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底辺探索者は《過去改変》で終末世界を改竄する  作者: モコタ
第二章 《過去改変》の検証(2026年α)

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16話 二階層のソロ探索

 千葉に宣言した通り、俺は一人でダンジョンの二階層へ向かう。

 胃の奥がチリチリと焼けるような感覚を、俺は唾と一緒に無理やり飲み込んだ。

 五人は並んで歩けそうな幅広の階段を、一段ずつ噛み締めるように下りていく。

 ステータス補正のおかげで体は軽いはずなのに、一歩進むごとに、得体の知れない重圧が足首に絡みついてくる気がした。


 二階層のフロアに到着した瞬間、俺は迷わず索敵(さくてき)スキルを意識した。

 発動すれば周囲のモンスターの位置を脳内に通知してくれる便利な代物だが、

 俺のスキルランクは悲しいかな「E」。範囲は半径十メートル程度だ。正直、気休めにしかならない。

 ダンジョンという場所は、自分の周りこそ不自然に明るいけれど、十メートルも先は濃密な暗闇に支配されている。

 この光と影の境界線の悪意を、《索敵》は一早く察知することができる。。


 背後から忍び寄る殺気や、曲がり角の向こうに潜む悪意。

 それを事前に把握できれば、不意打ちからの致命的なダメージだけは回避できる。

 反応の大きさから敵の種類を予測し、戦うか逃げるかを瞬時に判断する。

 ソロで潜る俺にとっては、このスキルが唯一の生命線となる。

 だけど、これには大きな難点もある。発動中はずっとMPを食い続ける、極めて燃費の悪いスキルなのだ。


 一階層の雑魚相手なら温存していたけれど、ここ二階層じゃ出し惜しみは命取りになる。

 精神的な疲れとMPの消費。長時間の探索では出来ない。


 その時、脳内のレーダーに三つの、素早い動体の反応が走った。

 この小刻みな動き……ヘッドマウスか。頭突きを武器にするネズミ型のモンスターだ。

 一匹ならなんてことないけれど、ソロで三匹同時は流石に分が悪い。暗闇の向こうから、赤く光る小さな目が三対、こちらを睨みつけたのが見えた。その瞬間、俺の思考は戦闘を完全に切り捨てた。一対一ならともかく、あちこちから頭突きを食らって、ちびちびとHPを削られるなんて真っ平ごめんだ。HPが大幅に減れば、今日の探索はその時点で終わってしまう。


「……ここは戦略的撤退、ってことで。無駄な消耗は主義に反するからな」


 自分に言い訳をするみたいに小さく呟くと、俺は敵がこちらへ跳ねてくる前に、脱兎のごとく来た道を全速力で引き返した。

 格好なんてつけていられない。生き残るのが最優先だ。


 別の通路を慎重に進んでいると、再び一体の反応。今度はどっしりとした、重みのある気配だ。

 角を曲がった先にいたのは――緑色の肌をした不気味な小鬼だった。


「出たな、ゴブリン……」


 ファンタジーじゃお馴染みの有名人だが、現実に見るとその生々しい醜悪さに胃の奥が冷たくなる。二階層からは、こうした「人型」のモンスターが姿を現す。探索者を目指す者にとって、異形の獣は殺せても、どこか人間に似た姿のゴブリンを殺せるかどうかが、一人前になれるかどうかの大きな壁だと言われている。ゴブリンは手に粗末な棍棒を握っていた。奴らは道具を使う知恵があり、群れれば厄介極まりない連携を見せてくる。だが、なぜかこの二階層では単体でしか出現しない。魔素から発生するこいつらに、まともな生態系があるのかは不明だが、一対一ならカモだ。俺は以前にトドメを刺した経験がある。人型を殺す忌避感なんて、とっくにドブに捨ててきた。


 ゴブリンが耳障りな叫び声を上げ、棍棒を振り下ろしてくる。俺は剣を掲げ、その一撃を真っ向から受け止める。ガキィィィン! と、硬い衝撃が両腕を突き抜け、骨まで響く。


「っの野郎……重てぇんだよ!」


 数合、火花を散らすような打ち合いが続く。一瞬の隙を突かれ、横腹に棍棒の先端がめり込んだ。


「ぐっ……!」


 焼けるような痛みと共に、視界の端でHPバーが目減りする。だが、止まれば死ぬ。俺は痛みを気合でねじ伏せ、渾身の力で剣を横に薙いだ。鋭い刃がゴブリンの緑色の喉元を深く切り裂く。ゴブリンは断末魔すら上げられず、黒い霧となって消滅した。なんとか勝った。だが、代償は小さくない。


「……腹に一撃か。厳しいな、おい」


 HP回復のポーションは一本が数千円する高級品だ。万が一のために一本だけ忍ばせてはあるが、これを使っちまったら本日の収支は一発で赤字、マイナス街道まっしぐらだ。戦闘は無傷で切り抜けるのが最善にして絶対条件なのに、まだまだ俺の実力が足りていない証拠だ。俺はゴブリンが消えた跡に転がっている魔石を拾い上げた。スライムのそれよりも、一回りほど大きくて重い気がする。


 その後も、勝てそうな相手だけを慎重に選んで二階層を這いずり回った。途中で奇襲を仕掛けてきた巨大なムカデ型の大百足ジャイアント・センチピードを、剣の柄で叩き潰して仕留める。さらに、天井からぶら下がっていた蝙蝠型(こうもりがた)のモンスターと数分間の追いかけっこの末、なんとか一太刀浴びせて消滅させた。一戦ごとに、HPが少しずつ、MPがスキル維持で着実に減っていく。二時間ほど粘ったところで、MPが半分を切った。魔術を封印してこれだ。


 HPやMPは時間経過で回復する。低レベルであれば一晩寝たら全回復することが多い。ただ、回復量は残存MPに依存するので、使いすぎると翌朝になっても全回復しないこともある。明日はバイトの日なので、HPとMPがMAXでなくても支障はないのだが、このあたりが潮時だろう。これ以上無理をして、判断力が鈍るのが一番怖い。俺は二階層を出て、一階層に戻ることにした。《索敵》スキルを解除すると、夕方まで一階層のスライムを多少狩って時間を潰した。帰り道のご祝儀稼ぎみたいなものだ。


 本日の収支を計算してみれば、合計で六千円という数字が弾き出された。一階層をちまちま探索していた頃と比べれば、実に三倍の稼ぎだ。三倍だぞ、三倍!


「……まあ、それでも、これ一本で食っていくには程遠いんだけどな」


 コンビニの深夜バイトの方がよっぽど効率がいいなんて現実は、今は横に置いておく。

 この調子でレベルを上げて行く。

 それが俺に残された唯一の解なのだ。


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