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底辺探索者の俺、スキル《過去改変》で終末世界を改竄する ~「あの時こうしていれば」を現実にしたら、いつの間にか世界最強の救世主になっていた件~  作者: モコタ
第一章 《過去改変》を取得する(2025年α)

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6話 フリーターはダンジョンに行く②

 ダンジョンという場所は、いつ来ても不思議な感覚に陥る。

 太陽の光は一滴も差し込まないし、気の利いた電灯の一つもありはしない。なのに、なぜか完全な暗闇というわけでもないのだ。

 壁の岩肌がぼんやりと青白く光り、最低限の視界を確保してくれている。


 もっとも、どれだけ広い空間に出たとしても、十メートルほど先は不自然なまでに濃い闇に塗りつぶされている。

 それ以上先は見通せず、闇そのものが壁になっているかのようだ。おまけに道は複雑に入り組み、モンスターの不意打ちに怯えなければならない。

 お世辞にも居心地がいいとは言えない場所だ。


「……おっと」


 暗闇の奥から、別の探索者がモンスターとやり合っている音が微かに聞こえてきた。他人が戦っている獲物を横取りするのは、この業界では最低のマナー違反だ。

 中には「ダンジョンは無法地帯だ」なんて粋がっている手合いもいるが、実際はギルドの目が光っていて、迷惑行為は厳しく取り締まられている。

 職員には逮捕権まであるというから、少なくとも日本国内のダンジョンに関しては、治安はそれほど悪くないと言えるだろう。


 俺は足元に注意を払いながら、戦闘音から離れるように進んだ。

 すると、前方に怪しい影が揺れた。周囲を確認する。……よし、他の探索者はいない。獲物は俺だけのものだ。

 闇に目を凝らすと、粘り気のある生物がじわりじわりと床を這いながら近づいてくる。


「グリーンスライムか。今日の初戦には、ちょうどいい相手だな」


 ダンジョンではお馴染み、ソロ専の俺でもカモにできる低レベルモンスターだ。

 見た目はプルプルしたゼリー状の塊だが、油断は禁物だ。数は二匹。左右からじわじわと、俺の退路を断つように距離を詰めてきやがった。


 俺は即座に身構え、腰のショートソードを抜き放った。

 一匹目がボヨヨンと勢いよく跳ね上がる。俺は一歩横に踏み出して突進をかわすと、すれ違いざまに剣を振るった。

 だが、刃は粘土のような弾力に押し返された。スライムは空中で姿勢を崩し、壁にべとりと音を立ててくっついた。


「スライムの酸は、マジで痛いんだよな……」


 ダンジョン内でのダメージは、現実世界のケガとは少し仕組みが違う。

 モンスターから攻撃を受けると「HP」という数値が減り、それに応じて負傷と痛みがセットでやってくる。

 ただ、ダンジョンの中では肉体が物理的にバラバラになるような損壊は基本的に起きない。

 ただし、HPの八割を一度に失うような過剰なダメージを受けた場合は例外だ。その時は、現実と同じように深刻な欠損が起きることもあるらしい。


 傷の回復も地上より格段に早い。

 HPは時間と共に回復する仕組みで、俺たちみたいな低レベルの間は、HPが半分くらいまで減っても、一晩寝て翌日になれば全回復していることがほとんどだ。

 それに応じてケガも自然に治癒していく。もし回復魔術(ヒール)治癒薬(ポーション)を併用すれば、数値の回復と共に外傷も驚くべき速度で消失する。


 致命的な大ケガをする可能性が低いからこそ、最近はハイキング感覚でダンジョンに潜ったりしている素人探索者も少なくない。

 だが、ダメージを受けたサインとして、現実の負傷に近い痛みはしっかり感じる。

 ケガの治りが早い分、地上の大ケガよりはマシかもしれないけれど、スライムの酸は継続的なダメージを伴う。

 じわじわと焼かれるようなヒリヒリした痛みが、数十分間も続くのだ。剣でスパッと切られる一瞬の痛みよりも、この地味な苦痛の方がずっと精神を削ってくる。


「食らえ、炎弾(フレイムバレット)!」


 俺は左手を突き出し、魔術を放った。真っ赤な火球が射出され、壁に張り付いていた一匹目を直撃する。

 グリーンスライムは火に弱い。激しく燃え上がったかと思うと、一瞬で蒸発して消え去った。


 さて、もう一匹は――。


 床を這う二匹目の消滅を見届けようとした途端、視界の端で、さっきかわして壁に貼りついていたスライムが、跳ねるようにして俺に飛び込んできた。


「しまっ――!」


 慌てて目の前に剣を構える。刃がグニャリとした質感を切り裂き、緑色の液体が床に飛び散った。

 だが運悪く、その酸の一部が袖の隙間をくぐり抜け、手首の肌にかかってしまった。


「――っ、熱いッ……! チッ……!」


 肌を直接焼かれるようなヒリヒリ感に、俺は顔をしかめた。

 だがここで手を止めたら、また再生してくる。俺は床にぶちまけられた緑の残骸を、一つずつ剣の柄で、あるいはブーツの底で徹底的に踏み潰した。

 スライムは、一定以上の大きさを保てなくなると形を維持できずに消滅する。

 俺は、細かくなった破片が完全に粒子になって消えるまで、執拗に足裏でグリグリとやり続けた。


「……ふう。たかがスライム相手に、熱くなりすぎたか」


 痛む手首をさすりながら、俺は大きく息を吐いた。こんな雑魚相手に被弾しているようじゃ、先が思いやられる。

 俺は暗闇の奥を見据え、再び気を引き締め直した。


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