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恋するタイムリープ〜狂おしいバグの果て  作者: VANRI


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新たな日常

 月曜日、お昼の混み合う社食で休憩をとっていると、頭上から声が降ってきた。


「花音さん、隣いい?」


 見上げるとトレイを持った海斗君からだった。ドキッと胸が高鳴る。


 海斗君が私のすぐ隣の席に腰を下ろした瞬間、彼の身体のわずかな振動が私の肌へダイレクトに伝わってきた。

 あまりの距離の近さに、頭の奥がカーッと熱くなる。 


 落ち着け、私はプロの受付嬢でしょ。取り乱しちゃダメ。


 席についた海斗君に、私が毎朝作っている自作のお弁当をのぞき込まれた。


「おいしそうだね。今度俺の分も作ってよ」


 冗談ぽく笑いながら言われて、心臓がうるさく跳ねる。慌てて卵焼きを口に放り込んだが、喉がカラカラに干からびていて、さっきまで美味しかったはずのおかずの味が、一瞬で何も分からなくなってしまった。


 海斗君は、社食のAランチの唐揚げを美味そうに口に運んだ。

 ふと、彼が箸の手を止めて口を開く。


「花音ちゃ……」


 海斗君は、はっとして口をつぐんだ。そして、照れくさそうに笑みを浮かべながら話し出した。


「……ごめん。実は企画部のやつら、受付の今井さんたちのこと、名前で、しかもちゃん付けで呼んでてさ。二人とも可愛い名前だから。花音ちゃん、楓ちゃんって。そのクセがつい出てしまった……ハハッ」


「いいよ、ちゃんでも。楓ちゃんはファンが多そうだね」


 自嘲気味に笑う私に、海斗君はいやいや、と慌てて手を振った。


「ちゃんと、花音ちゃんファンもいるんだよ!  俺だって……もしどっちかなら、花音ちゃん派だから!」

「ふふっ、それはありがたいね〜。同級生からの同情票だとしても」

「いやいや、そんなんじゃないって……っ!」


 その言葉に、たとえ社交辞令でも素直に嬉しくなる。海斗君に選ばれたこともだが、受付の人形としてではなく、企画部の人たちに一人の人間として名前を覚えてもらえていたことも加わり、更に心が温かくなるのを感じた。


「それより、花音ちゃん、何か背、縮んだ?」

「え?  いやいや、海斗君が伸びすぎなんだよ!」

「俺、成長すんの遅くてさ。小学校のときは花音ちゃんのほうが大きかったんだよ。覚えてないかもしれないけど……。でも、それからどんどん伸びて、

180近くにはなったかな」


 そう言って笑う彼の高い目線を見上げながら、からかったように言ってみる。


「じゃあ、太らないように気をつけないとね」

「何で?」

「身長高い人が太ると、すっっごい巨大に見えるから」


 私の言葉に、海斗が声を上げて笑う。


「花音ちゃんは、痩せたよね」

「そうだよ、ちゃんと努力して綺麗になりましたから!」

「ハハッ…自分で言う、普通?」


 二人で和やかに笑い合う。社食の賑やかなガヤガヤとした音が、今はとても心地よく耳に響く。


 ああ、いいな、こういう関係。これでいいのか。恋愛とかじゃなく、友達として、こうやって並んで過ごせばいいんだ。ただ純粋に、幸せな気持ちに満たされていくのがわかる。


 食べ終わり、名残惜しいが休憩時間が終了間近になったので、「じゃあお先に」と立ち上がる。


 すると、「あ!」と海斗君が箸を止めて声をあげた。

何が起こったのかと見下ろすと、彼は真っ直ぐに私を見上げて言った。


「誕生日、二月三日だよね?」

「うん。節分生まれなんて可愛くないでしょ。ひな祭りとかに生まれたら、もっと女の子っぽくて可愛いのにさ」


 いつもの癖で自虐を混ぜて返してしまう。けれど次の瞬間、思考が追いついた。


「……っていうか、なんで知ってるの?」

「俺も、二月三日だから」

「ええー!!!  それって運命だよね!!  同じ学校で、同じ誕生日なんて!!  奇跡だよね!!」


 混み合う社食の喧騒をかき消すような大声を出してしまい、私は満面の笑みのまま、思わず海斗君の腕をガシッと掴んでしまっていた。


 スーツの袖越しに、彼の逞しい二の腕の厚さが手のひらに伝わってくる。


 海斗君が、あのねっとりと肌にまとわりつくような、狂おしいほど愛おしい視線を向けて笑った。


「運命とか、好きだったもんな」


 その言葉の本当の意味を考える余裕なんて、今の私にはなかった。

 自分の手の甲にある薄い傷痕のことも、彼が同性愛者だという現実も、すべてが頭から消え去っていた。


 笑いながら別れた後、心を目一杯に弾ませながら、私はカツカツとヒールの音を弾むように響かせて、受付へと戻っていった。




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