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恋するタイムリープ〜狂おしいバグの果て  作者: VANRI


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出逢う予兆

 月曜日。いつも通りにロッカーで制服に着替える。やはり制服のパリッとした袖に腕を通すと、気持ちも引き締まる。


 姿見で全身を隈無くチェックする。化粧のノリは、まあまあ。少し離れて、前からと横から全身にざっと目を通す。この体型なら、太ってるようにも痩せてるようにも見えないだろう。


 もう一度近付いて自分の顔を見つめる。


 社会人になってから、それなりに努力はした。ありきたりだが、ダイエットをして、眼鏡をコンタクトにした。化粧も服装も自分なりに勉強したのだ。

 今も筋トレは続けているし、毎朝体重を測ることは忘れない。


 学生時代を知る友人からは「綺麗になった」と言われる。だがそれも、ブスから普通になっただけの話。

高低差の話だろう。


 楓のように、元から美人の隣にいるのは本当に気が滅入る。可愛いだけではなく、小柄なのにスタイルもいい。胸が大きいことが服を着ていても伝わってくる。若さもあり、勝てる要素がほとんどない。


 私たち二人が並んでいてどちらかを選ぶなら、男性の10人中9人は楓を選ぶだろう。私だってそうする。

 私を選ぶのは、若い子が苦手とか、変な趣味がある人とか、まあとりあえず、変わった人と言われる部類だろう。


 ……もしかして、若い頃、私も先輩にそう思われていたのだろうか。


 色んな気持ちを押し殺し、今日も笑顔で楓の横でカウンターに立つ。


 楓が微笑みを浮かべたまま、周りに聞こえない大きさの声で話しかけてきた。


「最近、他の部署はライバル社から引き抜きをすることに熱心らしいですよ」

「え? ヘッドハンティング的な?」

「そうそう、それです。一から新人指導するの面倒臭いみたいで」

「へー……」


 背筋を正し、前を出勤して通り過ぎる社員に目をやりながら話が続く。


「こないだ、営業の人にご飯に誘われて行ったらそんな話してました。まぁ、私たちに関係ないですけどね。受付嬢のヘッドハンティングなんて聞いたことないし」


 楓がフフッと軽く笑う。


 楓は多数の男性社員に声をかけられ、それに律儀に答えて他部署の男性と食事に行くことも少なくない。


「でも大丈夫なの? 彼氏いるんでしょ?

他の男の人とご飯とか、ヤキモチ妬かれない?」


 楓は、カウンターの上のパソコンのマウスを触り社内メールのチェックを始めたが、目線をパソコンに向け作業を続けながら答える。


「あー……、バレたら何か言われるかもですね。

でも、あいつフリーターだし、あたしの方が稼いで食事代も出してやってるんで、あんま強くは言わないんじゃないですかね〜。

 それに比べいいですよね、今井さんは。彼氏さん大手にお勤めですもんね〜」


 彼氏の話だけは優越感を感じることが出来る。一つくらい、この娘に勝てる所がないとやってられない。

 そして、楓からこういう言い方をされても、不思議と全く苛つかない。嫌味がなく、素真面目にこういうことを言う子なのだ。


 ただし、婚約指輪をもらったことは言っていない。いつ結婚するのかとか、いくらぐらいの指輪だったのかとか、しつこく聞かれるのが安易に想像できるからだ。うまくいっていれば言えるが、念のため言わないでおいて良かった、と何度胸をなで下ろしたかわからない。




 昼の休憩時間になると、私たちはどちらかが先に休憩に行き、一人が残ることになる。先に休憩に行った楓が、腕時間を見ながら帰って来た。


「戻りました〜。今井さん、次どうぞ……あっ!!」


 楓がガサガサと自分の鞄を漁り出す。そして、A4サイズの封筒を掲げてきた。


「さっき休憩に行く途中で他部署の人から、これ企画開発部に届けてって渡されたんでした!! しまったー!忘れてた!! 休憩終わって戻る前に持っていこうと思ってたのに〜!!

 あ! 私今から持ってってくるんで、ちょっと休憩行くの待っててもらっていいですか!?」


 忙しなく表情をコロコロ変え、バタバタしている楓に思わず笑ってしまう。こんなに慌てても可愛いらしいのだ。まさか、妬みを超える羨ましさが存在するとは思わなかった。


「ふふっ……いいよ、いいよ。私今から社食に行くから、その前についでに企画部に寄ってから行くよ」


「えぇ〜! いいんですかぁ〜!?」


 必死な涙目をうるうるさせながら見上げられる。

これは男はイチコロだろうな。男だけでなく女の扱いも……いや、人間扱いの上級者なのだろう。


 大したことではないのに、楓に国を救ったかのごとく感謝され、苦笑しながらエレベーターへ向かった。





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