39話 三人の大学生①
「メンバー募集の件ですけど、条件とは少し違いますが、応募が一件ありましたよ」
ギルドの受付嬢、楠木さんのその言葉に、俺のテンションは一気に跳ね上がった。
「本当ですか!?」
身を乗り出すようにして問い返す。
「……それで、どういった条件の方たちなんです?」
「大学生の三人組なんですけどね。一人がレベル14で、残りの二人がレベル12だそうです」
俺が出していた希望条件は、レベル18以上の探索者一人か、あるいはレベル14以上の二人組だった。
糟屋ダンジョンの三階層を探索するには、レベル14の探索者が三人揃うのが最低条件とされている。
今の俺のレベルは16だ。それくらいの戦力が揃えば、ようやくまともな探索の形になる。
三人ではなく、俺を含めた四人パーティーであれば、レベル12が混じっていても十分戦い抜けるだろう。
その大学生三人組は、自分たちだけでは適正レベルに届かず、三階層に挑むのは難しい。
だが、俺と組めば三階層への切符が手に入る。
ちょうど大学が冬休みに入るというタイミングも、彼らにとっては都合が良かったのかもしれない。
自分より低レベルの探索者と組むのは、本来なら効率が良いとは言えない。
四人パーティーとなれば、手に入る素材も経験値もすべて四分割だ。だからこそ、当初の募集条件には彼らのような低レベル層は入れていなかった。
だが、俺一人では逆立ちしたって三階層を探索することはできない。
適正レベル以下の階層でどれだけ魔物を倒したところで、効率が悪すぎて話にならない。
三階層に足を踏み入れられるのであれば、この話は俺にとっても決して悪い話ではないのだ。
「問題ないです。その条件で受けさせていただきます」
素材の分配が四分割になる以上、収入面ではあまり期待できないかもしれない。
だが、レベルを早く上げないと人生が詰んでしまう俺には、一分一秒の無駄も許されないのだ。
今は目先の小銭を追いかけるよりも、着実に強くなれる経験値効率を選ぶしかない。
それに、三階層のモンスターの方がレアドロップの可能性が高い。
運よくレアな素材を一つでも仕留めることができれば、収入面だって現状を大きく上回ることだってあり得る。
▽
「本日よりお世話になります! よろしくお願いします!」
元気のいい挨拶とともに頭を下げたのは、佐々木、京極、六角の三人組だ。
彼らは現役の大学二年生。学業の傍ら、ダンジョン探索をバイト感覚でこなしている若者たちである。……いやはや、二十代半ばに突入した俺からすれば、その溢れんばかりの若さとエネルギーは眩しすぎて網膜が焼けそうだ。
ここで少し、現代の世知辛い大学事情を解説しておこう。今の大学学生課という場所は、実は政府公認の「クラン」として認定されている。
学生が探索を行う際は、学生課が窓口となってギルドと連携し、バックアップを受けられる仕組みだ。
二〇二四年のパンデミック以降、政府の予算がダンジョン対策に偏ったせいで、大学への補助金はボロボロに削られた。
結果、大学側も学生にダンジョンを潜らせて国からの支援金を得ないと、運営の歯車が回らないというわけだ。
彼らにとっての探索は、夢を追うプロへの道ではなく、あくまで「効率の良い生活費稼ぎ」なのだろう。
パーティーの構成を確認すると、前衛に佐々木と六角、後衛に京極。実に教科書通りのバランスだ。
前衛も後衛もそれなりにこなせるが、決定打に欠ける器用貧乏な俺としては、彼らの動きを観察しつつ、足りない穴を埋めるパズルの一片として動くのが最善だろう。
彼ら大学生にとって、今は待ちに待った冬休みだ。時間が腐るほどあるうちに集中的に潜り、レベルを上げて稼ぎたいという思惑らしい。
彼ら三人の実力では三階層への挑戦は荷が重いが、レベル16の俺が加われば話は別だ。お互いの利害は一致している。
「よし、方針は決まったな。顔合わせの会議だけで一日を潰すなんて、時間の無駄遣いも甚だしい。早速ダンジョンへ向かうぞ」
俺の提案に、三人は期待と緊張が入り混じった顔で頷いた。
向かった先は糟屋ダンジョン。初心者に優しいE級ダンジョンであり、俺にとっては文字通りの「ホーム」だ。
何しろ、俺が借りているボロアパートはここから徒歩二分の距離にある。ダンジョンの入り口付近はモンスターが湧くリスクがあるため家賃が激安なのだが、E級程度なら低レベルの俺でも安全は確保できる。
ダンジョンの入り口は、地面にぽっかりと空いた巨大な「大穴」である。直径十メートル、深さ五メートル。
その底に地下へと続く階段があり、そこから先が異界の入り口だ。大穴の周辺は高いフェンスで厳重に封鎖され、ギルドの詰め所には職員が目を光らせている。
「北條緋呂です。こちら、パーティー全員分の登録証になります」
受付で免許証を提示し、手際よく手続きを済ませる。
学生たちの冬休み期間は三十分待ちの行列ができることもあるが、今日は運良く人の波が切れたタイミングだった。
予定より少し遅めの出発にはなったが、幸先の良い滑り出しと言えるだろう。
「よし、じゃあ行こうか。足元に気をつけろよ」
「うっす、任せてください!」
俺たち四人のパーティーは、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。




