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底辺探索者の俺、スキル《過去改変》で終末世界を改竄する ~「あの時こうしていれば」を現実にしたら、いつの間にか世界最強の救世主になっていた件~  作者: モコタ
第二章 《過去改変》の検証(2026年α)

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21話 武器の新調

 八月に入ると、ダンジョンの入り口は浮かれた学生たちの姿で溢れかえっていた。

 夏休みを利用して、暇を持て余した連中が押し寄せているのだ。当然、第一階層は身動きが取れないほど混雑し、魔物の奪い合いが起きている。効率は最悪だ。

 幸い、俺には第二階層をソロで回るだけの実力がある。

 初心者が足を踏み入れない二層ならまだマシだが、それでも今のペースではレベルを一つ上げるのに三ヶ月はかかってしまう計算だ。


「……はぁ。やっぱり、今日も音沙汰なしかよ」


 ギルドの掲示板に並ぶ自分の募集チラシを眺め、俺は深くため息をついた。

 俺が求めるのは、共に死線を越え、魔物が一段と強くなる第三階層へと踏み込める骨のある仲間だ。だが、現実はそう甘くない。


 俺に残された猶予は、あと一年ほどしかない。

 その間にレベルを上げ、《過去改変》のスキルランクをどうしてもDまで引き上げなきゃならないんだ。

 現在の俺はレベル14。ソロで二階層を回るために、俺は《索敵》のスキルを頼りにしてきた。

 効果範囲こそ広くはないが、暗がりに潜むモンスターの不意打ちを察知し、無謀な多対一の状況を回避するには十分すぎるほどの恩恵がある。


 だが、三階層となると話は別だ。

 あそこを安全に探索するには、レベル14以上の探索者が三人は必要だってのが通説だ。

 レベル14の俺が三階層に挑むなら、同レベル以上の頼れる前衛と後衛が二人以上は欲しい。

 だけど、そんな都合のいい探索者など、どこにもいないのが現実だった。


 ギルドの掲示板に出したメンバー募集に応募してくるのは、格下ばかりだ。

 彼らはレベルの高い俺を「盾」にして、二階層を楽に回りたいだけなのだろう。

 ソロで効率よく稼いでいる俺からすれば、足手まといを連れて歩くのは経験値が分散するだけで、組む利点など一ミリもない。

 結局、募集は空振りに終わり続けている。

 それでも足を止めるわけにはいかず、俺は週に二回ギルドへ通い、週に四回はダンジョンへ潜っていた。


 千葉は仕事が忙しいらしいし、そもそも一人で二階層を探索出来るのに、千葉を連れて二階層に行っても逆に経験値効率が悪くなる。

 なのでしばらくは千葉を誘っていない。


 今やバイトよりダンジョン探索が主戦場だ。

 毎月の収支は赤字に突入して、貯金は着実に減りつつある。だが、未来への投資を止めるわけにはいかない。


 俺には時間がない。

 あと一年足らずでやってくるあの絶望を、手に入れた《過去改変》でぶち壊さなければならない。

 悠長に素敵な出会いを待っていられる身分ではないのだ。



 俺はギルドが提携している武器屋へと足を向けた。

 今のなまくらでは、二階層の奥へ進むのに時間がかかりすぎる。ここは貯金を切り崩してでも、目に見える火力を手に入れるべき時だ。

 店内の隅、埃をかぶった中古品コーナーを漁り、一振りの片手剣を選び出す。

 新品のようにキレイではないが、まだ十分に使える代物だ。重心のバランスも悪くない。

 それから、俺の《投術》スキルを十全に活かすため、手頃なサイズの投げナイフを数本買い揃えた。


「……よし、これでいくらだ?」


 提示された金額を見て、俺は思わず息を呑んだ。

 しめて、十万円の出費である。


 財布の中身がごっそり削られる喪失感に、胃のあたりがキリキリと鳴り始める。一介のフリーターにとって、十万という数字は身を削るような重みを持っていた。

 だが、これはただの買い物じゃない。家族の命を救い、俺の腐った未来を書き換えるための「必要経費」だ。

 俺は自分に言い聞かせるように念じると、震える手でカードを切った。




 新調した武器を帯に差し、俺はそのままダンジョンの二階層へと足を踏み入れた。


「よし……これなら今まで以上に効率よく、二階層を食い散らかせるはずだ」


 薄暗い通路の先から漂う魔物の気配。《索敵》を起動し、新しく手に入れたナイフの冷たい重みを指先で確かめながら、俺は闇の中へと加速した。



 ――だが、現実はそう甘くはなかった。


「……っ、これだけかよ」


 小一時間ほど暴れまわった後、俺は血のついた剣を振り払い、肩で息をついた。

 確かに、以前のボロよりはマシだ。ナイフの食い込みもいいし、剣の通りも滑らかになった。

 だけど、劇的に探索効率が跳ね上がったかと言われれば、正直首を傾げざるを得ない。


 考えてみれば当然だ。俺にとっては清水の舞台から飛び降りる覚悟の十万円だったが、探索者全体で見れば、これは駆け出しが最初に卒業するレベルの安物装備にすぎない。

 今まで使っていたのが、ゴミ同然の代物だったから、少しマシになった程度なのだ。


「期待しすぎたか……」


 装備を新調すれば、魔法みたいにすべてが上手くいく。そんな甘い期待を抱いていた自分に腹が立つ。

 道具が少し良くなったところで、所詮は二階層のソロ探索。得られる経験値の限界は決まっている。


「……どうすりゃいい。このままじゃ、絶対に間に合わねえぞ」





 ▽


 俺は千葉のマンションに来ていた。

 奴の勤める会社は、秋に新作ゲームの発売を控えているらしく、最近はかなり忙しかったそうだ。けれど、ようやく一段落ついたようで、久しぶりに家に帰れるようになったあいつの顔を見に遊びに行ったのだ。

 安物の缶ビールを景気よく鳴らし、乾杯する。

 千葉は喉を鳴らしてビールを飲み干した。俺もビールを貰い飲みながら千葉にに向かってぼやいた。


「レベルも上がらねぇし、仲間も見つからねぇ」


「こっちも仕事が不調でさ。景気の良い話なんて一つもありゃしないよ」


 千葉も力なく笑う。二人で顔を合わせても、景気のいい話題はさっぱり出てこなかった。

 未だに新しいパーティメンバーは見つからない。ギルドの掲示板に出した募集は、虚しく時間だけを吸い込んでいく。

 焦燥感が、じわじわと俺の心臓を締め付けていた。


 今はバイトのシフトを極限まで削り、二階層をソロで週に五回探索する強行軍を敷いている。

 レベルを上げるために毎日潜ればいいという極論もあるが、現実は甘くない。

 激しい戦闘で削れたHPや、索敵で枯渇したMPは、一晩寝ただけで全快するほど都合よくはできていないのだ。


 消耗しきる前に引き上げれば連日探索も可能かもしれないが、ダンジョンに入るには税金を払わなければならない。

 ある程度の実入りがなければ、探索を続けることすらできなくなる。効率と生存の天秤を揺らしながら、週二回ほどの休養日を入れるのが、今の俺にとっては精一杯の限界ラインだった。


 だが、その代償は大きかった。貯金はガリガリと音を立てて減っていく。

 死んだじいちゃんが遺してくれた遺産は、それなりにあると思っていた。

 けれど、通帳に並ぶ数字はついに五十万円を割り込んだ。

 貯金が底を突けば、ダンジョンに行く回数を減らしてバイトを増やさなきゃならない。そうなれば、レベリングの速度はさらに落ちてしまう。


「……間に合わねえ。このペースじゃ、絶対に」


 喉の奥がヒリつく。ターゲットは、家族全員の命が奪われるあの「運命の日」だ。それまでに《過去改変》のスキルランクをDにまで叩き上げなきゃならない。

 逆算すれば、あと一年ほどしかないのだ。最低でもレベルを六つ上げる計画だが、ソロで二階層をうろついているだけでは、到底間に合わない。


「そういえば、緋呂。お前のその《編集》スキルの話だけどさ」


 千葉が真剣な表情で切り出してきた。

 実はこいつ、俺と同じ《編集》スキルを持っているんだ。

 誤字脱字を瞬時に見つけ出せるから文章の添削にはもってこいの能力で、プログラマーの千葉はこれをコードのデバッグにフル活用している。


 スキルってのは、使い込めば使い込むほどランクが上がりやすい性質がある。

 毎日仕事で使用している千葉は、レベルこそ8と低いものの、《編集》のスキルランクはDに到達していた。


「今さ、《編集》スキルのオーブが高値で取引されてるっていう噂、知ってるか?」


「……いや、初耳だな。高値で売れるわけないだろ。戦闘には全く使えないし、せいぜい書類整理がちょっと便利になる程度の地味なスキルなんだからさ」


 俺が冷めた返事を返すと、千葉は「これだから情弱は」と言わんばかりに首を振った。


「甘いな、緋呂。実は今、《編集》は空前の大人気なんだぜ。《編集》のランクが上がっていけば、最終的に自分のステータス値を直接いじれる《ステータス編集》へ進化する。それはお前も知ってるだろ?」


「ああ、五年くらい前に一度話題になったよな。でもさ、あれって一日一回のクールタイムがあって、たったの1ポイントしか数値を上げられないんだろ? 手間ばっかりかかって効率が悪すぎるから、ブームなんて一瞬で去ったはずだけど……」


 俺も《編集》のスキル持ちだから、そのあたりの事情には詳しい。

 《編集》を「Bランク」まで叩き上げて、ようやく《ステータス編集 C》へと進化する。

 だが、そこまでランクを上げるにはレベル50相当のトップランカーに上り詰めなきゃならない。

 そんなレベルの探索者なら、ステータスを微増させるスキルなんかより、他の強力な戦闘スキルを磨いたほうが良いのだ。


「実はな、新たな発見があったんだ。《ステータス編集》のランクが『A』に達すると、なんと『スキルレベル』そのものを引き上げることが可能になるらしい。

 もちろん条件や制限はめちゃくちゃ厳しいみたいだけどな」


「……っ、マジかよ!? スキルレベルを直接いじれるって、それもう完全にチートの領域じゃねえか!」


 俺は思わず身を乗り出した。もしそれが本当なら、紛れもない革命だ。

 しかし、よく考えると現実味がない。《ステータス編集 C》を手に入れるのにレベル50まで上げるとすれば、《ステータス編集 A》にするにはレベル70くらいは必要になるはずだ。

 そんなのは世界最高レベルの探索者の領域だ。


「で、ここからが本題だ。もし《編集 E》のオーブを、すでにそのスキルを持っている人が使ったらどうなると思う?」


「……そりゃ、スキル経験値がブーストされて、ランクアップが劇的に早まる、か」


「その通り! つまり、金に余裕がある中堅以上の探索者たちが、《ステータス編集》にたどり着くための時短アイテムとして、オーブを血眼になって買い漁ってるんだ。だから今、たとえ最低ランクの《編集 E》であっても、とんでもない高額で取引されてるんだよ」


 なるほど、金持ち連中の先行投資か。

 効率を金で買う金持ちにとっては、将来の化け物スキルに繋がる当たりスキルってわけだ。納得がいった。


「……ちなみに。今の相場って、一体おいくら万円なんだ?」


 俺が恐る恐る尋ねると、千葉は手元の端末を流れるような手つきで操作し、画面をこちらに向けてきた。


「今のギルド買い取り価格で、六十万円だな」


「売る! 今すぐ売ってくる!」


 俺は食い気味に即答した。

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