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底辺探索者は《過去改変》で終末世界を改竄する  作者: モコタ
第三章 世界線の移動(2026年α)

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40話 三人の大学生②

 ダンジョンの二階層をしばらく進むと、前方の暗闇から三匹のモンスターが姿を現した。

 額が岩のように硬質化しており、強烈な頭突きを得意とするヘッドマウスだ。


 六角が太い棍棒を構え、佐々木が剣を手に前へ出る。

 敵が二匹までなら二人に任せるつもりだったが、三匹となれば話は別だ。

 俺も剣を抜き、彼らと並んで足を踏み出す。前衛も後衛もこなせるオールマイティさこそが、俺という探索者の売りだからな。


 ヘッドマウスの攻撃パターンは頭突きと噛みつきだ。

 あの頭突きをまともに食らえば、石塊で殴られたような衝撃を受ける。だが、真面目に観察していればかわせない速度じゃない。

 ソロで複数同時に相手をするのは厳しいが、仲間がいれば一匹ずつ確実に処理できる。


「京極、お前は下がってろ。MPは温存だ。ここは俺たちに任せて高みの見物でも決め込んでくれ」


 魔術メインの京極にはお休みを言い渡し、俺たちは一気に距離を詰めた。

 六角が棍棒でヘッドマウスを叩き潰し、佐々木が鋭い剣筋で別の個体を斬り伏せる。

 俺は向かってくる突進を紙一重でかわすと、すれ違いざまに横っ腹を蹴飛ばした。バランスを崩して床に転がったところへ、容赦なく剣を突き刺す。


 ヘッドマウスは光の粒子となって空気に溶け、静かに消滅した。

 後に残ったのは、小さな魔石が一つと、銅貨が十二枚。魔石と合わせて千円くらいの稼ぎといったところか。

 銅貨の相場は一枚五十円程度。百枚集めてようやく銀貨(五千円)と交換できる計算だ。ちなみに金貨は五十万円、白銀貨ともなれば五千万円という大金になる。


 魔石だけを拾って銅貨を捨て置く効率重視の探索者もいるが、金欠の俺にそんな贅沢は許されない。

 一円たりとも無駄にせず、すべてを懐に収める。


「楽勝ですね」


 佐々木が呑気に笑う。二階層なら、まあこんなものだろう。


「早く三階に下りようぜ」


 戦闘に参加しなかった京極が、退屈そうに急かしてくる。確かにこの四人なら、三階層でも十分に戦えるはずだ。

 俺は二階層には何十回と通い詰めているから、階段の場所は完全に脳内マップへ刻まれている。

 今日は深夜のバイトもあって時間がない。とっとと先へ進むとしよう。


「よし、三階に下りるぞ。はぐれるなよ」


 俺は三人の大学生を引き連れて、三階層へと続く冷たい石の階段を下りていった。


 三階層に足を踏み入れても、視界に入る風景に劇的な変化はない。相変わらずの石畳の通路と、無機質な石壁で構成された迷宮が続いている。

 通路の幅は十メートル、天井の高さは五メートルほど。どこからともなく漂う不思議な光源のおかげで、松明なしでも歩く分には支障はない。


 ここは俺にとっても何度か足を運んだ場所ではあるが、だからといって油断していい理由にはならない。

 むしろ、ここからが本番だという緊張感で背筋が伸びる。暗闇の奥にどんな怪物が潜んでいるか、完全に予測しきることは不可能なんだ。

 推奨レベル内であれば対処可能なはずだが、稀に常識外れの強さを持つ個体、イレギュラーが現れることだってある。


 今の俺たちの平均レベルは、三階層に挑むには正直ギリギリだ。心からの安心なんて、このダンジョンのどこを探したって見つかりゃしない。

 そんな状態で唯一頼りになるのが、俺の持つ《索敵》スキルだ。


「索敵開始……。よし、周囲に敵影なし」


 スキルを発動し、目に見えない波紋を広げるように周囲の気配を探る。

 とりあえず、すぐ近くに潜伏している不届きなモンスターはいないようだ。


「みんな、ここからは一層気を引き締めて進むぞ」


 俺の号令に、三人が表情を硬くして力強くうなずく。

 慎重に、一歩ずつ踏みしめるように通路を進んでいく。しばらく歩いたところで、俺の《索敵》スキルが反応を示した。

 前方、暗闇の奥に三匹の気配。種別までは判別できないが、こちらを押し潰すような圧倒的な威圧感はない。


「気をつけろ、何か来るぞ!」


 俺たちが足を止め、武器を構えて身構えた次の瞬間。闇を切り裂いて、緑色の肌をした不気味な小鬼――ゴブリンたちが姿を現した。

 汚い牙を剥き出しにし、獲物を見つけた歓喜に震えながら一斉にこちらへ突撃してくる。


「ゴブリンだ! 構えろ!」


 佐々木の叫び声を合図に、俺たちはそれぞれの役割に従って流れるように動き出した。


 ゴブリンという魔物は、単体であれば二階層でも顔を出す馴染みのある相手だ。

 佐々木たち三人にとっても、二階層で何度も勝利を収めてきた経験がある。

 だから、一対一の状況であればそれほど心配はしていない。案の定、真っ先に襲いかかってきたゴブリンに対し、佐々木が鋭い一撃を見舞う。肉を裂く嫌な感触と共に、どろりとした緑色の血が虚空に飛沫を上げた。


 だが、ここからが三階層の恐ろしさだ。ゴブリンは単体ならただの雑魚に過ぎないが、複数が群れをなすと、途端に狡猾な連携を見せてくる強敵へと変貌する。前後から挟み込み、死角を突いてくる連中の動きに飲み込まれれば、あっという間に窮地に立たされるだろう。

 だからこそ、こちらも連携を組んで戦わなければならない。


「六角、佐々木、出るぞ!」


 俺の号令で、俺と佐々木、そして六角の三人が前衛として一気に前に出た。

 作戦は単純だが確実なものだ。前衛三人がそれぞれ壁となり、ゴブリンを孤立させて一匹ずつ確実に処理していく。

 連中に得意の集団戦法を許さず、個別に引き潰してしまえば、もはや脅威ではない。


 その間、後衛に控える京極が精神を集中させ、魔術の詠唱を開始した。


氷弾(アイスバレット)!」


 放たれた氷の礫が、空気を切り裂いてゴブリンの胴体に直撃する。衝撃と冷気に呻き、動きを止めたゴブリンの隙を、佐々木が見逃さずに追撃で畳みかけた。

 彼らのレベルは俺より少し低いとはいえ、こうして見れば十分に戦えている。年長者であり、レベルも一番高い俺が、ここで無様な姿を見せるわけにはいかない。背筋を伸ばし、一際気を引き締める。


「倒したぞ、次だ!」


 佐々木の最後の一撃により、ゴブリンは光の粒子となって霧散した。彼は休む間もなく、隣で奮闘する六角の援護へと滑り込む。

 二人がかりの猛攻にさらされたゴブリンは、もはや防戦一方だ。連携の形を保てない魔物など、もはや屠られるのを待つだけの獲物に過ぎなかった。


 その乱戦の最中、俺も目の前の一匹を確実に仕留めにいく。剣筋を冷静に見極め、急所を一突き。

 消滅していく魔物の光を見届け、どうにか年長者としての面目を保てたことに内心で胸をなでおろした。


 数分に及ぶ激しい乱戦の末、通路には静寂が戻り、ゴブリンたちは全滅した。



 ゴブリンたちが消え去った後には、いくつかの魔石と素材が転がっていた。俺たちはそれらの戦利品を拾い集めていく。


「ゴブリンの牙か。これ、地味に買い取ってもらえるんですよね。確かポーションの材料になるんでしたっけ?」


 佐々木が拾い上げた牙を光にかざしながら、感心したように呟いた。

 今回の探索で得た素材は、最終的にすべて売却して四人で均等に分配する手はずだ。

 もし個人的に所有したい素材があれば、ギルドの買取価格分をパーティーの共通財布に支払ってから引き取る。

 それが、俺たちが定めた公平かつ合理的なルールである。


「……さて。今のゴブリンとの交戦はどうだった? 三階層の導入部としては、いささか手応えに欠ける内容だったかもしれないが」


 俺の問いかけに、佐々木は肩の力を抜き、人懐っこい笑みを浮かべて返事をした。


「全然、大丈夫でしたね。三階層って聞くともっと絶望的な展開になるかと思ってましたけど、この調子なら行けそうです!」


 どうやら、彼らにとって三階層の探索は今のところ大きな支障はないようだ。

 それなら、このまま探索を続けることにしよう。


 どうやら、彼らにとって三階層の探索は、現時点では大きな支障はないようだ。

 それならば、このまま歩を進めることに異論はない。


 パーティーのレベル配分を確認すれば、現在16の俺が最高値であり、ステータスの面でも中心的な役割を担うことになる。

 特に、俺の《索敵》スキルをフル稼働させていれば、不気味な暗闇からの不意打ちを完封することも不可能ではない。

 四人がそれぞれの役割を理解し、協力体制を維持すれば、この階層のモンスターに後れを取る道理はないのだ。


 正直に白状すれば、当初は大学生たちによる遊び半分の探索ではないかと、どこかで侮っていた部分もあった。

 だが、実際に背中を預けてみれば、彼らの実力は想像以上に高かった。若さゆえの瞬発力だけでなく、戦況を見極める的確な判断力も備わっている。

 三階層のモンスターを相手にするには、これ以上なく頼りになる人材だ。


(ふむ。どうやら俺は、非常に幸運な巡り合わせを得たらしいな)


 そんな手応えを感じながら、俺たちはさらに三階層の奥深くへと足を踏み入れた。


「左から二体、来るぞ。迎撃態勢を整えろ!」


 俺の鋭い号令と共に、暗闇から飛び出してきたグレイウルフ二匹を撃退する。

 一戦終えるごとに、素材と魔石を厳格に回収していく。大学生たちの動きは、戦闘を重ねるごとに洗練されていった。

 若さゆえの吸収力だろうか、彼らの剣筋から迷いが消え、俺に対する信頼が厚くなっていくのが肌で感じられる。


 しばらく探索を続け、いくつかの小規模な戦闘をこなしていた時のことだ。

 六角のレベルが上がった。


「……レベル、13になった」


 口数が少なく、普段から一歩引いた立ち位置にいる六角が、短く、だがどこか嬉しそうに拳を握って報告してくれた。

 その様子は、大きな体を小さく丸めるようで、どこか微笑ましい。


「マジかよ佳正! やったな、おめでとう!」


 隣にいた佐々木が、自分のことのように顔を輝かせて、六角の広い肩を力いっぱい叩いていた。

 静かだった通路は一気に祝福の声で包まれる。


「今日は最高にいい日ですね。北條さん、これ、探索が終わったら打ち上げに行きましょうよ!」


 佐々木が期待に満ちた目で俺を見つめてくる。

 その後ろでは、斜に構えている京極も、心なしか足取りを軽くしてこちらの反応を待っていた。


「よし。パーティー結成の景気付けと、六角のレベルアップ祝いだ。今日はこのあたりで切り上げよう。景気良く飲みに行くとしようじゃないか!」


 俺の言葉に、三人の大学生たちは待ってましたとばかりに歓声を上げた。


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