第8話 寮
見習いはすべて、敷地内にある寮に入ることになっている。アリも寮の部屋をあてがわれた。そこは3階の隅の部屋だった。2人で一部屋を使うことになっており、アリがノックして部屋に入ると中にルームメイトの青年がいた。
「君がアリだね。僕はレイクビア・アーデントだ。レイクと呼んでくれ」
年は17歳くらいだろうか、おっとりしてやさしそうな人だな・・・アリは思った。
「アリ・ローザンです。よろしくお願いします」
アリは頭を下げた。レイクはアリを上から下まで観察してから言った。
「どんな奴かと思ったら普通だったな。君だね。剣術大会であのマリウスさんを負かしたというのは」
「いえ、僕は・・・」
「隠さなくてもいい。もう評判になっている。フィンリーという名前を変えていたことも皆、お見通しだ。アリという名が少し女性的で嫌だったのか?」
あの剣術大会でのことは知られているが、女であることはばれていないようだ。
「そうではないのですが・・・ところでレイクさんはどこに所属しているのですか?」
アリは話題を変えた。
「僕は五番隊だ」
「五番隊と言えばダダ隊長でしたね。先ほどお会いしました」
「そうか。魔法を使われるのだ。すごいだろう」
確かに空中から花を出したが、魔法というより手品という感じではあったが・・・。
「五番隊の方たちは魔法を使うのですか?」
「少しだけどもね。僕も簡単な魔法は使える。ほら、ライト」
するとレイクの手がほのかに明るくなった。
「ダダ隊長が言うには魔法と剣の融合を目指しているらしいけど。まあ。本職の魔法使いに比べれば・・・」
「魔法使いがいるのですか?」
アリには驚きだった。そんな人種がこの世界にいるとは・・・。
「何を驚いているんだ? 当然じゃないか。聖騎士団に属している魔法使いは数名いる。まあ、戦うというより傷の手当が主な仕事だけどもね」
「そうなんですか」
知らないことはたくさんある。この先輩に聞けばこの聖騎士団のことがいろいろわかるかもしれない。
「君はどこに配属されるんだ?」
「本部付の見習いということでした。副団長の下で指導を受けるようです」
それを聞いてレイクは同情した顔を見せた。
「ああ、かわいそうに・・・」
「どうしてなのですか?」
「あの副団長は厳しいことで有名だ。陰で『鬼の副団長』と言われている。それにな・・・」
レイクは「はあっ」と息を吐いた。
「副団長はマリウスをかわいがっている。弟のように・・・。だからマリウスに恥をかかせた君を目の敵にするかもしれない」
それを聞いてアリな嘆息した。
(ああ、これはとんでもないことになるかも・・・気を引きしめないとな)
「まあ、つらいけどがんばれよ! 飯でも食いに行こうか? 寮内を案内するよ」
レイクはそう言ってくれたので、アリは一緒に食堂に行くことにした。
そこは2階の大きな広間が食堂だった。大きな窓があって中は明るく、白いテーブルがいくつも並べられていた。そこには見習いの青年たちが楽しそうに食事していた。
アリたちも係りの者から食事の載った盆を渡されて席についた。パンにスープ、サラダに肉料理・・・屋敷の食事より簡素だが、食べ盛りの青年たちにとって十分な量がある。
「ここの食事はうまいんだ。ここの寮長が食いしん坊でさ」
「どんな人なんですか?」
「もうすぐ来るさ。あっ! うわさをすれば・・・」
すると腹の出た中年男がのっしのっしと歩いてきた。
「食べてるか? 今日は特製の牛肉の煮込みだ。うまいだろ?」
食事をしている青年たちに声をかけている。レイクが潜めた声でアリに言った。
「あれがミラウス寮長だよ。ここのコックに料理の指示を出しているのさ」
「元はコックなのですか?」
「それが違うんだな。聖騎士団員だったそうだ。10年前に退役してここで寮長になったんだ」
そう話している2人のテーブルにもミラウス寮長がやってきた。
「レイク。調子はどうだ?」
「ええ、まあ・・・」
「魔法の訓練もいいが、剣の方の腕も磨いておけよ。おっと、こっちは新人だったな」
アリは立ち上がって頭を下げた。
「アリ・ローザンです。よろしくお願いします」
「13だったな。つらいこともあるが、がんばれよ。困ったことがあったら相談に来い。遠慮は無用だ!」
そしてレイクの方を向いた。
「レイク。おまえと同室だったな。よく面倒を見てやれ!」
「は、はい」
レイクはミラウス寮長の迫力に圧倒されているようだった。
「新しい奴が来てくれて愉快だ! ハハハ!」
ミラウス寮長はアリの頭をポンポン叩くと隣のテーブルに行ってしまった。
アリは唖然とした。あれほど豪快な人は前世でも少なかった。
「びっくりしただろう?」
「はい」
「ちょっと迫力があるが、困りごとには親身に相談に乗ってくれるそうだ。まあ、ここじゃ、一番頼りになる人だな」
レイクはそう話した。
(寮長は私が女だということを知っているのだろうか。男と偽っていることを・・・)
そのことが一番の悩みの種だった。秘密にしなければならないし、ばれないようにしていかねばならない。それには・・・
(シャワーは誰もいない夜中に浴びて・・・。着替えているところをレイクに見られないようにしないとな・・・)
考えることはまだまだ多かった。




