表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋するタイムリープ〜狂おしいバグの果て  作者: VANRI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

人と向き合う時

「本当に昨日は何もなかったんだって!!」


 そうだろう。あの状況の後に一線越えられるわけがない。それまで下心があったとしても、お互いそんな気なんてなくなるだろう。


 昨日、眠りながら悲しくなって涙が止まらなくなった。だけど、泣いているうちに何が一番悲しいか、自分でもわからなくなってきた。

 優真に裏切られたこと?

 それとも、結菜から聞いていたとおり海斗君に男のパートナーがいて、あの豪雨のなかで二人の親密さを見てしまったこと?

 自分の方が楓より上だと思っていたのに、あっさり婚約者を奪われたから?


 視線を落とすと、自分の手の甲にある、あの薄白いうっすらとした傷痕が朝の光に透けて見えた。


 違う。私が一番絶望しているのは――


 世界中で海斗君だけが私と同じ、左手の薬指に冷たい風をまとった『寂しい仲間』だと信じていたのに、彼には山中さんという本物の指輪があったことだ。


 彼にまで拒絶され、世界に一人きり取り残されたような凄まじい疎外感が、私の喉の奥をきりきりと締め付ける。


 社会人になってから、必死に努力してきた。ダイエットをして、化粧を勉強して、筋トレを続けて、完璧な受付嬢の仮面を手に入れた。努力すれば、変われると信じていたから。


 なのに、彼が男を好きだという本能の前では、私のこれまでの努力も、手に入れた美しさも、何一つ意味を成さない。


 女であるというだけで、私は最初から、彼の恋愛対象の選択肢にすら入っていないのだ。

 山中さんの左手で光っていた指輪が、脳裏をよぎる。


 いいな、羨ましいな。男として生まれ、当たり前のように彼に愛されているあの人が、心の底から妬ましくて、羨ましい。

 努力してもどうにもできない絶対的な壁にぶち当たり、喉の奥からじわじわと、怒りを超えた絶望が込み上げてくる。


 胸の奥から這い出してきた冷たいため息とともに、何も考えるまでもなく、私の口から言葉があふれ出た。


「とりあえず、帰って……」

「花音ちゃん!!  本当に好きなんだよ!!  別れたくないんだ!!」


 優真はソファから転がり落ちるようにして私の足元へ縋り付き、両腕にしがみついてくる。彼の必死な指先が、私のパジャマの袖をきつく引っ張った。


 その熱い腕を、私は冷徹な手つきでそっと引き離す。


「わかった。わかったけど……今は、考える時間をください」


 感情の消えた私の声が、リビングの壁に無機質に反響する。

 優真はそれ以上何も言えず、深く肩を落として、重い足取りで私の部屋から去って行った。


 バタン、と静かに玄関のドアが閉まり、再び部屋に重苦しい静寂が戻る。 


 本当に、一人になっちゃった――


 私は力なく床に座り込んだ。



――――――



 月曜日、会社に出勤し、楓に会う。

 いつも通りに挨拶を交わす。ロッカー室で会った楓は明らかにビクビクしており、いつもより小さく見える。静かにおはようございます、と呟くように言ってきた。


 だが、この弱々しい姿だって演技かもしれない。もう何も信じられない。


 私は軽く挨拶し、何事もなかったかのようにロッカーの扉を静かに開けて着替え始める。楓は、焦ったように必死に一方的に言い訳をしてくる。


「今井さんの彼氏だって知らなかったんです!  知ってたら、絶対に家に行ってないです!」 


 は?  じゃあ、ほかの人の男の家になら簡単に行くのかよ、と胸の奥で冷たく冷笑する。


「本当に、DVDを借りに寄っただけなんです!  優真さんは本当に、今井さんのことを愛しています……!」


 楓が優真の名前を親しげに呼ぶこと、そして何より、彼を庇うことに虫唾が走る。


 どうせ、口裏を合わせているのだろう。ロッカーの狭い密室に、楓の浅い呼吸の音と、香水の甘ったるい匂いが充満して、強烈な吐き気がぶり返しそうになる。


 私は怒りを奥歯で思いきり噛み殺し、完璧な先輩としての笑顔を顔面に貼り付けた。


「全然気にしてないから。大丈夫だよ」


 言い残し、先にロッカー室を出る。

 静かな廊下に、カツカツと私のヒールの音が響く。 


 そこで自分であることに気づく。いつもより、自分の足音が強いな、と。

 怒りで身体が強張っている証拠だ。私は歩きながらそれを気にし、なんとか呼吸を落ち着かせようと試みる。 深呼吸をしながら、冷たい大理石のカウンター

に向かって歩き続ける。



 私は、完璧な人形。誰にも内側を覗かせない――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ