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底辺探索者は《過去改変》で終末世界を改竄する  作者: モコタ
第二章 《過去改変》の検証(2026年α)

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18話 《過去改変》3回目

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ふと、意識のピントが合った。

 まとわりつくような熱気と、自動ドアが開くたびに流れ出す冷気の匂い。

 耳に届くのは、聞き慣れたコンビニの入店音だ。どうやら、今回の過去改変が俺を連れてきたのは、小学三年生の夏休みの午後のようだった。


 前回のタイムリープから、体感としては八ヶ月くらいが過ぎただろうか。

 当時の記憶が鮮明に呼び起こされていく。小学生の頃の記憶の解像度が、上がっていくのが分かった。


 目の前には、少し背中を丸めて真剣な顔で棚を覗き込んでいる少年がいる。

 ゲームとアニメが大好きで、趣味の話になると止まらなくなる桃井福嗣(もものいふくし)くんだ。

 家が近所で、小学校も同じだったので、この頃は良く一緒に遊んでいた。

 彼は今、ポケット・スピリッツ――通称「ポケスピ」の最新パックを手に取っていた。

 このカードゲームは、アニメやゲームが社会現象になるほど有名で、俺たちの周りでも遊んでいない奴はいないくらいの人気だった。


 福嗣くんは、なけなしの小遣いを握りしめて「今回こそはレアを引き当てる」と鼻息を荒くしている。

 平和で、どこにでもある小学生の日常だ。だけど、未来を知っている俺の頭の中には、これとは別の光景が浮かんでいた。


 この「ポケスピ」のカード。数年後、特に俺が成人した二〇二〇年を過ぎた頃には、コレクターアイテムとして価値がとんでもない勢いで暴騰するのだ。

 今は子供たちが無造作に扱い、輪ゴムで束ねているようなこの紙切れが、未来では車が買えるような値段で取引されることになる。

 特にこの時期に発売されていた、特定のサポートカードや限定のキラカードの価値は、まさに金塊並みと言っても過言じゃない。


 これは、現代に蘇った新しい錬金術かもしれない。当時はそれほど興味がなくて、カードなんて全然集めていなかったのに。

 まさか十数年後に、自分がこんな下心を持ってパックを手に取ることになるとは思いもしなかった。


「……俺も、それ買うわ」


 俺の言葉に、福嗣くんが「お、緋呂もついにガチ勢になるのか?」と嬉しそうに笑った。

 俺は適当に相槌を打ちながら、福嗣くんの隣でポケスピのパックを手に取った。


 中身が何かは分からない。だけど、これは投資であり、壮大な実験だ。過去を変えたことで、未来の俺の財布事情がどう変わるか。俺はレジへと歩き出した。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 意識が現代へと戻る。


 九、八、七……!


 床に置いていたスマホのストップウォッチが、時を刻んでいた。

 十秒間の時間遡行。その事実は、数字がはっきりと証明している。


 俺はスマホを手に取ると、保存してある過去の記録――「自分の日記」のデータを開いた。


 ニート時代、あまりに暇だった俺は、実家の物置に眠っていた古い日記をすべてスキャンしてデジタル化し、クラウドに保存していたのだ。

 もし日記の内容が変わっていれば、それは過去と現在が確実につながっているという、動かぬ証拠になる。


 画面をスクロールしていく指が、あるところでピタリと止まった。

 記述の一部が、俺の元の記憶にあるものと明らかに違っていたのだ。


 小学三年生の夏休み。そこには、俺が福嗣の影響でポケスピのカードを買い始めたという記録が追加されていた。

 どうやら、あの時の買い物だけでは終わらず、それなりに熱中して買い足していたらしい。日記をさらに読み進めると、念願のレアカードを手に入れて大喜びしたという、当時の幼い俺の浮かれた記述まであった。


 だが、問題はその先だ。集めたカードが最終的にどうなったのかについては、どこを読んでも書いていない。

 日記の更新自体が、小学生の途中で止まっているからだ。

 高学年になって興味を失ったのか、母親に大掃除で捨てられたのか。それとも、価値が暴騰するずっと前に中古ショップへ二束三文で売ってしまったのか。

 それは日記からでは読み取れなかった。


 とにかく、分かったことが二つある。一つは、過去は間違いなく改変されているということ。

 そしてもう一つは、改変された過去の出来事が、今の自分の「実体験」としての記憶には残らないということだ。

 俺の頭の中にあるのは、相変わらず「カードに興味がなかった自分」の記憶のままだ。


 どうやら、過去を改変しても、それがどこか別のパラレルワールドの出来事になってしまって、今の自分につながらない……なんていう心配はなさそうだ。

 過去に手を加えれば、その影響は今のこの世界に、何らかの形で必ず反映される。


 それなら、今俺がやるべきことはたった一つだ。

 俺はスマホをベッドに放り出し、勢いよく立ち上がった。

 あの「お宝」たちが、部屋のどこかに眠っていないか探し出すこと。

 期待に胸を膨らませながら、俺は部屋の中をひっくり返し始めた。


 ――――結果、見つからなかった。


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