最終話 過ぎ去る時間
夢は醒めないほうが良い。
苦しい現実や夢のない世界に居なくて良いから。
ただ目を閉じて、自分の幸せを願い続けるだけで良い。
ずっとここに……
---------------------------------------------------------------
ピピピピ……
目覚ましが鳴る。
「ねぇ起きて泉。」
「ん……」
ショウに布団を捲られる。
「もう朝だよ。準備しな」
「うん……」
なんとか上半身を起こして目を少し開ける。
私は今、高校時代から付き合っているショウと同棲している。
ショウとは同じ大学なので時々一緒に受ける授業がある。正直朝は苦手なので一限は受ける予定はなかったが、ショウがいるので受けてしまった。でも無理なものは無理なのだ。
「やっぱり嫌だ、今日は休む」
もう一度布団に潜り込む。
「……じゃあ俺も今日休もーっと。今日の授業あと3回は休んでも文句言われないし」
「やったーーー!一緒に家にいよう」
これだから私を甘やかしてくれるショウが大好きだ。
ショウは俺も寝よーと言って横になっている私にハグをした。
「くるしいよ」
私も強く抱きしめ返した。
耳を当てるとショウの心地よい心音が聞こえ、ショウの温かい体温がジワジワ伝わる。ずっとこのままでいたい。
幸せってきっとこれなんだ。
ショウの首元をギュウと抱きしめると、ふと手が自分の首に触れた。何気ない動作だったが、違和感を感じた。
「なにこれ、傷……?」
何故か爪で引っ掻いたような皮のめくれがあった。
どこでつけたのだろうか……確か……誰かが助けてくれた時だ、あの時爪で引っ掻かれたんだ。
夢……の話じゃないよね?
誰に助けて貰ったんだっけ?
……曽根くん?
そうだ、時空波の中でΩから逃げていた時に、眠っているやつに引っ掻かれたんだ。それに気づいた曽根くんが助けてくれたんだ。
その瞬間、走馬灯のように記憶がなだれ込んできた。
時空波の中、この世で一人きりだと部屋で縮こまっていた時のこと
曽根くんと出会って原付バイクで毛布をかけてまわったこと
商店街でルイさんを助けたこと
時空波対策庁から逃げて曽根くんに助けられたこと
Ωから曽根くんと逃げ回ったこと
夢のように全てが上手くいかないけれど、周りの小さな光に助けられて、必死に泥臭く生きているのが、私。
眩しい光なんてなくてもいい。
愛すべき私の人生だったんだ。
私はショウの腕を振り払う。
「どうしたの?泉」
もういい、心地よい虚構はもう私には必要ない。
「Ω、これは現実。これが現実だ。」
Ωは笑った。
「何それ、よく分からない。新しいアニメの話?」
「シラを切っても無駄。もう分かってる」
「……なんで?」
ショウからΩの表情に変わる。
「何故?ミライは幸せを感じたのに、なんで壊すの?夢の中でなら働かなくてもいいし、ずっと幸せのままなんだよ?聞かなかったことにするから、考え直そうよ」
「もういいの。Ω、私感謝しないとなの。もう一度ショウに会わせてくれてありがとう。」
「何だよそれ……」
「一つだけ言わせて。あなたは曽根くん……友達が居なくなって寂しいんだよね。でも結局代わりはどこにもないんだよ。1人で生きなくちゃならない時もある。」
「それ以上喋ったらこの星ごと破壊する」
恐ろしい顔だった。でも、幼稚に見える。
「残念だよ。でも1000年の旅の暇つぶし程度にはなった。僕も最後に一つだけ言わせて」
「ミライ、君のことが嫌い」
その瞬間、抗えない眠気が襲う。
魔法は解かれた。
-------------------------------------------------------------------------------
目が覚めると私は自分の部屋のベットで寝ていた。
起き上がろうとすると体がボキボキと軋む。なんだか長い間眠りについていたようだ。
「おはよう、泉ミライさん」
周りには時空波対策庁と書かれた上着の人達が大勢立っていた。狭い室内を埋めつくしている。
「ご同行頂けますか」
そう言うと私はどこかへ連れて行かれてしまった。
何が起こっているのかサッパリである。
到着するとそこは時空波対策庁の本庁舎だった。
よく分からないまま事情聴取を受けたが、どうやら私はここ半年ほどの記憶が消えているらしい。
ニュースも出来事も何も記憶にない。
私が時空波で動けることがバレたのは、住んでいるアパートの前の家に防犯カメラが設置されており、時空波中に私が映っていたというのだ。時空波の時に外には出ないと決めているので有り得なかった。一体、何故出たのだろうか。狐面の少年?のことも聞かれたがなんの話か全く分からない。
半年の間、私の身に一体何があったのだろうか。
そして何より驚いたのは、時空波の中で動く能力が失われていたことだ。
事情聴取の最中、時空波が起きた。
研究者達は慌てて脳波を測定する装置を私の頭に付け、更に手足を拘束してきた。
これにはかなり焦った。
しかし、青い光が窓から入ってきたと思った瞬間、ぐっすりと寝てしまったのだ。観測後、研究者たちは私の脳波の結果を見て呆れていた。誰だ適当なことを言ったやつは!と怒鳴っている人もいた。
結果を聞いて1番落ち込んでいたのは、小枝茜という女の人だった。
「泉みらいちゃん、あなた、狐面も本当は知ってるんでしょう?何も覚えてないなんて嘘でしょ?どうして時空波の中で動けなくなったの?」
「私、本当に何も覚えていないんです。」
そう言うと茜さんはフラフラとよろけて倒れてしまった。
私の出世の夢が……とブツブツ言っている。
部下の谷岡さんが先輩しっかり!!!と言って背中に乗せて運んでいってしまった。
""時空波で眠れるようになった""
この事実は私にとって嬉しく、そして同時に特別な何かを無くしてしまったような虚しさがあった。時空波が発生した当初から5年間ずっと寄り添っていた能力が、眠りから醒めると消えていた。
私は普通の人間に戻ったのだ。
----------------------------------------------------------------------------
3日後、やっと開放された私は家に帰ることが出来た。しばらくして松井瑠衣という人が尋ねてきた。
記憶が失われた半年の期間で仲良くなった友人らしい。
「あの電話の後どうなったか心配していたんだよ。無事で良かった〜〜〜!!」
泣きながら抱きついてくる。あまりの勢いに何も言えなかった。
事情を話す隙もなく、手土産を渡されて帰ってしまった。
記憶が戻ったら私から挨拶に行こうと思う。
瑠衣さんが帰ったあとは近所を散歩をした。周りの景色を見れば何か思い出すと思ったからだ。
この半年間、一体私はどうしてしまったのだろうか。
海が見える高台に来た時、原付バイクの横にそいつはいた。
「泉さん!!!!!!!!!!!」
私の名前を知ってる?誰だったか。確か……
「曽根……くん?」
瞬間、ここ半年の記憶を全て思い出した。
今まで忘れていたことがあり得ないくらい鮮明に。
思わずハグをしたい気持ちを抑えながら、とにかくお互いの無事を称賛し合った。
曽根くんはΩに眠らされたあと、この街のゴミ捨て場に置いていかれたらしい。酔っ払いみたいな扱いである。
「私何故か記憶が無くなっていたから、曽根くんに会いに行くの遅れちゃった。」
「Ωが人間に素性がバレることを恐れて記憶を消したんだと思います。用意周到なやつですから」
「そういうことかな…でもなんで時空波は効かなくなっちゃったんだろう」
「俺にも分からないですね……Ωが原因なのは間違いないんですが。」
恐らくΩの私への気持ちが薄れたことで同族に判別されなくなったのでは無いかとのことだが、私の存在自体が異常なので、原因は結局不明だそうだ。
「あの宇宙船、いつまでいるの?」
「あともう少しで出発すると思います」
「そっか……実は夢の中で少しだけ曽根くんとΩが出てきたの。姿は違うけど直感で分かった。Ωが見せたのかなぁ?……とにかく、楽しそうだったの。Ωともう一度話が出来るといいね、旅に出る前にさ。」
曽根くんは少し間を置いて、こくりと頷いた。
「そういえば、夢と現実の区別がつかなくなっていたのにどうして現実と気づけたんですか?」
「逃げていた時に出来た首の傷を見つけたの。それで気づいたんだ。あれがなかったらまだ夢の中にいて、Ωと宇宙旅行をするはめになっていたかもね」
私は笑いながら言った。
「笑えない冗談ですよ。でもあいつから逃げ出せたことは本当に凄いです!居心地の良さから気づかないふりをしてしまう可能性だってありますから。」
「そうだね…実は現実って気づいてからわかったの。ショウと同棲する未来があり得ないなって。ショウのこと好きだったけど、結局仲のいい友達だった。今まで愛する人がいなくなった可哀想な私が好きだっただけみたい。」
「……泉さん、出会った時と随分変わりましたね」
曽根くんは微笑んでいた。
「そうかな」
「そうですよ」
少し照れくさかった。
それから曽根くんは真剣な顔つきに変わった。お互い目を合わせる。
「泉さん、この後時間ありますか?……泉さんにちゃんと話さなくちゃいけないことがあるんです。謝らなくてはならないことも。」
「いいよ。話なら何回でも聞いてあげる」
「……泉さんに会えてよかった」
「こちらこそ」
曽根くんは原付バイクのエンジンをかけた。私は後ろ側に座り、曽根くんにしがみついた。
「私、今お金ないや。ご飯奢って貰おうかな」
「勘弁してくださいよ。僕宇宙人だからお金持ってないです」
「あ、今更言っちゃう?隠してたの許してないからね」
「う……その節はごめんなさい」
「やだね」
「分かりましたって!!奢りますよーーー!!」
青い空の下、2人の笑い声が響いた。
テールライトが坂の向こうへ消えていく。
なんだっていい。楽しいことを考えよう。
なんせ、時間は限りあるものなのだから。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回、生まれて初めて3万字を書くことが出来ました。
3万字書くのが夢だったのでとても嬉しいです。
この話を考えたのは今から7年前のことです。
当初は「停止世界」という題名で恋愛の話にしようとした所、著しくつまらなくなったことをきっかけに2話作ったところで6年ほど放置していました。
しかしこれではいけないと考え、去年の春から更新し続けてついに完結することが出来ました。
1人でも読んで頂き、感謝でいっぱいです。
重ねて、ありがとうございました。




