46.sideユファ
……まったく、今日は忌々しい話を聞いた。
祖母が孫を虐げるだと…?
ジャクリーンのヤツは全然変わっていないのだな!
苛立ちから、フェイの持ってきてくれた上等な白酒を乱暴にあおる。
今日の白酒は、爽やかでフルーティーな味わいの清香だ。度数は高いが、呑み口がさっぱりしている為ぐいぐいすすむ。
「ユファ様、さすがに飲み過ぎです」
「シェリー、今日くらいいいだろう」
「まぁ、お気持ちはわかりますが…」
「お前も呑め。そんな気分だろう?」
「…。では、いただきます」
シェリーは妾が17歳でこちらに来た時からの付き合いだ。
学園で友人になった令嬢の一人だった。
ジャクリーンのヤツも同級生だったが、まったく仲良くなれる気がしなかった。
ジャクリーンは16歳から留学していたらしく、同じ留学生の妾に何かとマウントをとってきていたのだ。
こちらは正統なる第一皇女、あちらはたかだか公爵令嬢だったのに愚かな事よ。
そして、ジャクリーンはシェリーを虐めていた。
理由は、シェリーの出自のせいだ。
シェリーは伯爵令嬢だが、貴族の血は入っていない。
妻に先立たれた伯爵が、後妻にシェリーの母を娶ったのだ。シェリーはその後妻の連れ子ため、伯爵との血の繋がりは無い。
伯爵はすでに成人した息子が2人もいたので、後妻の身分を特に気にしていなかった。
結果、行きつけの飲み屋の給仕で、一人で子育てをしていたシェリーの母と意気投合し結婚したのである。
そう…、シェリーは元・平民だ。
ただ、伯爵家は人が出来ていた。
二人を害する事なく、貴族としての教育を施したのだ。
元来、努力家だったシェリーはみるみる成長し、淑女として申し分ない女性に育った。
シェリーの母も、晩年伯爵の介護などを自ら進んで行い、最後まで彼を看取った。伯爵はとても穏やかな顔で旅立ったという。
伯爵家は、シェリー親子が来てから笑いの絶えない素晴らしい家庭だったようだ。
しかし、そんな事を知らないジャクリーンは、出自が卑しいとシェリーを虐め抜いていたのである。
「このお酒、美味しいですね」
「だろう?ミストラルのワインも良いが、妾はシュブランの酒が世界一だと思う」
「本当ですね」
そう言って穏やかにシェリーは微笑んだ。
「まさか、学生の頃はこんな風にユファ様にお仕えするとは思いませんでした」
「妾は、本当はシェリーに後宮に入ってもらいたかったがな」
「そんな!とんでもない事です!」
「今でも思うぞ。シェリーはよく仕えてくれているが、終ぞ『妻』や『母』にしてやれなかった…。妾の一番の後悔だ…」
「ユファ様、その話はもういいのです。代わりに陛下や王弟様をユファ様と一緒に育てる事ができましたから」
「しかし…」
「家族も納得しています。私が嫁に出た所で、婚家で平民と虐げられるのはわかっていますし、裕福な豪商に嫁いでも貴族かぶれと言われたでしょう。ユファ様の侍女になれた事は、私にとっては幸運なのです。それに、元・平民の私をユファ様がお側に置いてくれたからこそ、この国でも平民が官吏に登用されるようになりました。これ以上望んだらバチが当たりますよ」
そう言ってシェリーは二杯目を注ぐ。
「クラウスにも学生の頃からシェリーを側に置くように何度も進言したのだがな…」
「ユファ様。それは本当に余計なお世話でしたよ…。おかげで私は、何度クラウス様に殺気を放たれたか…」
「そうだったのか!…確かに、妾だけを愛しているから第二夫人や後宮など必要ない!君はそんな事を考えるより、俺だけを見てくれ!と力説された事はあったが…」
「それですよ…。クラウス様は私の所に来ては、『ユファはこんなに愛らしい!』『こんなユファを知っているか?』と、自慢してましたからね」
「そんな事が!」
夫の執着が凄かったのは覚えているが、まさか友人にまで牽制していたとは…。
「私もさすがに言われっ放しは癪に障ったので、クラウス様の知らない事を話すと、『お前にユファは渡さない!』と言われました」
「何!?」
「ちなみに、他の友人達にも仰っていましたよ。まぁ、そんなクラウス様の姿を知るのは、その当時の側近達とユファ様の友人達だけですけどね」
「そうだったのか…」
「クラウス様は、ユファ様にカッコつけたいので必死に隠してましたよ。私達の中では、微笑ましさしかありませんでしたけど」
夫の知らない面を死後に知るとは…。
「でも…、ふふっ…」
「どうしたのだ?」
「いえ、私達の間ではクラウス様はユファ様に執着されているのが常識だったんです。でも、ジャクリーン様が必死になってクラウス様を振り向かせようとしているのが可笑しくて…」
「あやつは、妾とクラウスの仲を引き裂こうとしていたからな」
「全て空回りでしたけどね。最終的に、シュブラン皇国の第一皇女を害したと、シュブランからダイス王国にクレームが入って卒業前に国に帰されてましたね」
「そうだったな。去り際に『卑怯者!』『簒奪者』などと酷く罵られたのだったな…」
「あの時は、みんな殺気立ちましたよ。でも、クラウス様を止めるのに一番、骨を折りました」
「あぁ~〜、それは何となく覚えている。妾もあの後、クラウスを宥めるのが大変だった…」
「よく収まりましたね?」
「まぁ、それは妾の手練手管でな…」
ホントにあの時は大変だった。
クラウスの奴、ダイス王国に戦争を仕掛ける所だったからな。
病弱なクセに、気質は獅子のような男だ。
おかげで結婚前に男女の仲になってしまった。
「しかし、そんなジャクリーンがダイス王国の王妃になるとは思っていなかったがな」
「あの国はそれまで目立った産業がありませんでしたからね。ジャクリーン様のお父上が、宰相として辣腕を振るったからこそ今のダイス王国がありますから」
「娘には甘い父親だったのだな…」
「おそらく、そうなのでしょうね」
少ししんみりしてしまう。
「そろそろ頃合いですね。ユファ様、お開きにしましょう」
「そうだな」
「こちら、片付けますね」
そう言って、シェリーは手際よく片付ける。
「シェリー」
「はい」
「妾の侍女となってくれてありがとう。心から感謝する」
シェリーは一瞬泣きそうになるが、すぐに笑顔を見せる。
「勿体ないお言葉です。ユファ様は私にとっての救世主なのです。貴方様にお仕え出来る事を、誇りに思います」
その言葉に妾も泣きそうになる。
どうやら今夜は、お互いに飲み過ぎたようだ。
愛する人に執着するのは、この国のお家芸のようです(笑)
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