38話 佐々木祐樹α2・京極淳史α2・六角佳正α2
□ 佐々木祐樹α
僕と淳史、佳正の三人は、大学生活を通じてかけがえのない親友になり、共にダンジョンを探索する日々を送っていた。
そんなある日、僕がレベル6に達したとき、信じられないことが起きた。希少な「固有スキル」に目覚めたんだ。
戸惑った僕は、探索者として大成功を収めている兄貴に、初めて真剣な相談を持ちかけた。
「……ランクが上がれば、俺のクランにスカウトしたいくらいのスキルだな。でもな、祐樹。本気で上を目指すなら、人生を投げ出す覚悟で潜り続けなきゃならない。探索者の世界は綺麗事じゃないんだ。お前は大人しく、検事を目指すべきだよ」
兄貴から返ってきたのは、激励じゃなく拒絶だった。
僕には向いていないと突き放され、勉強に専念しろと諭されたんだ。悔しくて、情けなくて、でも諦めきれなくて。僕は淳史と佳正に、震える声で自分の思いをぶつけた。
「……それでも、僕はダンジョンに潜る回数を増やしたいんだ!」
「はあ? お前、本気かよ。大学の講義はどうすんだよ」
淳史が呆れたように声を上げる。
「大学は辞めない。通いながら、限界までレベルを上げるんだ!」
「中途半端だな。そんなんじゃ司法試験だって落ちるぞ。俺はそこまで付き合いきれねーわ」
淳史の言葉は刺さるように冷たかった。
僕たちの目標は司法試験の合格だ。探索に時間を割けば、それだけ勉強時間は削られていく。
「自分の可能性を、最後まで信じてみたいんだ! 司法試験は後からでも受けられる。でも、今しかできないことがあるんだよ! 将来の道に、探索者を本気で入れたいんだ!」
僕は一歩も引かなかった。
「……将来の選択肢、ね。まあ、お前がそこまで言うんなら、俺は止めねえよ」
淳史はため息をついた。口は悪いけど、僕のことを心配してくれていたんだ。
「暇な時くらいは、付き合ってやるからよ」
その不器用な優しさに、僕は救われる思いだった。
僕は強く拳を握りしめた。
□ 京極淳史α
「……はあ? 冗談じゃねえぞ、クソ学長が」
モニターに映し出された大学からの通知を見て、俺は思わず毒づいた。
翌年度の授業料を大幅に引き上げるだと?
二〇二四年のパンデミック以降、マヌケな政府が予算をダンジョン災害の封じ込めに全振りしたせいで、大学への補助金は軒並みカットされていた。
経営のボロい私立が次々と潰れる中、俺たちの通う大学も値上げという姑息な手段で生き残りを図ろうって魂胆だ。
だがな、俺の家の懐事情はとっくにカツカツなんだよ。詐欺師にカモられたジジイ共を抱えて、家族の生活費を捻出するだけで精一杯だ。
これ以上の仕送りを頼むなんて、そんなマヌケな真似ができるかよ。
奨学金の増額申請も今更間に合わねえ。学費と生活費を自力でぶんどるには、もはやなりふり構わず稼ぐしかねえ。
数ある手段の中で、短時間で破格の報酬を得られる唯一の選択肢―――それは、やはり「ダンジョン探索」だ。E級の第二階層まではガキの遊びだが、第三階層以降なら話は別だ。
危険に見合うだけの報酬が転がってやがる。
「目標は第三階層だ。いいか、俺らで死ぬ気で稼ぐぞ!」
不本意ながらも背に腹は代えられねえ。俺はパーティを組む佳正と祐樹に対し、ダンジョンへ本格的に挑む決意を伝えた。
□ 六角佳正α
今年の九月に来年度からの学費上昇の知らせが掲示板に張り出された。
それ以降、俺たちの生活は一変した。
それまでは遊び半分でダンジョンに潜っていたが、生活のかかる本気のダンジョン探索が始まった。
とはいえ、俺たちは現役の大学生。講義やゼミを放り出すわけにもいかず、ダンジョンに潜るペースは週末や祝日がメインだ。
平日は大学の講義が終わった後で、三時間程度の短時間の探索が限界となる。
放課後、俺たち三人は福岡の東側に位置する糟屋|ダンジョンへと向かった。
挑むのはまだ二階層。目標は明確だ。来年度から強行される授業料値上げまでに、三階層で安定して稼げる実力をつけること。
俺と祐樹の二人は、その先の第四階層まで視野に入れている。
……正直、卒業後に探索者を本職にする覚悟までは、まだ固まっていないけれど。
季節は流れ、街が慌ただしくなる十二月。
大きな転機が訪れた。祐樹のレベルが、14に到達した。
一般的に、三階層を安全に探索するにはレベル14のメンバーが三人は必要だと言われている。
だけど、俺と淳史はまだレベル12。順調にいけば四月までには追いつけるかもしれない。
……いや、一月には後期試験があるから、探索の時間は削られるはずだ。
そうなると、学費の支払い期限には間に合わないかもしれない。
すると、祐樹が真っ直ぐな目で提案してきた。
「ねえ、二人とも。もう一人、パーティーに加えないか?」
それは、俺と淳史のレベルを効率よく引き上げるために、もう一人強力な助っ人を雇って三階層へ行こうという作戦だった。
「……待てよ。レベル12のが二人もいる状態で三階層に行くのは、ただの自殺志願だ。俺は反対だぞ」
淳史が鋭い視線で即座に難色を示す。
確かに彼の言う通りだ。僕らの実力じゃ、三階層の魔物には太刀打ちできない可能性が高い。
俺も、もし何かあったらと思うと足がすくみそうになる。
「でもさ、もしレベル16以上のソロ探索者がパーティーに入ってくれれば、危険はグッと減るだろ?」
「レベル16のソロだと? そんな都合の良い熟練者が、わざわざ俺たちみたいな学生パーティーに応募してくるわけねーだろ」
淳史は鼻で笑ったけれど、祐樹は諦めなかった。
あの真っ直ぐな目で見つめられると、俺も「やってみるしかないのかな」って気持ちになってしまう。
結局、俺たちは半信半疑のまま、メンバー募集の相談をしにギルドの受付へと足を運んだんだ。
「……あの、誰か条件に合う人、いませんか?」
おずおずと尋ねる祐樹に、窓口の楠木さんは、すぐに返事をした。
「レベル16の探索者でしたらいますよ。条件には合うと思います。個人的にはお勧めですよ」
その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
レベル16以上が理想だが、レベル15でもなんとかなりそうだ。
受付嬢さんのお勧めなら間違いないだろう。
俺たちはそのソロ探索者―――北條緋呂と組むことにした。




