55.文殊の知恵
「アレクシス王子」
「はい」
「約束は守りますわ。アナスタシア王女の事、私に任せてください」
「結局、何もしていないようで申し訳ないんですが…」
「いえいえ。騙し討ちのように協力してもらったのでいいのです」
「そう言っていただけると、助かります」
「困った時にはお互い様ですわ」
殿下とエイダ王女が友好を深めていると、フェイロン皇子が割って入ってくる。
「我も困っている。アレク、助けてくれ」
「フェイの困り事…、怖いな…」
「我だけではない。ショウも困っているのだ。知恵者の相談相手は多い方がいい。エイダ王女にも聞いてもらいたい」
「…わかった。 ロイド」
「はい、殿下」
「会議室、押さえられるか?」
「今なら、第三会議室が空いてますね。伝令をとばしますので、我々は向かいましょう」
「という事です。皆さん、移動しましょう」
大所帯になってしまったが、俺たちは第三会議室に向かった。
――――第三会議室
割と広めの会議室だった為、人員が多くてもぎゅうぎゅうにならずに済んだ。
側近たちも、それぞれ着席している。
「それで、困り事とは?」
「その前に、ここでのことは他言無用だぞ」
フェイロン皇子がエイダ王女に確認を取る。
「承知していますわ」
「助かる」
エイダ王女始め、この場にいる全員に確認を取ってからフェイロン皇子は話し出す。
「皇帝陛下の薬の件なのだが…」
ガタガタッ!!
「皇帝陛下はご病気なのですか!」
エイダ王女が驚いて訊ねる。
「病気という病気では無い。あれるぎぃというヤツだそうだ」
「ア、アレルギーですか…?それはいったい…」
「うむ。ショウやアレクの話によると、特定のものにも反応して、くしゃみや鼻水、咳が出るそうなのだ」
「命に関わる事なんですか?」
「今の所は大丈夫だそうだ」
さすがは策士のエイダ王女だ。
殿下たちと同じ前世持ちのため、おそらくアレルギーの知識はあるだろう。
しかし、即座に知らないフリができるとは…。
「その薬なんだが…」
フェイロン皇子はショウ王子を見る。
「一つ、どうしてもダイス王国でしか手に入らない成分があるんです。他のものはシュブラン皇国でも手に入るのですが…」
「今後、定期的にその薬を服用するとなると入手ルートがな…。しかも、陛下だけでなく他の者も罹患する可能生があるなら、きちんと流通経路を確保したい」
「その成分は鮮度が重要なので、ダイス王国からシュブランまで到達する頃には、効果の半分が落ちてしまいます。だからといって、倍の量を服用させるワケにもいかないですし…」
「アレク。何かいい手立てはないものか?」
「う〜〜ん…。ロイド、何か思いつくか?」
いきなり俺ですか…。
そもそも、その成分とはいったい何なんだ?
「ショウ王子。その成分とは何なのですか?」
「木の実です。寒冷雨林に生える、トミシというツル科の植物の実ですね」
「なるほど…。そして、その鮮度は何日まで保つのですか?」
「効果が十分に得られるのは、採取してから10日までです。それ以降は効果が全く無いワケではないのですが、著しく落ちます」
「ダイス王国からシュブラン皇国まで、早馬を使って休みなく向かっても20日、通常だと30日はかかりますからね…」
「そうなんですよ…」
「ちなみに、薬にしたものも10日しか効果が無いのですか?」
「いえ、薬にしてしまえば効果は半年ほど保ちます。なので、薬にしたものを運ぶ事も考えたのですが…」
「何か問題でも?」
「シュブラン皇国でしか採れない成分もあるのです。それは植物の根を乾燥させたものなので、鮮度は大丈夫なんですが…その…」
「費用が高くついてしまうのだ」
言いにくそうなショウ王子に代わり、フェイロン皇子が答える。
「我は、その薬を庶民でも手にできるくらいの価格に落とし込みたいのだ。ショウに聞くところ、シュブラン皇国の人間は『あれるぎぃ』になりやすいそうだからな。しかし、シュブランからダイスに材料を送り、薬にしたものをダイスからシュブランに送ると、費用がすごく高くついてしまう。それに手元に来るのは、早くとも2ヶ月後だ」
「そこが問題なんですよ…」
二人が項垂れる。
「寒冷雨林で取れるなら、エイダ王女の国でも採れないのか?」
殿下が聞く。
「オルフェルで、ですか?そんな植物は聞いた事がありませんが…」
「殿下、同じ寒冷地でもオルフェル連邦国は乾燥地域です。ダイス王国は湿潤地域のため、生育環境が違うのでしょう」
「そうかぁ…。オルフェル連邦国で採れるなら、輸送距離を短縮できると思ったんだがな」
「私も、お力になれなくて申し訳ないですわ…」
「良い、良い。『庶民にも薬を』との考えは、また改める事にするよ。取り急ぎは皇帝陛下用の薬だよ」
フェイロン皇子が、明るく振る舞う。
だが、その瞳には諦めきれない情熱を感じた。
この方も、王となるに相応しい方なのだろう。
「手段が無い事もないですよ?」
『えっ?』
みんなが一斉に俺に注目する。
「どういう事か?いい加減な話ではないだろうな?」
フェイロン皇子が射抜くような視線を寄越す。
それから庇うように、アレクシス殿下が訊ねる。
「ロイド、教えてくれ。どうすればいい?」
俺は、殿下の言葉に驚く。
まったく…、この人は…。
殿下は話も聞いていないのに、全面的に俺の意見に賛成のようだ。しかも、その上で自分がどう動けばいいのかを聞いてきたのである。
主君からの信頼に応えないワケにはいかないだろう!
「この国で作ってしまえばいいのでは?」
「!!!なるほど!!」
そこからの殿下の動きは早かった。
「ヨハン!」
「はい」
ヨハンが殿下のもとに来る。
「ヨハンに頼みたい事ができたんだが…」
「わかってますよ。どうぞ、僕の店を使ってください」
「恩に着るぞ」
こうして、国家間を跨ぐ一大プロジェクトが始動することになった。
『トミシ』は架空の植物です。
元ネタは『五味子』です。
漢方の、小青竜湯に入っています。
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