35話 《過去改変》6回目
レベルが上がったので、俺は《過去改変》のスキルを使うことにした。
この力で過去に戻る時間を計算しやすくするためには、五日間隔でスキルを発動したほうがいい。
その条件を満たすため、俺はレベルが15に上がった三日後にスキルを使うことにした。
「よし、行くか……」
俺は静かに覚悟を決め、『過去改変A』を発動させる。
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小学四年生の七月。
時計の針は正午を回り、四時限目終了のチャイムが校舎に響き渡る。
授業が終わると同時に、教室には待ちに待った給食の時間が訪れた。
「班作ろうよ!」
快活な声を上げたのは、隣の席の三浦沙苗だった。彼女は手慣れた動作で自分の机を動かし始める。
給食といえば、近隣の席同士で机を向かい合わせ、グループを作って食べるのが恒例の風景だ。
「ああ、分かってるって。今やるよ」
俺も促されるまま、自分の机を引き寄せた。
……待てよ。違和感に思考が止まる。
元の時間軸において、俺は彼女と親しく言葉を交わした記憶などなかったはずだ。
確かに四年生で同じクラスだった事実はあるが、接点らしい接点は皆無だったと記憶している。
俺は困惑しながらも、この小さな体に刻まれた「新しい記憶」を必死に手繰り寄せた。
――そうだ、原因は前回の《過去改変》にある。
あの時、父さんに「野球をやりたい」と告げたことで、過去が改変されていたのだ。
あの後で父さんはグローブを買ってきた。それで、小学生の俺は野球への関心が高まり、遊ぶようになった。
そして春休みには地元の少年野球チームの門を叩いていた。そしてそこで、チームメイトとして沙苗と出会った、というわけだ。
元の時間軸では単なるクラスメイトに過ぎなかった彼女だが、今の記憶では同じチームの戦友として、意気投合したことになっている。
三年の担任は席替え後の細かな座席交換を黙認するタイプだったので、俺たちは自然と仲の良いグループで固まり、こうして給食を共にすることになったわけである。
グループの端には、元の時間軸で親友だった桃井福嗣の姿もある。
本来の彼は漫画やアニメを愛する徹底したインドア派だったはずだが、野球好きが集まるこの「陽キャグループ」に配置されて、果たして気疲れしていないだろうか。
まあ、脳内の記憶によればそれなりに上手くやっているようなので、余計な心配かもしれないが。
過去に施した微細な改変が、予想以上に現在の人間関係を塗り替えている事実に驚きを隠せない。
もっとも、俺は数年後に発生する「ダンジョン・スタンピード」の被害に遭い、この街を離れる運命にある。
後に人間関係が強制的にリセットされる以上、今の変化が二〇二六年の俺自身に悪影響を及ぼす心配はないだろう。
(二〇二六年の今、沙苗や福嗣はどうしているんだろうな……)
ふと、そんな感傷が胸を掠めた。今の俺は彼らの連絡先どころか、生死すら定かではない。
この《過去改変》を繰り返していけば、彼らと再会できるかもしれない。
俺は十数年ぶりとなる懐かしの給食を堪能しながら、この書き換えられた平穏な日常の先にある可能性について、静かに思考を巡らせていた。
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過去の世界の人間関係にも変化が出て来た。
たとえ些細な《過去改変》でも、影響は確実に波及する。
このまま手を加えていけば、過去の世界で何が起こるか、完全に予測不可能になるかもしれない。
とはいえ、スタンピードの起きる日時は変わらないだろう。
残された猶予を冷徹に逆算する。
あの日が訪れるまで、過去の世界では「一年十一ヶ月」。対する現実世界では、八ヵ月と少しというところだろうか。
《過去改編》のスキルのクールダウンが三十日ということを考えれば、スキルランクを七ヶ月以内にDに上げたい。
レベル19でランクアップ出来るなら、可能性は十分ある。
レベル20でランクアップ出来るなら、可能性は薄いが不可能とは言い切れない。
レベル21となると、ほぼ不可能なのだ。
来年の六月までに《過去改変》のスキルランクがDに上がらない場合は、一時間のタイムリープで過去を変えないとならない。
まだまだ、予断を許さないな。
《過去改変》の残りTP(18/30)。




