17.想定外・想定内
ついにアイツがやって来る…。
ダイス王国のショウ王子だ。
アレクシス殿下を始め、側近達に緊張が走った。
出迎えのために控えの間で待っていると、慌てた様子で近衛兵が走ってきた。
「どうした?騒々しい…」
「申し上げます!ダイス王国のショウ王子があと数刻でいらっしゃるようですが、どうもティーダ国のレオ王子達と一緒のようです!」
「何だって!!」
アレクシス殿下があ然とする。
それはそうだ。
今日はダイス王国一行を出迎える用意しかしていない。
ティーダ国一行は明日、到着予定だったのだ。
それぞれの護衛の規模を考えると、現在用意してあるもので足りるかどうかわからない。
陛下への謁見についてもそうだ。
どちらが先に挨拶するかで、今後の国際情勢に変化があるかもしれない…。
俺は頭をフル回転させる。
こちらにつく前に分かった事がせめてもの幸いだろう。
「至急、レセプションルームの仕度を中庭へ!今は百合が見頃だったな…。香りが強い花だから、レオ王子とアビゲイル嬢のテーブルはなるべく風上に!あまり花の香りが届かないように配慮してくれ!ついでに侍女に言って近くの控室を整えさせろ。いつでもアビゲイル嬢が休めるようにしておけ!それから謁見の順番だが、ティーダ国を先に!少し前まで緊張状態だったんだ。内心はどうであれ、ティーダ国を優先させる事でこちらは友好的であるというアピールに使おう!ダイス王国には、今回の来賓国の大トリを務めてもらいたいとでも言っておけ。ショウ王子の母国への土産話になる、と付け加えるのも忘れるなよ!」
「はい!すぐに準備します!」
そう言って近衛兵は伝令に走って行った。
アレクシス殿下以下、側近が呆気にとられている。
「どうしました?」
「いや、ロイドが有能過ぎてついていけないだけ…。お前が側近で本当に良かった」
アレクシス殿下がしみじみ言う。
「あの指示出すまでに1分もかかってなかっただろ。想定していたのか?」
「いえ、全く」
「それであそこまで指示できるのは異常ですよねぇ」
イスタークとヨハンが異常者を見る目で見てくる。
そこはどう考えても、羨望の目だろ!
なんで俺が変なヤツみたいに思われてるんだ…。
「でも、なんでアビゲイル嬢のテーブルと花を離したの?女の子はみんなお花好きじゃん」
クリストフが質問する。
「アビゲイル嬢は妊娠しているからな。妊婦は匂いに敏感だと聞いた事がある。レオ王子の寵愛を一心に受けている彼女の気分が悪くなったりしたら、レオ王子がどう出るかわからない」
「なるほど〜。しかも人数が人数だから、場所は変えられないしね。…そうか。妊娠すると匂いに敏感になるのか…」
クリストフの関心は別の所にあるようだ。
今の話から察するに、イザベラ嬢が母になっていない事を祈ろう…。
「まぁ、ティーダ国にとって不幸中の幸いだったのは、ダイス王国が同行してくれる事だよね」
アレクシス殿下がそう言うのには理由がある。
ダイス王国は医療大国なのだ。
医療技術はもちろんの事、薬やリハビリなど『医療』に関する世界の知識は、ダイス王国に集約されていると言っても過言ではない。
それがあるからこそ、小国であるダイス王国は地位を確立している。ダイス王国に行ったお土産は『薬』、なんてこともよく聞く話だ。
ショウ王子は兄弟の中でも薬学を得意としているらしい。
他の兄弟達は派手な医療技術を持っているため、それがコンプレックスのようである。
薬学も立派な特技だとは思うし、彼の兄弟達も薬の重要性を知っているからこそ彼を重宝している。
しかし、ショウ王子はそれに気づかない。
自信が無いとは、こうも後ろ向きになるものなのか。
しかしユリア曰く、ミストラルへの表敬訪問で彼の意識が変わるらしい。それが、ヒロイン(?)達との出会いだ。
この国で違う価値観に触れ、時に励まし、時に励まされ、心の成長をしたときに彼の真価は花開くそうだ。
まったく…。
そのコンプレックスを取り払うヒロインの一人がレティというのが気に食わない…。
レティは全方向に優しいが、出来ることなら全てのベクトルを俺に向けてほしい。
でも、そう思っているのはここにいる全員か…。
みんな顔はにこやかだが、その仮面の下では刃を研いでいる。
俺が言えた口ではないが、ショウ王子の出方次第ではひどい目に遭うだろうな…。
そんな事を考えていたら部屋をノックする音がする。
「どうぞ」
アレクシス殿下が許可し、入室してきた人物に驚いた。
「好、アレク」
「フェイ!」
今日は想定外の事ばかり起きる。
フェイロン皇子がやってきたのだ。
「いや〜。ダイス王国のショウ王子が来ると聞いていたから、我もお出迎えしようかと思って」
「明後日には、歓迎パーティーを開く予定ですよ。わざわざ今日でなくても…」
「時は金なり、と言うじゃないか。せっかく他国の王族が来るのに、みすみす時間を無駄にはしたくないね。アレクならわかるだろう?」
「…わかりました」
「謝謝アレク。では」
そう言って、フェイロン皇子は去って行った。
「……これかぁ〜〜」
アレクシス殿下が盛大にため息をつく。
「ですね」
「まぁ、これは想定内」
「兄貴もやっぱり気付いてた?」
「クリストフさんも気付いてたんですか?!」
「ヨハン!どういう意味だよ!」
「側近の察しが良くて助かる。でもこれだけだとは思えないんだよね」
「でしょうね。フェイロン皇子には、バックに王太后様もいますし」
「だよなぁ〜。一回、お祖母様とお話しなきゃダメか〜」
「殿下の都合を調整しておきますね」
「よろしく」
みんながこう思うのも仕方ない。
シュブラン皇国とダイス王国は、我が国ミストラルを挟んでちょうど反対側にある。シュブラン皇国がダイス王国と交易するためには、中央のミストラルを通るか、北のオルフェル連邦国通るか、南のティーダ国を通る必要があるからだ。
途中途中の税関や輸送コストにより、この2国の貿易品はそれぞれの国につく頃には高額になってしまう。
シュブラン皇国はダイス王国の薬が、ダイス王国はシュブラン皇国で採れる薬の原材料が欲しいのだ。
ミストラルはシュブラン皇国からユファ様が嫁いで来られているので、なるべく税を引き下げてはいるが…。
さて、どうなることやら。
「まぁ、それは追々考えるとして、まずはダイス王国一行とティーダ国一行の出迎えだ。お前ら気合い入れろよ!」
『はい!!!!』
ちょうどそのタイミングで、2カ国の到着が知らされた。
割とロイド以外の側近達も優秀です(笑)
ついに今作、最大のライバルの登場です。
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