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底辺探索者は《過去改変》で終末世界を改竄する  作者: モコタ
第三章 世界線の移動(2026年α)

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42話 三人の大学生③

 年末が近づくにつれ、俺は密かな期待を膨らませていた。

 年末年始という長期休暇に入れば、自ずと皆で連れ立ってダンジョンに潜る機会も増えるはずだ。

 そんな楽観的な観測を立てていた。だが、現実は俺の目論見通りには運ばなかった。

 頼りにしていた渋川さんは「この時期ばかりは家族サービスに専念しないと、家に入れてもらえなくなる」と苦笑いを浮かべ、十二月の中旬の探索を最後に、完全な休暇期間に入ってしまったのだ。


 大学生の三人組ともクリスマスに探索したが、その後はなかなか都合がつかなかった。

 実家が近い彼らは、地元の友人と忘年会をするとかなんとかで忙しそうだった。

 結局、年内の探索は大晦日に三回目を行うという約束を取り付けるのが精一杯だった。


 長期休暇の間、基本的にはダンジョンは混み合うものだ。

 だが、さすがに大晦日ともなれば、そこまでの混雑はなかった。



「大晦日なのに暇なんだな」


 京極淳史が歩きながら、いつものようなフランクな口調で話しかけてきた。


「暇というわけじゃない。時間を有効活用しているだけだ。君たちこそ、勉強の方は大丈夫なのか」


 俺が問い返すと、淳史の隣を歩く佐々木祐樹が苦笑いした。

 詳しく事情を聴いてみると、彼らもまた切実な経済的問題に直面していた。大学の授業料改定により、資金を早急に工面せねばならないのだという。


「ケッ、割のいいバイトなんてこの世にゃ存在しねえが、三階層の収益性は馬鹿に出来ねえからな」


 京極淳史が憮然とした表情で吐き捨てる。

 危険の代償として、短時間でまとまった収入を得る。彼らの選択は、パンデミック後のこの時代における、最も効率的で一般的な価値観そのものだった。



 俺たちは慣れた手付きで一階層、二階層を突破し、三階層へと足を踏み入れた。

 大学生の三人組と雑談しながらダンジョンの湿った空気の中を進む。

 足音だけが石畳に反響する。佐々木たちの動きを見ていると、以前よりもずっと手際よく、迷いなく敵を屠っているのがわかる。

 彼らはレベルこそ俺より低いが、振るう剣の鋭さや身のこなしから察するに、すでにスキルランクは俺を上回っているのだろう。


 それでも、俺には《索敵》がある。ダンジョンの闇に潜む敵の気配を捉える。その位置を的確に指示し、パーティを奇襲から守る。

 一応、役には立っているはずだ。だけど、彼らの背中を見るたび、自分自身の戦闘力の低さを突きつけられるようで、胸の奥が少しだけヒリついた。


 前方にモンスターの気配。しかも、いきなり五体。


「注意しろ! 前から来るぞ。五匹だ!」


 俺の警告に、佐々木祐樹と六角佳正が即座に反応し、武器を構える。

 通路の先、ゆらりと揺れる暗闇から、醜悪な影が姿を現した。影が視認できたと思った瞬間、空気を切り裂く鋭い音が響く。


「くっ……!」


 先頭に立っていた六角の足に、一本の矢が突き刺さった。暗闇から放たれた先制攻撃。矢を放ったのは、緑色の肌に裂けたような口を持つ亜人――ゴブリンの集団だった。

 三階層のゴブリンは、錆びてはいるが鉄製の武器を使いこなし、何より組織的な連携を得意とする。油断すれば、その数と狡猾さに飲み込まれる。


「問題ない。HPが二十ほど削れただけだ」


 六角が苦悶に顔を歪めながらも、足に刺さった矢を力任せに引き抜いた。

 ダンジョンの中では、致命傷でなければ痛みはすぐに引き、後遺症も残らない。戦闘継続は可能だ。


氷弾(アイスバレット)!」

炎弾(フレイムバレット)!」


 俺と京極淳史の魔術が同時に放たれた。乱戦に持ち込まれる前に、少しでも敵の数を減らす。

 俺の放った氷の礫が、先頭を走っていたゴブリンの眉間に直撃し、その体を氷漬けにする。

 京極の炎弾も別の個体の胸に命中し、爆散させた。二匹が沈む。しかし、残りの三匹は仲間の死など気にも留めず、奇声を上げながら突進してきた。

 最後尾にいる弓持ちの一体だけが、冷静に次の矢を番えている。


 俺は剣を抜き、佐々木と六角のフォローに入るべく地を蹴った。そこへ、二の矢が飛んでくる。――見える。


 《回避D》が強制的に俺の体を捻じ曲げた。無意識の領域で矢をかわし、肉薄する短剣持ちのゴブリンへと剣を叩きつける。

 ガギィィン! と重い金属音が響く。ゴブリンは手にした錆びた短剣で俺の一撃を受け止めた。意外に力が強い。だが、俺は止まらない。そのまま空いた足でゴブリンの腹を蹴り抜いた。


 《追撃D》発動。


 衝撃がゴブリンの体内で爆ぜる感覚。確率で追加ダメージを与えるこのスキルは、地味だが確実に敵の生存力を削り取っていく。

 怯んだ隙に、俺は剣を横に薙ぎ、その首を撥ね飛ばした。


 俺の《剣術 Lv2》では、すでに《剣術 Lv3》に達している佐々木のような派手な立ち回りはできない。

 ならば、俺の役割は決まっている。二人の援護、そして遊撃だ。敵の数が多い状況で、二人が一対一の状況を作り出せるように、俺が隙を埋める。それがこのパーティにおける俺の生存戦略だ。


氷弾(アイスバレット)! 氷弾(アイスバレット)!」


 後方の京極が、弓持ちのゴブリンを執拗に狙い撃ちしている。魔術の弾幕に晒され、敵の射手は反撃の機会を奪われている。今だ。


 俺は懐から投げナイフを取り出し、手首のスナップを利かせて放った。《投術 Lv3》の補正を受けた刃は、吸い込まれるように弓持ちのゴブリンの喉元へと突き刺さった。


 ――クリティカル!


 ゴブリンが糸の切れた人形のように崩れ落ちる。これで遠距離攻撃の脅威は消えた。

 残る一匹は、佐々木の鋭い刺突によって心臓を貫かれ、絶命していた。数の優位が逆転すれば、もはやゴブリンなど敵ではない。五匹のゴブリンは、ほどなくして光の塵へと変わった。


「ふぅ……よし、なんとかなったな」


 手応えを感じ、俺は小さく拳を握った。


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