33.試合終了
「参った!!」
フェイロン皇子の声が響き、レティが攻撃の手を止めた。
「勝者、スカーレット・ミレン!」
ミレン辺境伯が、高々とその名を叫ぶ。
お互いに歩み寄り、握手を交わす。
「いや〜、流石は剣姫!手も足も出なかったよ」
「フェイロン皇子こそ。とても素晴らしい剣でしたわ。久々に昂ぶってしまいました」
「謙遜するな。我と違い、全然息も切れていないではないか。我では役不足であったようだな」
そう言って、フェイロン皇子は豪快に笑った。
「フェイロン皇子からそのように言っていただき、恐悦至極に存じます。娘も今後、一層励むでしょう」
ミレン辺境伯が礼を述べる。
「これでは次は、我が国一の剣豪を連れて来なければならないな」
「ぜひ、お願いします」
「是。承ったぞ」
フェイロン皇子はにっこり笑い、ラン様のもとへ戻った。
「レティ〜〜〜!」
「クロエ?」
クロエが猪のように突撃する。
レティは、難なくそれを受け止めた。
クロエ含め、殿下の側近達がレティを囲む。
「凄かったわ!!レティってば、本当に強いのね!」
「クロエ、疑っていたの?」
「疑ってはいないけど、聞くのと実際に見るのでは全然違ったわ。異次元の強さだったじゃない!」
「…。そういえばクロエは、私が剣を振るっている所を見たことなかったわね」
「そうなのよ!初めて見たわ!」
「びっくりしちゃったよね…」
レティがしょんぼりする。
淑女たれ!が推奨されている世の中では、剣を振るう女性は少ない。こんなに素晴らしい特技を持っているのに、レティがあまり誇らないのはそのせいだ。
レティはレティのままでいいのに…。
「何で?」
クロエが不思議そうな顔をする。
「だって野蛮じゃない?」
「それっておかしいわ!」
「クロエ?」
「私、あんなに美しく剣を扱う人なんて見たことがないわ!あれは最早、芸術作品よ!それがわからない人間なんて、最低なセンスの持ち主だとでも思いなさい」
「クロエ…」
「レティはレティのままでいいのよ!」
クソっ…。言いたい事をクロエに先に言われてしまった…。
「それに私なんて鉱物が好きなのよ?掘削作業や研磨作業に、芸術性なんて皆無だわ。レティの方がずっとマシよ?」
「でもクロエはそれで国を発展させてるじゃない!立派な事だわ!」
「どっちもどっちだよ。私は二人とも素晴らしいと思うけどね」
そう言って、アレクシス殿下が話に割って入る。
「仲が良いね、君たちは」
オルフェル連邦国のルドルフ王子とエイダ王女もやってきた。
ニコニコしているため、良いインスピレーションでも浮かんだのだろうか?
「剣姫よ。私はオルフェル連邦国のルドルフと言う。良いモノを見せてもらった!」
「ありがとうございます」
「そう、畏まらなくても良い。君のおかげで新しい曲が作れそうだからな」
「お兄様が曲を作られるなんて、随分久しぶりではありませんか?」
エイダ王女が問いかける。
「確かにそうだな。俺にとっての『創造の歌姫』は、スカーレット嬢だったのかもしれん」
「えっ?」
「いや、何でもない。とにかく、素晴らしい剣技だった!それだけは伝えたくてな」
「ありがとうございます」
レティが、丁寧にお礼をする。
「今の勢いなら、アレクの戴冠式に間に合うかもしれないな…。では、私は失礼するよ」
そう言って、ルドルフ王子はさっさと帰っていった。
芸術家とは…。
遠くなるルドルフ王子から視線をレティに移し、俺は彼女に声をかける。
「レティ、お疲れ様でした。鮮やかな剣技でしたね」
「ありがとうございます、ロイ様。でも、フェイロン皇子の心は折れませんでしたね…、残念!」
「皇子は大国の皇帝候補者です。ちょっとやそっとでは無理だと思いますよ」
「もう少し、鍛錬を増やさなければ…」
レティがブツブツ言いだした。
えっ?心を折る気満々じゃないか!
「ほどほどにね…」
俺はそう声をかけるので精一杯だった。
「レティ、消化不良か?」
イスタークが声をかける。
「お兄様にはお見通しね。ええ、その通りよ。ちょっと物足りないわ」
「ロイド貸してやるから、気の済むまでやったらどうだ?」
「イスターク…。俺はおもちゃじゃないぞ…」
「いいじゃないか。ケチケチすんな」
「この後は特に何もないからいいぞ」
「殿下まで…」
二人に後押しされる。
「ロイ様…。ロイ様が良ければですが、もう一試合どうですか?」
「レティからの誘いを俺が断るワケが無いじゃないか。こちらこそお願いするよ」
「嬉しいです!では、始めましょうか」
「あぁ、わかった」
そう言って、俺たちは剣を構えた。
甘さゼロ…。
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