28話【残り火】
《ご連絡》
・5話の時記の召還時、形代が依代になっている誤字を修正しました。
【修正前】
“追憶を抱く影”の御霊の依代!
↓↓↓
【修正後】
“追憶を抱く影”の御霊の形代!
・20話の接咲姫のセリフを追加しました。
①
【変更前】
「あなた達を、そこから出してあげる力はないわ」
↓↓↓
【変更後】
「それは解封者の領分だから、私にはあなた達を、そこから出してあげる力はないわ」
②
【変更前】
「この子、“明告鳥”ならできる」
↓↓↓
【変更後】
「この子、“明告鳥”なら。解封者とは違うやり方でできる」
《以下本文》
――――――――――――――――――――
土曜日の午前中。
社務所では、紅葉がいつものように五人分のお茶を用意していた。
……いや。
「あ、六人分いるんだった」
湯呑みを一つ追加しながら、紅葉は小さく笑う。
いつもの癖で、五人分のお茶を用意していたが、今日は結禍から『紹介したい人がいるから、みんな待ってて』と言われていたのだ。
誰なのか聞いても、『来れば分かる』としか教えてくれなかった。
結禍が自分から誰かを連れて来るなんて珍しい。初めてではないか?
紅葉は少しだけ疑問に思っていた。
「まだかなぁ」
未充は窓際へ座り、境内を眺めながら足をぶらぶらさせている。
「結禍ちゃんが紹介したい人って、どんな人なんだろ」
「学校の友達じゃない?」
桜子がお茶を受け取りながら微笑んだ。
「結禍ちゃん、友達少なそうだけどな~」
「未充」
惑華が静かに口を開く。
「本人がいたら怒る」
「……あ」
桜子は隣で苦笑した。
「でも、本当に珍しいよね」
紅葉も頷く。
「うん。結禍ちゃんが『紹介したい』なんて言うの、初めて聞いたかも」
そのときだった。
境内から砂利を踏む音が聞こえた。
「ん……来た?」
未充が勢いよく立ち上がる。
四人も自然と入口へ視線を向けた。
戸が開く。
「お待たせ」
最初に入ってきたのは結禍だった。
いつも通りの落ち着いた表情。
左目の眼帯も変わらない。
その一歩後ろから、一人の少女がゆっくり頭を下げた。
長い赤茶色の髪。
すらりとした背丈は紅葉たちより少し高く、落ち着いた雰囲気からすぐに年上だと分かる。
「失礼します」
柔らかな声とその微笑みには、不思議と人を安心させる温かさがある。
――けれど。
紅葉の目は、その左手で止まった。
手の甲に新しい包帯が巻かれている。
「こちら……」
結禍が一度だけ皆を見回す。
「学校の先輩、三年生の、慈相 茉宵先輩」
茉宵はもう一度、小さく会釈した。
「慈相 茉宵です。突然お邪魔してすみません。結禍ちゃんから、この神社でお話を聞いて欲しいと言われて来ました」
◇
一通り挨拶を終えると、茉宵は勧められるまま畳へ腰を下ろした。
結禍がその隣へ座り、紅葉たちも向かい合うように席へ着く。
紅葉は茉宵の前へ湯呑みをそっと置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
茉宵は両手で湯呑みを受け取り、小さく頭を下げる。
その様子はどこか落ち着いていて、年上らしい穏やかな空気をまとっていた。
紅葉は少しだけ姿勢を正す。
「あの……慈相先輩」
そう呼びかけると、茉宵は少し困ったように笑った。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫です」
「え?」
「学校でもみんな、名前で呼びますから」
照れくさそうに微笑みながら続ける。
「茉宵と呼んでください」
紅葉は少し戸惑いながらも笑みを返した。
「じゃあ……私も茉宵先輩で」
「はい。それで十分です」
優しく頷く茉宵を見て、紅葉はほっと笑みを浮かべた。
少しだけ場の空気が和らぐ。
そのとき。
「それで……ここには何を?」
未充が口を開く。
自然と全員の視線が結禍へ集まった。
結禍は一度だけ茉宵へ目を向け、小さく頷く。
「茉宵先輩」
「うん?」
「澱鶴の絵札、みんなに見せてもらってもいい?」
茉宵は意味は理解しないままに静かに頷いた。
「……分かった」
ポケットへ手を入れ、一枚の絵札を取り出す。
畳の上へそっと置いた。
そこに描かれていたのは、【折鶴と盃】。
「それ……!」
紅葉が思わず声を上げる。
未充も身を乗り出し、桜子と惑華も目を見開く。
紅葉は慌てて社務所の棚へ向かい、木箱を抱えて戻ってきた。
箱を開き、同じ絵柄の札を取り出して茉宵の絵札の隣へ並べる。
「やっぱり……」
そこには、同じ構図の【折鶴と盃】が描かれていた。
「同じ……」
桜子が静かに呟く。
茉宵も神社の絵札へ目を落とし、少し驚いたように微笑んだ。
「結禍ちゃんが言っていたのは……これだったんだね」
結禍は静かに頷く。
「はい」
結禍は改めて茉宵へ向き直った。
「その絵札に描かれてる神様は、この神社に昔から伝わっている神様なんです」
茉宵は静かに耳を傾ける。
「今、私たちは昔のお祭りを復活させようとしていて、絵札に描かれた神様たちを探しています」
結禍は少しだけ言葉を選び、それから真っすぐ茉宵を見た。
「もしよければ……茉宵先輩にも、お祭りを手伝っていただけませんか?」
一瞬だけ静寂が落ちる。
茉宵は少し驚いたように瞬きをした。
「私でいいの?」
「はい」
結禍は力強く頷く。
「茉宵先輩の中にいる神様も、この神社と深い関わりがあるはずなので」
茉宵は少し考えるように湯呑みへ目を落とした。
結禍が静かに尋ねる。
「夏休みに予定が?」
「ううん」
茉宵は首を横に振った。
「今年は夏休み中のボランティアもまだ決めてないし、特に予定はないかな」
そう言って柔らかく笑う。
「だから、私で役に立てるなら喜んで」
「本当ですか!」
結禍の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
未充は『やったー!』と嬉しそうに声を上げ、桜子と惑華も穏やかに微笑んでいた。
――ただ一人だけ、紅葉だけはどこか心ここにあらずのよう。
周りでは未充たちの明るい声が響いている。
けれど、その音はどこか遠く聞こえた。
「――――やっぱり結禍は凄いなぁ……。私と違って……」
その呟きすら、紅葉自身にも届かないほど小さかった。




