49.次の日
「おはよう。昨日は、みんなよく眠れたかい?」
公爵家のダイニングで、父が声を掛ける。
父の機嫌が良いという事は、アレクはクロエと何もなかったのだろう。
アレクを見ると、顔色は良いが機嫌がすこぶる悪い。
「宰相…。私に一服盛っただろう…」
「殿下、何を仰っているのかわかりませんが?」
やってるな…。
「嘘つけ!寝る前に出されたお茶を飲んでからの記憶が無いんだが?」
「殿下は相当、お疲れだったのですね。連日、他国との外交で忙しいようですから、無理もありません」
父が殿下に憐れみの視線を向ける。
「いやいや、あのお茶は何なんだ!公爵家に来て一服盛られるとか、有りえないぞ!」
「疲れが吹き飛ぶ、我が家秘伝のハーブティーですよ。効果覿面ですね。殿下の顔色が良い。素晴らしい事だ」
「記憶も飛んだわ!そんな事をしなくとも、クロエに協力してもらえば疲れは吹き飛ぶ」
「殿下」
「何だ?」
「我が家でクロエに何をしようと?…よもや不埒な事ではないでしょうね?」
父が笑顔で怒りのオーラを振り撒く。
アレクを見ると、ちょっと怯んでいる。
まだまだ父の力は健在のようだな。
「そ、そんなワケ無いだろう!…ところで、公爵夫人はどうしたんだ?」
「ヴィクトリアはまだ休んでおります。我が家に高貴な方がいらっしゃる為、気疲れしていた私を介抱して疲れが出たのでしょう」
「…宰相、もの凄い嫌味だな。そしてお前はお楽しみだったのかよ…」
あ〜…、聞いてない聞いてない。
両親のアレコレなんて聞いてませーん。
――――王宮・アレクシスの執務室
「あ〜〜!!宰相のヤツ!!」
殿下が荒ぶっている。
それはそうだろう。
大好きなクロエと一晩過ごして何も無かったんだから。
「ねぇ、殿下。本当にこれっぽっちも、何もしてないんッスか?」
クリストフが訊ねる。
「してない!部屋に入ってすぐにメイドがハーブティーを持ってきたんだよ。喉も渇いてたし…。それを飲んで、気付いたら朝だった」
「殿下、出されたモノは不用意に口にしたらダメですよ!」
「ヨハン、公爵家だぞ?初めての家だったら俺も警戒しただろうが、ロイドの家だからな!側近と婚約者の親父に、睡眠薬盛られるってどうなんだよ!」
まぁ、そうだな。
ミレン辺境伯家では、まずそんな事はしないだろう。
「ロイドからも宰相に何とか言ってくれよ」
「無理ですね。それに、私にとばっちりがくるのはごめんです」
「薄情者〜」
「でも、良かったじゃないですか」
「何が?」
「家を出るとき、見兼ねたクロエが殿下にキスをしてくれたんですから。しかも口に」
「うん、まぁ、それはそうだけど…」
「あんな父の顔、中々見れませんよ?」
「えっ!宰相、どんな顔してたんだ?」
イスタークが興味津々だ。
「この世の終わりのような顔をしてました」
「あの宰相が…。それは見たかったです…」
「確かに…。滅多に見れるモノじゃ無いッスね」
「それにしてもクロエ嬢らしくねぇな。二人きりの時はわからんが、他人の目がある所でそういう事しなさそうなのに…」
「クロエも父の所業に、思うところがあったようですよ」
「えっ、そうなの?」
殿下が目をキラキラさせている。
まぁ、これくらいは伝えても問題ないだろう。
「はい、レティから聞きました。二人でクロエの部屋に行った時に打ち明けられたそうです。クロエも殿下とそういう関係になることに吝かでは無いようですよ」
「そうなの!?」
「はい」
「そっかぁ…。そう思ってたの俺だけじゃないんだ…」
心底、嬉しそうだ。
ただ釘を刺しておかなければな…。
「殿下。最後まではダメですよ」
「わ、わかってるよ!」
「あと、父は母にこってり絞られていましたので、そろそろ大量の仕事を持ってこちらに来ると思います。気合い入れてください。嫌がらせが来ますよ」
『えっ!?』
と、一同が声を漏らした途端に執務室がノックされる。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、やはり父だった。
「おや、これは皆さんお揃いで」
いつかも聞いたセリフを吐く。
ニヤついている顔が白々しい。
「何の用だ?宰相」
殿下が顔を引き攣らせながら聞く。
「式典準備で官吏たちが忙しいので、能力がある人たちに手伝ってもらいたいと思いまして」
「私達にも、抱えている仕事があるのだが…」
頑張れ、殿下!
みんなの心が一つになる。
「能力のある方達にはどれも片手間で終わるものですよ。そんなにお手を煩わせません。でも、それで官吏たちが助かるのです。こういった事で恩を売っていけば、殿下の将来の治世は更に盤石なものになるでしょう」
「うっ…」
まぁ、官吏に仕事放棄されたら国がまわらないからな…。
痛いトコロを突く。
「どれもこれも全ては殿下の為です。まさか出来ないとは言わないでしょう?」
「わ、わかった…。そこに置いて行け」
「ありがとうございます。大変助かりますよ、殿下」
そう言って、笑って父は仕事を置いて行った。
相手にもならなかったな…。
その後、俺たちは夜まで働かされた。
第一話でも、宰相は同じような事を言っています。
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