第9話 初日
次の日の朝になった。アリにとって見習いだが騎士団員としての生活がいよいよ始まる。彼女は朝早く起きて体を動かしてみた。心と気合が充実しているように感じていた。
向こうのベッドを見るとレイクは気持ちよさそうに寝ている。起こさないように身支度を整えて聖騎士団の制服を着た。見習いだから腰に剣はない。静かに部屋の外に出ると、朝早いから誰もいない。食堂で用意されている朝食を一人で取り、部屋には戻らずに本部に向かう。
(こんなことは2度目か・・・)
前世で宗隆様の小姓を務めたのもこの年だった。初めての勤めの日はかなり緊張して殿の前に出た。それ以外のことは覚えていない・・・・。
(初心に帰って誠心誠意務める・・・まずはそれ以外にない)
アリは本部に一番につき、副団長室の前で待った。しばらくしてオーガ副団長がお付きの従団員を連れて現れた。
「おはようございます!」
「うむ。早いな! 詰め所で待っていろ」
そう言われて詰め所に行くと、そこには見習の青年たちが3人いた。いずれもアリより4つか5つほど年上だ。一人は童顔の小柄な青年、もう一人は角ばった顔をしたやや老け顔をしている。そして最後の一人はやせ形の長身だが、なぜか暗い顔をしている。
「アリ・ローザンです。よろしくお願いします」
すると3人が立ち上がって右手を出した。
「カーラン・エーダーだよ。アリ」
「ビッケル・ホーン。よろしく」
「クロス・ロックだ」
アリは3人と握手した。いずれもぴしっとしている。カーランがアリに話しかけた。
「今日から配属だね?」
「はい」
「新人は今月で3人目だ」
「えっ?」
「僕たち以外はすぐに配置転換になって・・・。君はいつまでもつかな?」
それを聞いてアリは嫌な予感がした。それでなくても自分はオーガ副団長に嫌われているかもしれないのに・・・
しばらく待っていると、先ほどのお付きの従団員が来た。3人の少年が立ち上がって敬礼をする。アリも見様見真似でそれに倣った。
「アリだったな。私はオーガ副団長付きのジャン・ロウだ。ここでのことはその3人に聞け! 訓練の時に呼びに来るからそれまではその3人とともに雑務をしているんだ。以上」
それだけ言ってロウ従団員は行ってしまった。
「では始めるか」
ビッケルたちが詰め所を出た。その後にアリが続いた。
「何をするのですか?」
「まずは本部の掃除だ。それから剣やブーツ、装具の手入れ・・・やることはいろいろある」
ビッケルがそう説明してくれた。ここで訓練をみっちり受けると思っていたアリには意外だった。
「俺たちは掃除をするために見習いになったわけじゃないのに・・・まあ、仕方ないか。一番の下っ端だからな」
カーランがそうこぼしながらも箒で掃いていく。ビッケルはその後をモップで床を拭き掃除する。一方、クロスは何も言わずに雑巾を絞ってあちこちを拭いていく。その手つきは慣れたものだった。ずっとここで掃除をしているのかもしれない・・・そう思いながらアリも雑巾でその辺のテーブルを拭いていった。
(どこでもそうだな)
アリは思い出した。前世でもまずは掃除から始まった。その姿を殿は見ていた。それでその者の資質を見るという・・・。
(小姓の中には掃除を嫌がり、怠ける者はいた。だがその者はすぐに帰された。まじめに勤めた者が殿のそばで仕えるのを許された。そういう者がのちに役に立つと見込まれたのだろう。それが正しいことは前世で見てきたとおりだ・・・)
そう思うとこの掃除もおろそかにできない。これも修行の一環なのだ・・・アリはそう思った。だが先輩の少年たちは違うようだ。
「ここで副団長に認められたら従団員になれる。それには俺の剣を見ていただけないと・・・」
「ああ、そうだ。掃除ばかりでは腕を示す機会がない」
「今度の訓練の時に俺の剣の腕をアピールするぞ!」
掃除をしながらビッケルとカーランはそう話していた。そして彼らはアリにも勧めてくる。
「君も勤めが終わったら鍛錬をした方がいいぞ。認められなければこのまま見習いのままだ」
それを聞いているとアリも、
(ここでは剣の腕を示さねば上にあがれないのか?)
と思えてきた。確かに寮の庭で夜遅くまで剣を振って鍛えている青年はいた。ここは実力至上主義なのかもしれない。とにかく先輩2人はアリに気軽に話しかけてくれる。ここになじめそうだ。
本部の清掃を一通りするとやがて昼になる。昼食の後は装備の手入れとなるが・・・。そこにロウ従団員が指示を伝えに来た。
「昼過ぎに中庭に集合! そこで訓練だ! 木剣と訓練用の剣を用意」
それを聞いてビッケルとカーランは、
「やってやるぜ!」
と腕を鳴らして意気込んでいた。アリも(いよいよか!)と気持ちが高揚していた。ただクロスだけは冷めた顔そしていたのがアリには少し気になった。
◇
アリたちが並んで待っているとそこにオーガ副団長とロウ従団員がやって来た。
「これから鍛えてやる! おい! 訓練用の剣を持て! 振って見せろ!」
その指示でアリは剣を持った。
(うっ! 重い!)
思った以上にずしりと重い。振るのにかなりの力がいる。今まで木剣しか使ってこなかったから剣の重みを初めて実感したのだ。
アリは他の3人とともに横に並ぶとロウ従団員の指示で「構え! 突き! 斬り下ろし・・・」を繰り返した。もちろんここは片手持ちだ。それをオーガ副団長じっと見ている。
「ふむ。そこの新人! 少しはできるようだな。だが・・・」
オーガ副団長は大きく首を横に振った。
「そんな剣は通用しない。おままごとだ!」
そうはっきり言われてしまった。これにはアリは心の中で反発した。
(これでも前世では無心一刀流の使い手。この世でも鍛錬してきた。なまじっかの相手には負けない自信はある)
そんな心を見通しているかのようにオーガ副団長が言った。
「『そんなことはない』と思っているようだな。それなら思い知るがいい。おい! ビッケル! まず木剣で相手をしてやれ!」
アリはいきなりビッケルと試合をすることになってしまった




