14 夢へ潜る
泉は曽根を解放することを条件に自分の深層心理へ潜った。Ωの力で泉が眠った時、入れ替わるように曽根が起きる。
泉は現実に戻ることができるのか。
「あれ……」
目を覚ますと俺は、電車の中にいた。
ボックス席の向かい側に2人座っている。そのうちの1人が口を開いた。
「久しぶり€..-、今は曽根クンか。」
姿は違えど間違えることは無い。Ωだ。
5年振りに出会うそいつは人間の男の皮を被っていたが、おそらく写真で見た泉さんの恋人だ。しかも膝の上で気持ちよさそうに泉さんが寝ている。
「泉さんから離れろよ」
「彼女は起こさせないよ、ミライはお前の代わりに船に乗るんだ。一緒に宇宙の果てに行く。」
Ωは膝の上にある髪の毛を優しく撫でた。
やはりΩは壊れている。共に旅する中で他の生物にここまで執着したことなどなかった。長い時の流れに耐えられなかった同胞と同じように心を壊してしまったのだ。
「……なぁもうやめよう。ふざけた旅も、時空波も。そのせいで人間がどれだけ減ったと思ってるんだ。もう何もしないでくれ」
今まで微笑んでいたΩは表情を変えた。
「お前と僕が始めた物語だろ?」
Ωは俺の襟を掴む。
「人間は僕らの崇高な夢のための犠牲だったんだ。気にするなと何度も言っている。現にミライはお前を助けるために夢へ潜ったんだ。なんて優しいんだろうね。お前、ミライに言ってないだろ?『君の恋人を殺したのは俺だ』って」
「それは……」
「まさか大切なことは何も言わずに騙して過ごしてるんじゃないだろう。綺麗事を言うお前に限って有り得ないよなぁ?」
「違う!!」
「何が違うんだ?僕は猫の耳を借りて聞いたぞ。お前が初めてミライと会った時、時空波で動ける特別な同士だと話していたのを。よくもそんな嘘がつけるな。」
「仕方なかったんだよ!!……嫌われたくなかった。もう二度と人間をを傷つけたくない。だから、この体の記憶を借りて話した……」
Ωは鼻で笑う。
「はっ、死人の記憶を使ったのか。それこそ生命の冒涜だ。僕をバカにする資格はお前にはない。」
「うるさい黙れよ!!あの日装置の実験をしなければ、曽根少年も、高橋ショウも!!」
脳裏にあの日の記憶が蘇る。
全世界に向けた時空波発動の前日、日本の海岸の小規模の範囲で実験をした。俺のこの手で装置を始動させた。見事に実験は成功したが、偶然その場にいた曽根少年と高橋ショウを含めた何人かの人間は、コントロールを失った自動車に轢かれて亡くなった。
想定が足りていなかった。ただ知的生物が眠る実験をしたつもりだった。
さらに罪深いことに、Ωの提案で死んだ人間の肉体を修復して被った。地球を直接見たいという欲に負けて被った。
あの時に全ての夢を諦めてしまえば良かったのに。
Ωも俺も、酸素に毒されて死んでしまえば良かったのに。
息が上がる、頭が痛い。
「はは、お前も随分弱ってるな。まぁ僕だって負い目に感じてるんだよ。あの日……装置の試運転をお前に任せてしまって。僕がやれば気に病むこともなかったよな。だから人間の皮を被って贖罪のような真似をしているんだろう?路上で寝ている人間に毛布をかけるなんて……」
もう我慢は出来なかった。
俺は怒りに任せてΩの顔面に向かって拳をふるった。Ωは掴んでいた俺の襟を離してヒラリと避ける。
「お前も僕も、人間の感情にすっかり毒されたな。」
「泉さんを解放しろ。その子に罪はない」
「まぁそう怒鳴るなよ。泉ミライは夢を見ている。彼女もお前も、現実に向き合う時が来たってことだ。」
急に眠気が襲ってきた。Ωが何かしたらしい。
「何……しやがった……」
「聞きそびれたけどさ……もう一度戻ってくるつもりは無いのか」
「ある訳無いだろ……」
「あっそ」
俺は床に倒れ込んでしまった。
幼い頃は親友だったΩ。2人で夢を叶えようと研究し続けた楽しい日々が確かにあった。時空波だって、本来は生き物を死なせずにする研究だった。
一体、俺はどこで間違えたんだろうか。
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あれからどのくらい経っただろう。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も夢を見た。
Ωが何かしたのだろうか?どれも明晰夢で思い通りに行動ができる。その代わり悪い夢をハッキリと見て精神的にくるのだ。
時空波で眠った人に追い詰められる夢。
就活を成功させて大企業に就職する夢。
曽根くんと逃げながら交通事故にあう夢。
家族みんなで楽しく食事する夢。
ショウが目の前で死んでしまう夢。
良い夢と悪い夢が交互に現れた。深層心理で無意識に考えていることなのだろうか。
家族と食事する夢を見た時は正直驚いた。父親とは母との離婚をきっかけにもう何年も会っていない。母とも特別仲良くはないので正月しか実家に戻っていない。それなのに、3人で食卓を囲む夢を見た。起こるはずのない出来事はとても奇妙で、心地が良かった。
僅かな影響があればどれも実現したかもしれない。
人の一生など夢と同じなのだろう。
しばらくすると、過去の思い出が強く現れる夢が続いた。私はあまりの懐かしさに心を奪われた。
透明な青い青い空の下、友達と虫取りをした。
大きなアブラゼミが取れた。虫かごに入れる。暴れ回るセミを見て、友達と笑い合う。白い入道雲が空の青色を一層引き立てた。
お母さんと一緒に砂浜を歩いた。拾った貝殻でポケットをいっぱいにする。気が済むまで波を追いかけた。
扇風機のパタパタという音がする中、夏休みの宿題を開いて居眠りをする。横になると新しい畳の匂いがする。風鈴の音が心地よい。
冬の夜、家を抜け出して友達とコンビニで会った。肉まんを食べながら他愛のない話をする。星空の下、コンビニの光が私たちを照らした。
モノクロの荒野のような現実とは比べられない程、色とりどりの世界。未来は夢で詰まっている。
……醒めなければいいのに。
次で最終話です。
将来の「夢」と寝る時の「夢」、何故同じ呼び名をするのか考えることがあります。まるで最初から蜃気楼のように消える前提のようで、せめてもっと違う呼び名にしてくれたら良かったのに。




