65.sideスカーレット④
いつものように騎士団の訓練場で汗を流した後、私は公爵家ヘ帰るために廊下を歩いていた。
すると、王宮の中庭に通じる所で誰かが泣いているのに出くわす。
よく見ると、見知った人物であった。
「ギャビーお義姉様?」
声を掛けると、お義姉様が振り向く。
お義姉様は、同性でも思わずドキッとしてしまう表情で泣いていた。
私は思わず駆け寄る。
「お義姉様!どうされたのですか!誰かに何かされたのですか!?」
私は怒りが湧いてくる。
ギャビーお義姉様は、小さい頃にイストお兄様の婚約者になってくれた方だ。領地が隣の、バートレット侯爵家のお嬢様である。
上に野生児の兄しかいない私にとって、小さい頃から遊んでくれる憧れのお姉さんだった。
まぁでも、恥ずかしながら途中から私も兄達に混ざってしまってたんだけどね…。
当時のイストお兄様は、はっきり言って暴君だった。
何でも腕力で解決。力こそ全ての男だった。
クリスお兄様と私は、何度泣かされた事か…。
近隣の子ども達のボスで、悪い事も一通り行い、いつもお父様に怒られていた。
とにかく無茶な事をするし、それを他人にも要求する。
喧嘩っ早いし、実の親ですら手を焼く始末だった。
おっとりと優しいギャビーお義姉様が、いつ婚約破棄を言い出すのかと、いつもヒヤヒヤしていた。
しかしある時を境に、今までが嘘のように落ち着いた。
両親の話から、ギャビーお義姉様に諫められたからだという事だけはわかった。
いったい、お義姉様はどうやってイストお兄様を飼い慣らしたのだろう?と、私は不思議に思った。
そして、その事をお義姉様に聞くと、
「ただ、愛を伝えただけよ」
とにっこり微笑まれた。
その微笑みがまるで神話の女神様のようで、未だに忘れられない。
イストお兄様を大人しくさせた事は、ミレン辺境伯家にとっても僥倖だった。
元々、戦闘については天才的だったが、手がつけられないため宝の持ち腐れだったのである。
後継者はクリスお兄様に、という話も出ていたくらいだった。
それを軌道修正してくれたのが、ギャビーお義姉様なのだ。
結果、ミレン辺境伯軍は歴代最強とまで言われるようになった。
本当にギャビーお義姉様には、頭が下がる。
そんなお義姉様が泣いている!
これはミレン辺境伯軍、総出で戦だ!
「お義姉様を泣かした相手を今すぐ教えてくださいませ!」
お義姉様は、私の勢いに涙が引っ込んだようだ。
目をパチパチとしている。
そんな表情もあどけなくて可愛い。
イストお兄様が、心底惚れている理由がわかる気がする。
「レティ…、ありがとう。でも、いいのよ」
お義姉様の表情が曇る。
お義姉様にこんな表情をさせるなんて、絶対に許せない!
「よくありません!イストお兄様も何て言うか!」
「いいの!」
珍しく大きな声を出したギャビーお義姉様にびっくりする。
お義姉様は下唇を噛み、顔を背けてしまった。
その様子に私は察してしまった。
「もしや、イストお兄様が原因ですか?」
お義姉様はコクリと小さく頷く。
私は雷に打たれたように固まってしまった…。
だって、あのイストお兄様が?
何よりもギャビーお義姉様が大事だと言い張り、自分が死んだ後にお義姉様が他の誰かと添いとげるのが嫌で、戦場を無敗で駆け抜ける人が?
いつもは暴君なのに、ギャビーお義姉様の前だと飼い主にじゃれつく犬のようになるお兄様が!?
一緒にいる時は、片時も離れるのが嫌で、常にお義姉様をお姫様抱っこして移動している、あのお兄様が!!?
……えっ?
私は自分の目と耳を疑ってしまった。
「お義姉様、何があったんです?」
根気よく待つと、お義姉様は私に一冊の本を手渡してきた。
普段、目にする小説よりもだいぶ薄い。
すぐに読めてしまうような量の本だった。
「本、ですか?」
「そうよ。思えば、レティにも関係あるかもしれないわ…」
私にも関係がある?
はて、どういう事だろう…。
「詳しくは、中を読んでみてちょうだい」
「わかりました」
「では、私は行くわね」
足早に去ろうとするお義姉様を引き止める。
「せっかくなら、公爵家に行きませんか?私にも関係があるなら、対策を一緒に考えましょう。これくらいの量なら、すぐに読めてしまいますしね」
私は、渋るお義姉様を引きずるように公爵家に連れて行った。
しかし、まさかあんな話が待っているとは思いもしなかった…。
薄い本です(笑)
誰の仕業かは、皆さま想像がついていると思います。
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