13 宇宙の果ての約束
泉と曽根の前に、かつての恋人ショウの姿をした謎の生物が現れる。逃げ回る2人だったがついに追い込まれてしまい、謎の力で眠らされてしまう。
ガタン…………
軋む金属音、それに合わせ揺れる窓。
目を開くと私は電車の中で寝ていた。
辺りをみると電光掲示板や内装に見覚えがあった。これは高崎線だ。高校の時に通学で使っていたから覚えている。
「どうした、泉?」
隣にも見覚えがある奴がいた。ショウだ。
「何か夢を見ていた気がする……」
「期末テストで徹夜したからだよ、駅着くまで寝ていて。俺が起こしてあげる」
「うん……」
「おやすみ……泉」
ショウの肩に寄りかかった。
違う、これは現実じゃない。
「誰?」
ソイツはみるみる表情を笑顔に変えた。
「バレちゃったか……」
じっとこちらを見て、口を開いた。
「初めまして。眠れる星の少女、泉ミライ。貴方と話したくてたまらなかった。」
気持ち悪いほど笑顔であり、握手を求めてきた。訳が分からないので無視をしたら気まずそうに下げた。
先程まで高崎駅にいたはずである。こいつが電車にわざわざ乗せたということだろうか?一体何のために?電車はどうやって動かしている?訳が分からないことが山ほどあるが、一番許せないのは…
「ショウの姿をするのはやめて。」
「ごめんねミライ、本来の体だと酸素を吸って吐くことが出来ないから体をもらったんだ」
「ふざけないでよ」
すぐに納得できるほど冷静ではなかった。
「ややこしくてごめんね。僕のことはΩとでも呼んで。」
「…曾根くんはどこ」
「向かい側にあるボックス席に居るよ」
確かに寝ていた。窓によりかかって俯きながらスヤスヤと寝ている。
無事な姿を見て安心し、冷静さを取り戻した。
「そもそも、どうして時空波を発生させているの?」
「私たちの、夢のため」
「夢?」
「決してこの星を滅ぼそうとしているのではない。宇宙船の動力が必要なんだ。動力を吸収する時に知的生命体が邪魔をしてくると不都合だから、少しの間寝てもらっている。」
「勝手に巻き込まないでよ」
「ごめんね、ワープ地点周辺に地球ほどエネルギーのある惑星はなかったんだ。……でも人間社会は時空波を受け入れた。時空波が好きな人、ミライの周りにもいたでしょう?」
松井瑠衣の顔が浮かんだ。
「違う!!!急に時間を奪われるなんて良くないに決まってる!!」
Ωと名乗る生物は急に顔を伏せた。小さなため息をした後、
「……やっぱり、可愛い」
こちらを見て気色の悪い笑顔を見せる。先程よりも酷い笑顔であり、人間が見せる表情ではなかった。得体の知れない気持ち悪さが襲う。
「本っ当に貴方に会いたかった!!初めての時空波の後、地球の大気に適応する為に、偶然発見した「高橋ショウ」という人間を被った。そしたら何が起きたと思う?恋人だったミライが私たちの仲間に識別されてしまった!!なんという奇跡!!!我々の科学は完璧だと思われていたけどただの自負だったんだ。」
途端に座っていた座席に飛び乗り、手を広げて
「私、ミライが大好きなんです!!この体が愛を覚えていることもありますが、ミライの感情の表し方、浅はかで周りに流される姿が生き物として可愛くてしょうがない。」
恐怖だった。
……失礼。と言ってΩは座り直した。
「ミライが良ければ私の旅についてきてほしい。」
「嫌だ」
声を振り絞って言った。
「残念、必ず説得してみせるよ。でも先に€..-に罰を与えなければ。」
「今、なんて?」
「ちょっと失礼」
そう言うと、私の頭を触ってきた。
途端に頭の中に映像が流れる。
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遠い遠い昔の話。
私達のいた星では不老の技術が発達し、全ての生命が不死になった。最初こそ皆喜び、永遠の命を楽しんだ。しかし、およそ300年ほど経つと死ぬことが出来ないことに絶望し、自ら死を選ぶ者が相次いだ。
科学者だった私たちはそんな世界に反抗する為に1つの大きな夢を持った。
宇宙の果てに行く夢を
宇宙船を作る計画を進めていると、私達2人に賛同する同業者たちが現れ始めた。古今東西あらゆる知識を寄せ集めた。完璧なシステムを作るのに500年。私たちの技術の結晶、それがミライ達が隕石と呼んでいる「宇宙船」。
しかし、出発の日が近づいたある時、争いが始まった。
乗車券をかけた争いだよ。
宇宙船の中にはね、コールドスリープした仲間が100人ほど乗ってるんだ。到着するまで起こすことは無い。生きるのに疲れた仲間たちだ、宇宙の果てという未知の存在に出逢えばきっと、希望を取り戻してくれるはず。
僕たちには壮大な目的があった。
なのに、道半ばで€..-は降りた。
ミライが「曽根」と呼ぶ生命体だよ。あいつはね、地球に来てからおかしくなった。ここを旅の終点にして一緒に住もうと言い始めた。時空波を発生させることに反対したんだ。そして逃げ出した。
あの日、星空の下、夢を語り合ったのに。
宇宙の果てへ必ず辿り着くと誓ったのに。
裏切り者が。
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映像が途絶えた。
Ωが私の頭から手を離したようだ。
「€..-には死んでもらう」
「やめてよ、曽根くんが貴方に何をしたっていうの?そっとしておけば済む話じゃない。」
会ってからそんなに経っていないが、曽根くんは私を明るい場所へ連れていってくれた。時空波でうずくまっていた私を連れ出してくれた恩人なんだ。見殺しにする訳にはいかない。
「ごめん、怒らないで。ミライの怒っている顔は見たくない。」
急に焦り始めた。余計気持ちが悪くなってきた。
「じゃあミライ、僕とゲームをしよう」
「ゲーム?」
「簡単。夢か現実か当てるゲームだよ。僕がこれからミライを、ミライの中の深層心理に沈める。何重にも重なった意識……夢の層から現実に戻った時、ミライがここが現実だと判別出来たら勝ち。現実と分からなければ僕の勝ち。」
「深層心理に沈める!?目が覚めなかったらどうするの!?」
「その場合も僕の勝ち。」
「……じゃあ、全ての夢を見破って、現実に戻って私が勝ったら?」
「€..-を許すよ、ミライにも今後一切関わらないと誓おう」
「私が負けたら?」
「ミライは僕のもの。」
「……わかった」
Ωはニヤリと笑った。
「でも誓う。絶対に私は起きる」
「ミライがどんな夢を見るのか楽しみだよ。」
私の戦いが始まった。
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