34話 レベル16
十一月上旬、俺は週に一度のペースで渋川さんとダンジョンの三階層に潜っていた。
それ以外の三日はソロで二階層を回り、空いた時間はひたすらバイトに明け暮れる日々だ。
魔石の稼ぎだけでは食い繋げず、貯金はとうに底をついている。今の俺の生活は、控えめに言ってもどん底だった。
日曜の探索を終えた後、俺は意を決して渋川さんに相談を持ちかけた。
「渋川さん、もっとダンジョンに潜る時間を増やせませんか。このままだと、俺……」
渋川さんは深く重たい息を吐いた。
四十代の彼は、いつもどこか眠たそうで、顔には隠しきれない疲労が刻まれている。
「……私も考えていた。だが、仕事は休めないんだ…………」
渋川さんも、決して余裕があるわけじゃない。
彼は「寿命」を前借りして戦っている。
レベルを上げてSPを稼ぎ、借りている分を返済できなければ、数年後には寿命が尽きて死んでしまう。
彼にとっても、俺にとっても、何か大きな打開策が必要なのは明白だった。
「わかった。日曜以外も一緒に潜ろう。平日の夜から深夜にかけて数時間なら、私の仕事が終わった後に時間を作れる」
渋川さんは普段、一般企業で働くしがないサラリーマンだ。
満員電車に揺られ、上司に頭を下げた後のダンジョン探索がどれほど過酷か、想像するまでもない。
「でも、渋川さんの体力が持ちますか? 倒れたら元も子もない」
「大丈夫だ。自分の命がかかっているからね。それに、君の方も切羽詰まっているんだろう?」
渋川さんは自嘲気味に笑った。
切羽詰まっているのは確かだ。前回のレベルアップから、もう二ヶ月が過ぎている。
二ヶ月に一度以上のペースでレベルを上げていかないと、過去を変えるための力――過去世界のスタンピードを止めるだけの実力が、決戦の時に間に合わない。
俺にとっても、ここが本当の正念場だった。
結局、週二回の三階層探索が決まった。
一度は今まで通り日曜の昼間。
もう一度は、水曜の夜九時に待ち合わせて、深夜二時まで潜る。
かなりのハードスケジュールとなる。
それから二週間。
週に二回の探索を続けた。
渋川さんは朝の七時半には家を出ないとならないので、朝六時半には起きているらしい。ダンジョンに潜る木曜日は睡眠時間が三時間ほど。
さすがに疲労が抜けきれないので、これ以上増やすのはきついらしい。
渋川さんは「年を取ると疲れが抜けなくてね」とぼやいていた。
▽
「渋川さん、あれ!」
日曜の昼間、いつものように渋川さんとダンジョンの三階層を探査kしている時に、それを見つけた。
通路の隅で、鈍く銀色に光る塊が震えていた。シルバースライムだ。
めったに出会えない超レアモンスター。
戦闘力自体は大したことないが、倒せば五階層の化け物並みの経験値が手に入るボーナスキャラだ。
ただし、異常に素早くて逃げられやすい。少しでもダメージを与えた場合、すぐに闇の向こうへ消えてしまう。
「落ち着け、緋呂。前後から挟むぞ」
渋川さんの低い声に従い、俺たちは足音を殺して移動した。
シルバースライムを完全に挟み撃ちの形にする。
「やるぞ!」
渋川さんの合図と同時に、彼の指先から放たれた炎弾が空を切り裂いた。
直撃を受けたシルバースライムは、一直線に俺の方へと転がってくる。
「逃がすかよ……!」
俺は逃げ道を塞ぐように前に出た。
俺の回避スキルは、敵の攻撃を避けるためのものだ。だけど、あえて攻撃の軌道に体を割り込ませることで、回避行動の反動を利用し、強引にシルバースライムの移動先を潰した。
回避を「当てる」ために使う――そんな無茶な応用で、俺は体を張って銀色の塊を足止めする。
行き場を失い、俺の足元でもがくシルバースライム。
「今だ!」
俺の剣と、渋川さんの使い込まれた武器が、同時に銀色の体へ突き刺さった。
プルンッ、という奇妙な手応えと共に、シルバースライムが眩い光の粒子に弾ける。
その瞬間、脳内に透き通ったアナウンスが響き渡った。
「レベルが、上がった……」
【名前】 北條緋呂
【年齢】 25歳 【レベル】 Lv16
【HP】 331/373
【MP】 292/358
【攻撃】 231
【防御】 220
【敏捷】 227
【理力】 215
【技力】 210
【幸運】 204
【SP】 1610
【武装スキル】 《剣術 Lv2》《投術 Lv2》《体術 Lv2》
【魔術スキル】 《火魔術 Lv3》《土魔術 Lv2》
【固有スキル】 《過去改変 E》
【一般スキル】 《回避 D》《追撃 D》《索敵 D》《虫特攻 D》《料理 D》
【耐性スキル】 《魔術耐性 E》《物理耐性 E》《精神耐性 E》《毒耐性 E》




