、父は泰然と微笑んでいた。やはり、年季が違うか…。
俺はため息を一つつくと、3人に向き直る。
「それで、こちらで何を楽しそうにしていたんですか?」
「あぁ、これよ」
そう言って、母が出してきたのは姿絵だった。
随分古いものもある。
「これは?」
「あなた達の小さい頃からのアルバムよ」
うわっ…。恥ず…。
我が家の両親は、とにかく子の成長の姿絵を残したがる。
そのため、俺とクロエは苦労した。
絵師を呼んで、何時間も同じポーズをさせられるのは、子供にとっては苦行以外のなにものでも無かった。
俺はあの時間が何よりも嫌いだった。
「小さい頃のロイ様、本当に天使のようにお可愛らしいですね」
レティが頬を紅潮させながら、食い入るように見ている。
「それ、そんなに面白い?」
「とっても素敵です!」
う〜ん…。レティが喜んでいるから、まぁいいか。
「しかし、なぜアルバムなんて…」
「ロイドとクロエが小さい頃、どんなだったのかを思い出したくなっちゃったのよ〜」
「そうですか…」
唐突だな…。
いったい、どうしたと言うのだ。
俺は手酌でテーブルにあるワインをグラスに注ぎ、口をつける。
おっ?結構いいモノだな。
父秘蔵のワインか?
「殿下が即位されれば、代が変わって私も少しは仕事が落ち着くからな。今回は子育てに参加できるかもしれん」
……は?
「男の子かしら?女の子かしら〜?どちらにしても可愛いでしょうね〜」
……え?
「楽しみですね!赤ちゃん」
……はぁ〜〜!?
ゴキュ!
「ゲホッゲホッ、ゴホッ…」
「ロイ様、大丈夫ですか!」
レティが背中をさすってくれる。
俺は涙目になりながら彼女を見た。
レティさん…。
あの一晩では、子どもは出来ないですよ…。
間違いを訂正しようとした時、母の声が掛かる。
「あらあら、あわてんぼうのお兄様ですねぇ」
……えっ?
そう言って、母が自分の腹を擦る。
「ロイド、喜べ。お前の弟か妹ができたぞ」
はぁ〜〜!!!
何してるんだ両親!
「父上…。俺達には、イロイロ言った癖にご自分はどうなんですか?」
「はて、何の事だ?」
とぼけやがって…。
「まぁまぁ、ロイ様。お二人共、寂しいんですよ。クロエはもうすぐ王宮に行ってしまいますし、私たちも結婚したら別邸に移ってしまいますからね」
そうなのだ。
俺とレティは結婚後、同じ敷地内の別邸に移る事になっている。
「しかし…」
「義理の娘の方が優しい…」
「公爵位、レティにあげようかなぁ…」
「そんなの恐れ多いです!ロイ様以上に公爵に相応しい方はいらっしゃいません!」
はぁ…。
寂しさを紛らわせるために、子どもを作られたらたまったものじゃない。
今回限りにして欲しいものだ。
「父上、冗談言わないで下さい。公爵位は何があっても俺が貰いますよ。レティを幸せにするためにね」
「フッ…。そうか、頑張れ」
穏やかな目で両親が俺たちを見る。
これから、もっと頑張らないとな。
「あっでも、あなた達も早く子ども作りなさいね。私たちの子と兄弟のように育てたいから」
「……母上〜」
いい雰囲気がぶち壊された。
でもまぁ、なるべく期待に添えるように頑張ろう。
ルーカス・ウィラー(父)はさすがです(笑)
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