64.更に事件
なんだろう…。
やけにアレクシス殿下が張り切っている。
仕事を早く終わらせる事に異論は無いが、急にやる気を出していて気持ち悪い。
昨日、クロエと何かあったのだろうか?
「なぁ、ロイド。殿下、やけに張り切ってないか?」
「イスタークもそう思いますか?でも、やる気があるのはいい事なので」
「仕事の鬼だな、お前…」
「早く帰りたいのに、公務が増えて大変ですから」
「あぁ…、そういう…」
イスタークが察した。
俺の原動力は、いつだってレティだからな。
今だって、泣く泣く仕事をしている。
コンコン。
ノックが聞こえた。
「誰です?」
「ヘイムダルです」
俺は扉を開ける。
そこには、ヘイムダルだけではなくユリアもいた。
昨日と違って、スッキリした顔をしている。
少しは落ち着いたようだな。
殿下もユリアに気付いた。
「ユリア、調子はどう?」
「だいぶ良くなりました。昨日はご迷惑をおかけしました…」
ユリアが深々と頭を下げる。
「いや、いいよ。ユリアには刺激が強すぎたんだから」
「私は、この世界を甘く見てました。転生してからは、楽しいことばかりを享受していましたから…。『生きる』って、辛い事や悲しい事、痛い事なんかもあるという事実を忘れていたようです…」
「そうか…」
「ヘイムダル頭領がイロイロ教えてくれました。そして、プラスの感情もマイナスな感情も、自分の存在を肯定してくれる重要な要素だと気付きました。前世のユリアはもういないけど、ユリアの心はココで生きています。私は、私なんですよね」
ユリアが真っ直ぐに殿下を見る。
何か吹っ切れたようだな。
この世界に順応しているように見えて、フラフラとどこか浮世離れしていたユリアが成長したようだった。
「それがわかったなら良かったんじゃない?頑張れよ!」
「はい!」
元気よく返事をして、ユリアはヘイムダルと執務室を出ていった。
「ロイド…」
「はい、殿下」
「さっきのユリアの話なんだけど…」
「良い返答でしたね」
「俺…、全っ然!ユリアが何言ってるか分かんなかったんだけど!」
『えっ?』
俺だけでなく、イスターク、クリストフ、ヨハンも突っ込む。
「どういう事ですか?!めちゃくちゃいい感じの話ッスよ?」
クリストフにもこんな事を言われている。
終わってるな…。
「いや、実は仕事に集中しすぎて話を聞いていなかったんだ…。正直、最後の『私は、私なんですよね』しか聞いてなかった」
「それであの返事が出来るなんて…。殿下は天才ですか?」
ヨハンも呆れている。
「いや〜、そうかなぁ」
「殿下、照れないてください。これはヨハンの嫌味ですよ」
「えっ!」
「違いますよ!言葉通りに受け取ってください!」
ヨハンが慌てる。
ホントかなぁ?
「仕事の出来る上司がいて、私は頼もしいですよ」
イスタークが、ちゃっかり殿下を持ち上げていた。
そんな中、またもやノックが響く。
最近、みんな仕事をココに持ち込みすぎだ。
ここは駆け込み寺じゃない!
「どうぞ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、イスタークの婚約者のガブリエラ嬢であった。
「どうしたんだ、ギャビー。寂しくて俺に会いにきたのか?」
普段聞けないイスタークの甘い声が響く。
イスターク…、めちゃくちゃガブリエラ嬢に惚れてるな…。
顔が崩れている。
いつものキリッとした、人を目で殺せるような顔が、デレデレとだらしない。
反対にガブリエラ嬢は、垂れ目を鋭く吊り上げて、怒っているようだ。
美人が怒ると、迫力が凄い。
「イスターク!」
「なんだい?」
バチンっ!!
いきなりガブリエラ嬢がイスタークをビンタした。
イスタークも呆気にとられている。
「私、暫く実家の方にいるわ!私が納得する理由をきちんと説明して貰わない限り、辺境伯家には戻らないわよ!」
ガブリエラ嬢は早口でまくし立てると、クルリと殿下の方に向き直る。
「お仕事中、失礼しました」
そう言って綺麗なお辞儀をすると、すぐに部屋を出て行ってしまった。
後に残されたイスタークは放心している。
「兄貴…、大丈夫か?」
クリストフが気遣う。
「……」
「何?」
「大丈夫なワケあるか!ギャビーが出ていったんだぞ!」
「そうみたいだねぇ〜…」
「もう、俺はおしまいだ…。このまま朽ちて死ぬんだ…」
そう言って、部屋の隅で小さくなる。
ジメジメと暗過ぎて、キノコでも生えそうだ。
あの自信家のイスタークが落ち込んでいる。
こんな事があるなんて…。
明日は、槍が降るかもしれない…。
イベント目白押しですね(笑)
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