71.噂の正体
イスターク達の寸劇を見て、放心しているレティの背後にまわる。そして座っているレティを、後ろから囲うような形でテーブルに両手をつく。レティの耳元に顔を寄せ、俺は拗ねたような声で囁いた。
「俺の愛を疑うなんて…。レティはなんて酷い女なんだ…」
レティは顔を真っ赤にして、耳を押さえる。
俺の瞳とかち合うと、絞り出したような声で俺の名を呼ぶ。
「ロ、ロイド様…」
「ロイドなんて他人行儀な。俺は片時もレティの心から離れた事は無いというのに…。それなのに君は俺に対して、こんな仕打ちをする。裏切り者め…」
ちらりとショウ王子を見てから、瞳と言葉に嫉妬の色を滲ませて話す。レティの顔に歓喜の表情が現れた事を俺は見逃さなかった。
良かった…。本当に心から嫌われたワケじゃなかったんだ。
ただ、その様子に憤慨した人物がいた。
ショウ王子だ。
ショウ王子は、テーブルに両手を叩きつけて立ち上がり、俺を糾弾した。
「裏切り者はどちらなんですか、ロイド様!レティはすごく心を痛めているんですよ!」
俺はショウ王子に顔を向け、極上の笑みで答える。
「へぇ。レティは俺の事で心を痛めているんですね。彼女の心を支配しているのが、俺への感情で良かった」
「なっ!」
自分で言ってて、なんて傲慢で独占欲に塗れている発言なのかと思う。
だが、本心なのだから仕方ない。
「それに…、あの通り俺と噂になっているイスタークは、ガブリエラ嬢を不同不二の存在だとしている。俺が入り込む余地なんてあるワケが無い。俺にとってのレティも同じです。確かにあの小説のモデルは私達ですが、話の内容まで現実と一緒だと勘違いしないで欲しい!」
「…っ」
俺の剣幕に、ショウ王子が黙る。
やはり、あの小説の存在を知っていたか…。
「こんな時にレティを狙うなんて…。案外、性格が悪いのですね?ショウ王子」
「うっ…」
ショウ王子が顔を逸らした。
後ろめたいという気持ちはあったんだろうな。
「ロイ様…。それは本当なんですか?」
近くから、レティの問い掛ける声がした。
俺は邪気の無い顔で、肯定する。
「そうだよレティ。あの噂は根も葉も無い話さ。そうですよね?エイダ王女」
「えぇ、そうね」
「エイダ王女!?」
レティが慌てて立ち上がり、カーテシーを披露する。
公爵家に来てから礼節が板につき、見事なものを見せてくれた。
ガブリエラ嬢も慌てていたが、イスタークががっちり抱き締めているため、ままならない。
「お忍びなの。そういうのは結構よ」
エイダ王女の許可が出て、礼を解く。
お忍び?
バッチリ目立っていたから、もう遅いと思うが…。
「あの話は出鱈目よ」
エイダ王女がきっぱりと宣言してくれる。
「エイダ王女、なぜそんな事をご存知なんですか?」
ショウ王子が聞く。
「だって、あの作者は私なんですもの。お話の内容も、全て私の妄想よ」
『えぇぇっ!!!』
カフェの客も含め、その場にいた全員が驚く。
まぁ、今をときめく新進気鋭の作家、アパッシオナート先生がエイダ王女だとは誰も思わなかっただろう。
「ホホホホホ…。この反応を見るに結構な方が読者になってくださっているようね」
エイダ王女改め、アパッシオナート先生は朗らかに笑う。
俺はエイダ王女にコソコソと聞く。
「良いのですか?正体を明かしても」
「いいのよ。早くても今月末には、私はこの国にはいないもの」
「それはそうですが…」
「ロイド様は、もしかして私とルディの事を心配なさっているの?」
「えぇ。まぁ…」
彼女の小説には、ルドルフ王子も登場するからな。
「こんな事で怯むような婚約者なら要りませんわ。これはルディへの試練だとでも思って下さい。私が欲しければ、これくらい乗り越えてみせろ、というね」
そう言って、エイダ王女はウインクする。
どこまで計算していたのか…。
本当に策士だな。
オルフェル連邦国が、王族と政治に距離があって良かった。
彼女が政治の中枢にいれば、間違いなく手強い敵になったであろう。
「不同不二」とは、一つのもの・二つとない・同じものが存在しない、という意味です。
唯一無二を調べていた時に、類義語として出てきました。
素敵な意味だったので使ってみました(笑)
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