第7話 入団
アリはカルヴァン団長に連れられて馬車で王都に向かった。聖騎士団員になるために・・・。その車中、カルヴァン団長はいろいろと話をしてくれた。
「聖騎士団は王都の中心地、ロンチェスター教会に本部と隊舎を置く。正団員は30名ほどだ。その下に従団員、見習いがいる。約150名というところだ。5組に分かれている。我らの任務はこの国の治安の維持だ。そのための取り締まりを行う。だがこれは表向きの仕事だ。実はもっと大きな役割がある。これは聖騎士団内に留めておく話だが・・・」
カルヴァン団長は声を潜めた。
「王都には魔獣という化け物が出ることがある。この魔獣がどうして出現するのかはいまだにわからない。自然発生的なのか、何者かの仕業なのか・・・。だがこのことが知れれば王都に住む人々はパニックになるだろう。我々は秘密裏にそれを処理しなければならない」
聖騎士団は得体のしれない魔獣退治を今は主な任務としているようだ。。
「まあ、君はまず聖騎士団のやり方に慣れてもらうことになる」
「私はどこに配属されるのですか?」
「君はまず本部付きの見習いから始めてもらう」
「何をするのですか?」
「まずは規則を覚えてもらって訓練だ。副団長が面倒を見てくれるだろう」
そこまで説明してカルヴァン団長はまた声を潜めた。
「君が女だということは秘密にしてもらいたい」
「それはどうしてですか?」
「聖騎士団に女はご法度。そんな不文律がある。幸い、アリという名前は男でも通じる。だから君は男としてふるまってくれ。もちろんマリウスにも口止めはする」
それを聞いてもアリは困惑しなかった。
(意識は前世の羽原丈一郎のままだ。男として生きるのもいいかもしれない)
アリはそう考えて返事した。
「わかりました。女ということは隠します。団長も私が、いえ僕が女だということはお忘れください」
アリはここで女を捨てて男として生きていく決心をした。
「うむ。それほどの覚悟があればよい。この国は安泰ではない。魔獣の件もあるが、特に近頃、別のことでも揺らぎ始めている。反対派が王様に反旗を翻しているのだ。この国を安定させるために我々が矢面に立ち、王様をお支えするのだ。共に苦難の道を歩むことになるが、一緒に突き進もう・・・」
カルヴァン団長はアリに熱く語った。主君のため、いや王様のために命を懸ける・・・それは前世に通じるところがある。
「この命をささげて務めます」
アリはカルヴァン団長にそう誓った。
◇
聖騎士団の本拠、ロンチェスター教会は広大な敷地を持ち、その中心に荘厳な佇まいを見せる礼拝堂がそびえたっている。そしてその周囲には講堂をはじめ多くの石づくりの建物が立ち並んでいる。その壮大な光景はそこを訪れた人たちの心を圧倒していた。
アリは礼拝堂で宣誓の儀式を行った後、本部に連れて行かれた。そこにはこの聖騎士団の幹部が集まっている。いずれも凄腕の剣士という印象を受けた。カルヴァン団長が声をかけた。
「アリ・ローザンだ。新入りの見習いだ。みんなよろしく頼む」
「アリ・ローザンです。よろしくお願いします」
アリは頭を下げた。するとまず大柄でがっちりした体格の剣士が声をかけてきた。腰に大きな長剣を下げている。
「しっかりやりたまえ! 俺は一番隊のソウ・キタだ」
そばに来てアリの肩をポンと叩く。豪胆な勇者のような印象を受ける。
次に声をかけてきたのは小柄な剣士だ。侍のように腰に長短の剣を差している。
「二番隊の隊長のシン・ナラクだ」
神経質そうに瞼をヒクヒク震わせている。すると部屋の奥からしわがれた低い声が聞こえてきた。そこには細い剣の手入れをしている、細身のやせた剣士がいた。
「三番隊、ハイチ・サイトだ」
その様子は物語に出てくる死神を思い起こさせた。
「アリ! よろしくな! 四番隊を預かるチェズ・マバラだ!」
アリの前に大男の剣士が出て来て、ニコニコ笑いながら彼女の手を握った。その力の強さで手が押しつぶされそうだった。嫌がらせでもなく、ただこの人なりの歓迎のあいさつのようだ。
アリはその手をあわてて放した。すると顔の前に小さな花束を差し出された。それはマントの剣士が空中から取り出したものだった。
「歓迎するよ。五番隊のリュウ・ダダだ。魔法は使えないのかい?」
「いえ、それは・・・」
「それは残念だ」
ダダは花束を消した。
「興味があれば魔法も勉強したまえ フフフ」
彼は不気味な笑いを残して部屋から出て行った。
(隊長たちは一癖も二癖もありそうだけど腕は確かなのはわかる・・・)
アリはそう思いながらまだ声をかけてこない一人の剣士の方を見た。この部屋に入った時からアリの方を怖い顔で見ている。
(何か気に食わなかったのだろうか? もう一度、頭を下げてみるか・・・)
アリはその剣士に頭を深く下げた。
「アリ・ローザンです。ご指導のほどよろしくお願いいたします」
「2度も言わなくても分かっている!」
その剣士はアリのそばにきて右手で彼女の顎をつかんで顔をあげさせた。
「まるで女のような優しい顔だな! こんな奴に務まるのか! カルヴァンさんよ!」
じっと険しい表情でアリをにらみつけている。
「そのへんにしておけ。ジーク」
カルヴァン団長が声をかけるとジークと呼ばれた剣士は手を放した。
「彼はジーク・オーガだ。副団長だ。当面は君の指導をしてくれるだろう」
カルヴァン団長はそう紹介した。オーガ副団長はアリを指さしながら言った。
「明日からビシビシ鍛えてやる! ここに来たのを後悔するくらいにな!」
そして部屋から出て行った。
「まあ、気にするな。言葉はきついが悪い奴じゃない」
カルヴァン団長はそう言うが、アリには(気難しい人だ)としか思えなかった。
(明日からが思いやられる・・・。だがこんなことは、いやこれ以上のことは前世でも経験している。まあ、何とかなるだろう・・・)
アリは心の中でため息をつきつつも、気楽に考えていた。




