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底辺探索者は《過去改変》で終末世界を改竄する  作者: モコタ
第三章 世界線の移動(2026年α)

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44話 《過去改変》初めての魔物退治

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 小学四年生の十月。

 温暖化の影響か、十月だというのに残暑が厳しく、空気にはまだねっとりとした夏の気配がまとわりついていた。

 学校が終わった放課後。公園に集まった俺たちは、夢中で野球に興じていた。

 野球と言っても、ゴムボールとプラスチックのバットを使った、たった四人での「三角ベース」だ。

 メンバーは俺と保科(ほしな)(すばる)、それに三浦(みうら)早苗(さなえ)桃井(もものい)福嗣(ふくし)の四人。

 吹き出す汗も拭かずに、泥だらけになって走り回る。子供の体力っていうのは、本当に底知れないものがある。


 スキル《過去改変》は成功した。このまま六十分間は、この懐かしい過去の世界に留まることができるはずだ。

 だけど、制限時間が過ぎて現実へ引き戻されれば、そこにはあの凶悪な魔物紅白熊猫(レッドパンダ)が、牙を剥いて待ち構えている。


 今回選択した『過去改変B』は、発動地点から二分間の時間を遡行させる。

 逆算すれば、意識が戻る場所はあの魔物と遭遇した直後、あるいは逃走を開始した直後あたりだろうか。

 しかし、同じように闇雲に走ったところで、結果が変わる保証はどこにもない。

 再び六角に突き飛ばされ、無様に転倒し、死の顎に呑み込まれる……そんな絶望的な未来がリピートされるだけではないのか。

 これでは単に、処刑までの猶予がわずかに延びたに過ぎない。


 焦燥が脳内を焼き尽くしそうになった、その時だった。


 カツン、とプラスチックのバットがボールを捉える乾いた音が響いた。

 福嗣が放った鋭い打球は、十月の強い日差しを跳ね返しながら、綺麗な放物線を描いて高く舞い上がる。

 それは公園の隅っこにある、手入れの行き届いていないボサボサの花壇へと吸い込まれていった。

 俺の体は、考えるよりも先に、そのボールを拾おうとして走り出していた。



 公園、十月の午後――。

 全力で土を蹴る感触が、ふいに記憶の底に眠っていた「記録」を鮮やかに呼び覚ました。

 そうだ、確かこの時期、この公園は学校から立ち入りを厳しく禁止されていたはずだ。

 理由は、数百メートル先で新しいダンジョンが見つかったから。

 ダンジョンの周りに魔物が湧き出すのは当たり前のことだけど、当時はまだ、その影響がどこまで及ぶのか正確にはわかっていなかった。

 だから小学校は万が一を考えて、公園への立ち入り禁止命令を出していたんだ。


 もっとも、好奇心の塊である小学生がそんな警告を真面目に聞き入れるはずがない。

 むしろ「大人がいないなら貸し切りで遊べるぞ」と、俺たちは禁忌を犯してここへやってきたのだ。


 数ヶ月前に発生したダンジョンは、後に「小田原ダンジョン」と呼ばれることになるD級ダンジョンだ。

 D級の特性として、入り口から半径五百メートル圏内には低級モンスターが自然発生する可能性がある。

 この公園は、まさにその危険地帯の縁に位置していた。この場所が一年後にはC級へと変質し、ダンジョン・スタンピードを引き起こすことになるのだが……それはまだ、先の話だ。



 さらに俺は、己の記憶を深く掘り下げる。これは改変前の、本来の時間軸における事実だ。

 冬休みに入る前、十一月頃に、この公園で魔物が発見されて大きな騒動になった。

 見つかったのは最弱種である「ぷちスライム」だったが、魔物という存在に免疫のない当時、その衝撃は大きかった。

 そして、その第一発見者は、学校の指示を無視して遊んでいた不届きな小学生たちだったはずだ。


 つまり、この公園のどこかに、魔物が潜んでいる可能性は極めて高い。


「ちょっと緋呂、どこ行くのよ! ボールはそっちじゃないでしょ!」


 俺がボールを無視し、公園脇の薄暗い茂みへ迷わず突っ込んでいったため、早苗が当惑した声を上げる。

 説明なしの独断専行は心苦しいが、今の俺には一分一秒の猶予も残されていない。

 俺は過去のニュースで報じられた「発見場所」の記憶を頼りに、生い茂る夏の草木を必死にかき分けた。


 そして、ついにその姿を捉えた。


「……いたぞ」


 ぷちスライムだ。

 全魔物の中でも最弱を競う雑魚中の雑魚である。

 非戦闘員でも容易に討伐可能なため、後世では探索者免許の試験用ターゲットに選ばれることも多い。

 基本的に地上に現れるモンスターはこの程度なので、当時の人々の危機意識は薄いのだ。

 高ランクのダンジョンの場合は周囲は封鎖されているしね。


 俺は足元の拳大の石を拾い上げ、渾身の力を込めて投げつけた。相手がどれほど弱小とはいえ、小学生の生身で接近戦を挑むのはリスクが高い。

 ぷちスライムの唯一の攻撃手段は、対象に絡みついて締め上げ、窒息させることだ。

 つまり、接触さえしなければ脅威ではない。鈍重な動きを見切り、アウトレンジから一方的に叩くのが、今の俺にできる最善の戦術だ。


 スライムに石を投げていると、異変を察した三人が駆け寄ってきた。


「それ……まさか、ニュースで言ってた魔物じゃないのか?」


「おいおい、何やってんだよ緋呂! 危ないって!」


「スライムをやっつけてるんだ。三人も手伝ってよ」


 子供の細い腕力では、一撃のダメージは微々たるものだ。独りでは時間がかかりすぎる。

 俺は半ば強引に、友人たちをこの異常事態へ巻き込んだ。


「緋呂って、たまに謎の行動力があるよね」


 早苗が石を拾って投げる。見事なコントロールでスライム命中した。

 小学生は男女の体力差がほとんどないとはいえ、さすがは少年野球チームで中核選手としてレギュラー張っているだけのことはある。

 文句を言いながらも、早苗が石を拾って鋭くスナップを利かせる。放たれた石は寸分の狂いもなくスライムの核付近を射抜いた。


「うらぁぁぁ!」


 やけくそになって石を投げまくっている昴は意外と小心者だ。

 小石を適当に投げまくっているので当たってもダメージになっているのか良く分からない。砂をかけているだけという気もする。

 走るのが遅く運動苦手なイメージのある福嗣は意外と力は強い。大きい石を投げつけていた。


 そんなこんなでスライムが近づいてくると距離を空けて石を投げ続けるということを三分ほど続けた。

 スライム系の魔物は魔法に弱いが物理耐性がある。なので倒すのに時間がかかってしまった。

 それでも地味にHPを削り続けば死んでしまう。

 モンスターは死ぬと光の粒子となって消滅する。後には小さな魔石が一つだけ残った。

 この大きさなら五十円くらいかな。でも小学生には魔石の換金なんて出来ない。



「これ、欲しいな」


 昴がそう言って、俺が手に入れた魔石を指さした。

 最弱の魔物とはいえ、倒した証であるそれは、子供の目には綺麗な宝石みたいに映るんだろう。

 俺はそれを迷わずあげることにした。小学生って、珍しい石とかを集めるのが大好きだしな。


 このやり取りは、本来の歴史にはなかったことだ。

 つまり、俺は今、大きく過去を変えてしまったことになる。

 けれど、現代に戻った時に生き残るためには、ここでやりきるしかない。

 今の弱いままで二分前に戻っても、あの紅白熊猫(レッドパンダ)から逃げきれずに殺される可能性が高いからだ。


 そのために、俺はこの過去の世界でモンスターを倒した。

 経験値を稼ぎ、ステータスを手に入れるために。


「ステータスウィンドウ!……あっ、出た」


 俺が虚空に向かって唱えると、半透明の画面が浮かび上がった。


「え、緋呂、どうしたの?」


 不思議そうに覗き込んでくる早苗に、俺はそれっぽい理由をでっちあげる。


「前に噂で聞いたことあるんだけど、モンスター倒した後にステータスウィンドウって言うと目の前に自分しか見えない画面が出て来るんだ」


「そんな馬鹿なこと………ステータスウィンドウ、うぇっ」


 半信半疑だった早苗が、自分の目の前に現れた画面を見て間抜けな悲鳴を上げた。

 どうやら、さっきの魔物退治に協力したことで、彼女たちもステータスを獲得したみたいだ。

 昴と福嗣も、同じように画面を出して目を白黒させている。


 自分だけでなく、三人の過去も変えてしまった。

 こうなった以上、最後まで面倒を見て責任を取ってやらなきゃいけない。


「実はさ。お父さんの会社の同僚の弟の人が自衛隊の人ってことで、ステータスについてお父さんから聞いたことがあるんだ」


 もちろん、嘘である。

 そんな知り合いはいない。

 知るはずの無い情報を知っていることにするには架空の人物をでっちあげるしかない。

 どうせ言ってることが本当かどうかなんて確かめようがないのだから。


「スキルの取り方を教えるから今日のことは四人の秘密にしよーね」


 三人に口止めをしつつステータスウィンドウを見ながら説明をすることにした。


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