56.ヨハンの力
「アレク。ミストラルが協力してくれるのはありがたいね。それでヨハンの店を使うとはどういう事なのだ?」
フェイロン皇子が聞いてくる。
「フェイ。ヨハンは多国籍ショップを経営しているんだ」
「多国籍ショップ?」
「ミストラル以外の国の料理を提供するレストランと、それぞれの国の郷土品を売る店が一体化したような施設だよ」
「そんな店が…。しかし、その店がどうしたか?」
「アレルギー薬の売買は、そこを使えばいい」
「しかし、それだと値段が…」
「私はそこを『免税店』にしようと思う」
「免税店?」
殿下は何を思いついたのだろうか?
「あぁ。税は国家が課すものだろう?」
「そうだな」
「しかし、出国してから入国するまでは、どこの国にも所属していないよな?」
「理論上は…」
「となると、そこでの買い物に税を課す事はできないのではないか?」
「確かに!しかし、その多国籍ショップはミストラルにあるのだろう?」
そうだ。ヨハンの店はミストラル王国の首都にある。
流石に、そこまで無国籍区間を作るワケにはいかない。
殿下はどうする気なのだろう。
「商品の受け渡しを、国境で行うのですね?」
エイダ王女が発言する。
「そういう事だ。商品の受取りは店舗では行わず、国境に作った無国籍区間で出入国時に行う。そうすれば、税の掛らない売買が可能ではないか?」
「アイヤー、なるほど!代金を払っても、商品の受け渡しがされていなければ取引は成立していないのと同じね。そして、その受け渡しを無国籍区間で行えば、原価のみでの売買が成立するという事か!」
「そういう事だ」
「アレク…、ソレ、法律ギリギリの考えよ。思ったより、ワルイ男だったか」
フェイロン皇子がニヤニヤしながら言う。
なんだかんだ言って、殿下の考えに賛成のようだ。
「エイダ王女も、商品の受け渡し方法の思いつき、見事だったヨ。貴女もワルイ女だったか?」
「お褒めに預かり、光栄ですわ」
エイダ王女もにっこり微笑む。
「人道的なものは本当は免税品にしたい所だが、それはゆくゆく考えるとして、取り急ぎ免税店の申請を議会に通さないとな…」
「ベイカー商会だけで、免税店の権益を牛耳ると、後々面倒なのでどうしましょうか?」
「免税店は国営にするよ。一つ大きな施設を作って、その中に免税店街を作る。それに参加したい店は入札で決める事にしよう。もちろん、数は絞るけどね。施設が出来るまではヨハンの店を使わせてもらっていいかな?」
「もちろんですよ!」
「ありがとう」
ヨハンはこれから稼ぎ出せる金額を予想し、ウキウキしているようだ。
さすが、大陸に名を轟かすベイカー商会の跡取りだ。
「それにしても、殿下の商才は怖いですね。出店したい店を入札で絞るなんて…」
「国営なんだから赤字にはできないだろう。こちらは箱だけ用意するから、後は首尾よく商人たちに稼いでもらった方が効率がいい。商人たちの稼ぎから税を貰わないとは一言も言っていないしな。それに、免税店で使える金額の上限も決めようと思うから、細く長くお客様からご愛顧いただけるように努力してほしいな」
殿下が無邪気な笑顔を見せるが、逆にそれが怖い。
「アレク…。お前はワルイ男ではなく、極悪人だったか…」
「アレクシス王子、腹黒過ぎますよ…」
「こ、怖い…。でも、大国の王太子ともなるとこうでなくてはいけないのですね…」
フェイロン皇子、エイダ王女、ショウ王子がそれぞれ顔色を悪くした。
いやいや、これでこそ我らがアレクシス殿下ですよ。
俺を初め、側近たちはそんなアレクシス殿下を誇らしく思っていた。
「そうだ!ショウ王子」
「はい何でしょう、ヨハン様」
「『様』は要りませんよ。ヨハンで結構です」
「では、ヨハン。何でしょう?」
「製薬所は、ダイス王国との国境付近に作りたいのですが、北側と南側、どちらが良いでしょうか?」
「道は険しいですが、北側の方がいいですね。寒さで、少しでも鮮度が保てると思います」
「なるほど…」
ショウ王子とヨハンは、具体的な製薬所の建設計画に入った。
それにエイダ王女が声を掛ける。
「保冷が必要なら、オルフェルの溶けにくい氷を使われますか?」
「えっ!いいんですか?!」
「もちろん。国土にたくさん転がっていますから、有効活用できれば幸いですわ」
「ありがたいです!オルフェル連邦国の氷は一級品ですからね」
「そう言っていただけて良かったですわ。何せ、芸術と氷しかないような国ですから」
「あはは…。それは言い過ぎかと…」
ショウ王子は、こんな皮肉には何て返したらいかわからないようだな。
「美人が多いとも聞きますよ。美しい女神たちが、芸術を披露するために起こした国だとか…」
「いやですわ、ロイド様ったら」
エイダ王女が赤くなる。
そんな俺を、ショウ王子はジト目で見てきた。
まさか、浮気てもしていると思われているのだろうか…。
社交辞令一つ言えないような男は、紳士ではない。
ショウ王子は、もう少し振る舞いを勉強した方がいいだろう。
「アレク。『免税店』の構想は、シュブラン皇国にも持ち帰っていいだろうか?」
フェイロン皇子が聞く。
「もちろん、構いませんよ」
「謝謝。我もミストラルに負けない店を作るぞ!」
「頑張ってください」
こうして免税店構想は始動したが、宰相の許可を取るのが一番、骨をおる作業であった。
遅くなりましたm(__)m
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