12 夢を見ているような
曽根は人間ではなかった。
同時に時空波を起こしている謎の生命体の元友人だと言う。衝撃的な話を聞かされた泉は動揺しながらも無理やり理解したのであった。
早朝、謎の生命体から逃げるために再び移動を始めようとするが、泉の目の前に現れたのは5年前に死んだはずのかつての恋人ショウだった。
田んぼのあぜ道に、5年前に死んだはずの恋人が立っている。
奇妙なことに真夏に漆黒のコートを着ており、何故か真上にはカラスが集まり始めていた。ただただ気味が悪いが、服と顔に見覚えがある。
あの服は確か、ショウのお気に入りだった。
「これ、BJみたいでかっこいいだろ。これで俺も無免許医師だ!!」と、ふざけたことを言っていた覚えがある。
「ショウ……!?」
思わず走り出そうとしてしまった。
「泉さん!!!!」
曽根くんに腕を掴まれる。現実に引き戻された。
「あの猫です!!あいつに追いかけられてるんです俺!近づいちゃダメです」
「何言ってるの……?曽根くんには猫に見えてるの?」
「はぁ!?……まぁいい、逃げますよ!!」
曽根くんは私の手を引っ張る。
「乗って!!バイク!!」
曽根くんは原付バイクのエンジンをふかした。
「でも……」
「いいから!!!!乗れ!!!」
バイクの後ろに飛び乗り、曽根くんにしがみつく。
その時、けたたましくサイレンがなり始めた。
時空波が始まる。
「なんで!?」
「だから言ったでしょ!!あいつが時空波発生させてるんです!!」
「はい!?!」
昨日曽根くんが話していたことはマジだったのだと改めて実感した。
「てか曽根くんこれからどこに逃げる!?」
「わかんねー!!!とりあえずあいつから離れよう!!」
バイクを勢いよく発進させた。
ショウに似た何かは走り出したバイクを見ているだけだった。よく見ると顔が笑っている。数年ぶりに見た紛れもないショウの笑顔だ。懐かしさと同時に得体のしれない何かに恐怖を覚える。
大きい道に出ると突然のサイレンに、人々がパニックを起こしていた。路肩に停車する車、急いで家に帰る散歩のおじさん。現在は朝6時過ぎ、早朝で外に出ている人は少なかったのが幸いだろう。私達は停車した車の間をバイクで走り抜けていく。
後ろにアイツは……居ない。追いかけてきていないようだ。私達はバイクのスピードを遅くした。
時空波まであと5分……というアナウンスが聞こえた。
「とりあえず人がいない道に行きます!!一般人に起きているの見られる訳にはいかない」
私達は大通りを外れ、人のいない雑木林の横にきた。そこで停車し、時空波が始まるのを待った。
時空波は基本、時空波対策庁が予報をした時間にやってくる。昨日まではそうだった。私が対策庁の人間に見つかってから明らかに法則性が崩れてきてしまった。
時空波の到達時刻になったアナウンスが聞こえ始める。
時空波まであと5秒。
では皆さん、良い夢を……
青い光は上空を波打ちながらあたりを包み込んだ。
昨日と違い、今日はこれで終わりじゃない。あいつから逃げないといけないのだ。バイクはまた走り出す。
「考えたけど時空波がいつまで続くか分からない以上、東京方面に向かうべきだと思うんです。身を隠すなら都会の方が色々都合が良い。」
曽根くんはとりあえず埼玉へ渡る橋に向かうと言った。
大通りに戻り、しばらく走らせると陸橋が見えてきた。横の看板には「ここから先、神流川」と書いてある。埼玉と群馬の境にある川の1つらしい。
順調に陸橋を走り始めたが、
「ちょっと待って……」
橋の真ん中付近が見えてくると、様子がおかしい事に気づく。
なんと、車が何台も横並びになっている。バイクが通れそうな隙間がない。しかも手前に、人間がいる。数人横並びに、しかもフラフラしながら立っているのだ。普通の人間は時空波の間は起きることは出来ないはずなのに。
「一体どういうこと!?」
しかしよく見ると、人間の目は開いていない。目を閉じながら立っているのだ。
「まさか夢遊病みたいに動いているの?」
寝ながらフラフラと立っている姿はさながらゾンビである。歩いてこないのが不幸中の幸いだ。
「アイツの仕業に決まってる!!引き返すぞ」
バイクの向きを変え、通った道に戻る。
大通りに戻るとまたもや奇妙な様子を目の当たりにする。
「これって……」
先程まで通ることが出来ていた脇道が全て車で封鎖されているのだ。細い道は人間が横に寝ている。誘導されていることは誰が見ても分かる。大通りを真っ直ぐ来いと誘っているのだ。
その瞬間私は理解した。頭では分かっていた。けれどなるべく認めないようにしていた。
私達を追ってきている奴は人間ではない高次元の存在なのだ。人間を操れる存在などかなう訳が無い。
「どうしよう」
曽根くんは頭を抱えている。
「俺が居なくなった後に開発したのか……人間を操れることがわかった以上、危害を加えられる前にアイツの誘いにのるしかない。クソっっっっっ!!!!」
曽根くんはバイクのハンドルを強く叩いた。
「……そんなに会いたくないの?」
曽根くんは頷く。顔を見ると涙を流していた。追ってきているあいつとどのような因縁があるのか分からないが、行くしか選択肢は無いのだ。詳しく話を聞いている時間はない。
私達は大通りを真っ直ぐ走り出した。止まっている車の間を通り抜けていく。
群馬の高崎は初めて来たが、大通りは途中で4車線になったことに加えて大きな工場があちこちにあったり、非常に発展していることを知った。4車線なんて大都会だけだと思っていた。この騒動が終わったらまた来てみたいな。
そんな悠長なことを考え、20分ほど走っていると曽根くんが急にスピードを遅くした。
「どうしたの?」
「歩道橋の上行けってよ。バカじゃねぇの」
どうやら大きな歩道橋の周辺を車で塞がれ、バイクで階段を登れと言うらしい。
「私、車の免許持ってるから道塞いでる車動かすよ」
「え!持ってたんですか!?早く言ってくださいよ!次は運転してもらいますからね」
「ごめんごめん」
言うタイミングが無かっただけなのだ。許して欲しい。
私は車のエンジンを付けてどかそうとした。
運良く1台だけ車のキーが差しっぱなしになっていたので、ブレーキを踏んで動かそうとする。
車をバックさせようとバックミラーを見た。
その瞬間、後部座席に人がいることに気づく。
「泉さん危ない!!!!!!」
曽根くんが助手席を開けて私の手を引っ張った。後ろから私の首をめがけて両手が伸びていたのだ。
危機一髪逃げることが出来たが、首に爪跡がついてしまった。かすり傷だったがほんの少し血が垂れてきた。殺す気だっのだろうか。
なんとか無事に車から脱出したが、なんと今度は後ろの道から大量の人間が追いかけてくる。
よく見ると先程道を塞いできた人間たちだった。何十人……いや何百人とやってくる。先程までフラフラとしていた人間達がいきなり全速力で走ってきたのだ。
「こわいこわいこわいこわい!!!!!」
「やばいやばいやばいやばい!!!!!」
2人で歩道橋の階段を駆け上がる。後ろの人間たちも階段を駆け上がってきた。
しかもその歩道橋は直ぐに終わるものだと思っていたが距離がおかしい。どうやら駅まで続く長い通路だったのだ。さらに直線だと思っていた道は、駅の近くになるとカクカクと曲がる。さらに曲がる。操られた人間たちはコーナーも難なく走り抜けていく。
逃げながらも高崎駅の美しさに気づく。途中ガラス張りの芸術的な建物があり、まるで夢の中に出てきそうだった。
「これ全部夢ならいいのに!!!!!!!」
思わず大声で叫んだ。
「そうする?」
男の声が聞こえた。
その瞬間、目の前に黒いコートの男が現れる。
ショウだった。
途端に足が動かなくなる。目の前で停止してしまった。かつての恋人の姿をした別の生き物であると分かっているのに目が離せなくなる。横で曽根くんが何か叫んでいるが、何を言っているか聞こえない。世界が遮断されてしまったかのようだ。
「全部夢にしようか」
ショウに似たナニカはもう一度口を開く。
私は、その場に崩れ落ちた。




