45.自信を取り戻せ
1時間ほどして、ショウ王子が湯殿から戻ってくる。
「ショウ王子、疲れはとれまし…た、か?」
「はい!素晴らしいお湯ですね!」
そう答えるショウ王子の瞳が見えた。
「ショウ、前髪切ったのか?」
「へ、変ですかね?」
「いや、全然そちらの方が良いと我は思うぞ」
「妾もそう思うぞ。確かにそちらの方が野暮ったく無くて良いな。しかし金色の瞳とは…、ダイス王家の中でも特に先祖返りしている証だな」
「えっ?そうなんですか!?」
「なんだお主、知らなかったのか?」
「はい。兄弟とは瞳の色が違うので、僕は本当は兄弟では無いのでは?と思っていたんです…」
王太后様が呆れたように言う。
「初代ダイス国王は、緑の髪に金色の瞳と聞くぞ。荒野を緑に変え、金色の小麦で埋め尽くした豊穣の象徴として有名ではないか!ダイス王国では、『緑と金』は好まれる色ではなかったか?」
「それはそうなんですが…」
「お前…、よっぽど周囲に心無い者がおるのだな」
ショウ王子が驚いたように王太后様を見る。
「やはりな…。お前の家族は、お前を蔑ろにはせんだろう?」
「はい…。むしろ、いつも気にかけてくれます。てっきり、血が繋がっていないから変に気を使わせているのかと…」
確かにダイス国王夫妻やショウ王子の兄弟は、髪色は同じでも瞳の色が茶色だった。
自分だけ金色となると気に病んでしまうのも無理は無い。
基本的にどこの国でも、産まれた子供は父親の瞳の色と、母親の髪色を引き継ぐ。
濃淡の違いはあるため、青色から水色だったり、赤色から桃色というような事もある。
例えば、アレクシス殿下の瞳は水色だが、陛下の瞳は青色だ。
系統は一緒なので、そこを気にする者はいない。
だが、それはミストラル王国での話だ。
ダイス王国ではもしかしたら違うのかもしれない。
ショウ王子の瞳は一見すると金色に見えるが、よく見ると金茶のような色だ。
顔立ちも、ダイス国王によく似ている。
これで血筋を疑う者がいるなんて信じられない。
そして、それをショウ王子が信じるなんて…。
家族は彼を溺愛している為、家族以外で彼を貶める可能性があるとしたら…。
「ショウ王子。貴方に劣等感を植え付けたのは、貴方のお祖母様、ダイス王国の王太后様では?」
「なぜ、それを!!」
「何だと!」
ショウ王子は驚き、ユファ王太后様は憤怒の表情となる。
「ジャクリーン…あやつめ…。孫に何という仕打ちを…」
「お祖母様、お知り合いなのですか?」
「もちろん!妾にこの国の王妃の座を譲れと宣った女だ!まったく、今思い出しても忌々しい…」
「えっ?そうなんですか?」
アレクシス殿下が引いている。
「妾がこちらに来る前、あやつはミストラルに留学していてな。そこで前王のクラウスに一目惚れし、積極的にアプローチをしていたのだ。妾との婚約が決まっていた為、クラウスは相手にしなかったみたいだがな。しかし、ジャクリーンはダイス王国の公爵令嬢、無下にも出来なかったそうだ。つけ上がったあやつは、妾がこちらに来た時、相当因縁をつけてくれたのだ!」
王太后様の怒りは収まらない。
「自分とクラウスは相愛の仲だとか、クラウスは妾の事を嫌っているとか、有る事無い事ご丁寧に教えてくれてのう。もちろん、クラウスは妾にべた惚れだったから全く信じなかったがな」
「お祖父様、お祖母様にべた惚れだったんだ…」
「当たり前だろう!今のアレクと同じ感じだったぞ」
「えっ!そうなんだ…」
王家の者も執着の呪いがかかっているようだな。
「それにジャクリーンは根っからの選民主義者なのだ。己と違う者を忌み嫌う。そういう所もクラウスに嫌われていた。きっとショウ王子への仕打ちも、瞳が他の王家の者と違う事が我慢ならなかったのだろう」
「そうだったんですね…」
「お前の両親も、実母、姑には意見を言えなかったのだろう。だからこそ目を掛けたが…、植え付けられた劣等感や不信感は拭えなかったのだろうな」
そう言うと、王太后様はショウ王子を抱きしめる。
「ショウ王子、今まで頑張ったな。お前は間違いなくダイス王家の人間だぞ」
「ぼ、僕は…僕は…うわぁぁ!」
そう言って、ショウ王子は涙を流し号泣する。
ユリアもつられて泣いているようだった。
ショウ王子が泣き止んだあと、本題に入る。
「…という事で、ショウには皇帝陛下の薬を調合してもらいたい。ついでに調合方法も教えてくれると助かるよ」
「わかりました!そうですね…。症状を診る限り、お二人の見立てで間違い無いと思います。ただ、アレクシス王子の言う通り、コレがきっかけで他の物質にも防衛反応が出る可能性もありますので、調合方法もお教えしましょう。材料はシュブラン皇国で手に入るものばかりですから安心してください」
「本当に助かる。シュブラン皇国第二皇子、フェイロン・シン・シュブランとして、ダイス王国のショウ王子に最大の礼を」
そう言って、フェイロン皇子は片膝をついて礼をする。
「そ、そんな、恐れ多いです!フェイロン皇子、顔をあげてください!!」
ショウ王子がちらりとユファ王太后様を見る。
「僕の自信と尊厳を取り戻してくれた、ユファ王太后様のお兄様を助けるのは当然の事ですから!」
うんうんと、王太后様が頷く。
そしてショウ王子はフェイロン皇子を伴い、王宮の医局ヘと向かった。
俺たちも、王太后宮を後にする。
「いい話でしたね〜」
「ソウダネー」
「ですね」
ユリアが歩きながら話す。
まだちょっと涙目だ。
俺とアレクシス殿下は、気のない返事をする。
「ちょっと!何でそんなにしらけてるんですか?」
「だって、アレもお祖母様の策略だから」
「えっ?」
「フェイも気付いていたと思うぞ。ただ、礼に値する成果は得られたのだから、膝をつくのは本心だったんだろう」
「ウソでしょ…。ユファ王太后様の話も…」
「それは本当ですよ。ただその話を最大限、効果的に使っただけです」
「王族って怖い…」
「魑魅魍魎が跋扈するのが王宮だからな。油断できないのさ」
「殿下…、転生者なのに何でそんな遣り取りができるんですか?」
「まぁ、子供の頃に転生したからな。色々見てきてるんだよ。それに、前世でもそんな取引がザラにあったから」
「そうなんですか!?」
「あぁ。俺の部署は資源開発の中でも、原油を扱ってたんだよ。アラブの商人たちは一筋縄では行かない連中ばかりだったからな」
「すごっ…。じゃあ、アラビア語も話せるんですか!!」
「カリーラン(少しだけ)。でも、大抵は英語だから」
「ほへ〜。アレクシス殿下もエリートだったんですね」
「やらざるを得ないだけだから。そうしないとクビになるし…」
「社会人って大変なんですね…」
「今も、大変だけどな…」
「殿下、部屋に戻ったらお茶でも淹れましょうか?」
「そうしてくれ」
その後、俺たちは殿下の執務室でゆっくりとお茶を楽しんだのだった。
おばぁのお話でした。
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