第6話 再戦
マリウスは木剣を構えながら、執拗にフィンリーに迫った。
「さあ、その木剣を拾え! 拾うんだ! 今日こそは逃がさないぞ! 立ち会うまではここから帰さん!」
従者は「ひえっ!」と悲鳴を上げて逃げてしまった。
「み、見逃してください。お願いです・・・」
フィンリーは土下座までしていた。先頃、剣術の稽古を再開したところだ。とてもじゃないが立ち会うことなどできない。それも相手が聖騎士団員のマリウスとなると・・・。
その騒ぎは屋敷にも聞こえていた。その怒鳴り声に気になったアリがふと窓から外を見た。
「あれは!」
門を出たところに、座り込んだフィンリーの前に木剣をかまえたマリウスがいるのが見えた。彼が何度も再戦を申し込んできていたことをアリも知っていた。だが受けるわけにもいかず、そのうちの諦めるだろうとローザン子爵は無視し続けた。
(ここまで押しかけてくるとは・・・・)
アリはマリウスがそこまでするとは思ってもみなかった。
(私のせいだわ! フィンリーを守らなければ・・・)
アリは2階の部屋の窓から飛び出し、壁を伝って下りた。そしてドレスの裾を持ち上げて門から外に走り出た。目に前では今やマリウスがフィンリーに木剣を振り下ろそうとしている。アリは大声を上げた。
「やめなさい!」
「女が出る幕ではない! 引っ込んでいろ!」
「そうはいかないわ!」
マリウスは試合に応じない限り、フィンリーから離れないだろう。アリは落ちている木剣を拾った。
「私が相手になるわ! フィンリーを放しなさい!」
「女だてらに! けがをするぞ!」
「そんなことはないわ! かかって来なさい!」
アリは半身で構えた。それを見てマリウスは鼻で笑った。
「それでこの僕に勝てるというのか?」
「よく見なさい! あなたと戦ったのは私よ!」
アリは木刀を両手で持って正眼に構え直した。
「その構えは!」
マリウスは目を剥いた。その構え・・・紛れもなくあの試合の時に見たフィンリーの姿だった。そしてその顔はフィンリーそっくりであるのに気付いた。となると・・・。
「どういうわけだ?」
「私はアリ。フィンリーの双子の姉よ。あの時、試合に出たのは私よ。嘘と思うなら打ち込んできて確かめなさい!」
「そうさせてもらう!」
マリウスは木剣を打ち込んだ。それをアリは簡単に受けていく。裾の長いドレスを着ているが、その動きに隙はない。負けられないマリウスは少し焦っていた。
「今度こそ、勝つ!」
マリウスは強引に上から打ち込んだ。そこをアリは自らの木剣を反転させ、マリウスの木剣を強く打ち上げた。するとその木剣はマリウスの手を離れ、空中に舞って地面に落ちた。
「いや、勝負はまだついていないぞ!」
マリウスはすぐに木剣を拾いに行き、またアリに向かって行こうとした。その時、
「それまでだ!」
と声がかかった。マリウスが振り返るとそこにはカルヴァン団長がいた。
「マリウス。もう引け」
「しかし団長!」
「もういいだろう。再戦を果たしたのだから。これで自分の実力がわかっただろう」
「は、はい・・・」
「お前はもう帰れ。私には用がある」
そう言われてマリウスはすごすごとその場を去っていった。それを見送った後、カルヴァン団長がアリにやさしく言った。
「すまなかった。部下が無礼を働いて」
「いえ・・・」
「ところでお嬢さん。あなたに話がある。あなたのお父様にも。屋敷にお邪魔してもいいかな?」
「ええ、それは・・・」
カルヴァン団長が何のために訪ねてきたのか・・・それはわからないままにアリは屋敷に案内した。
◇
カルヴァン団長は応接室に通された。ソファにどっかり腰を落ち着けていると、そこにローザン子爵とマリ夫人、そしてアリが入ってきた。
「カルヴァン団長。ようこそ。我が家に」
「急にお邪魔して申し訳ない。こちらのお嬢さんのことでお話があって」
「アリにどんなお話が?」
カルヴァン団長は一呼吸置いてはっきりと言った。
「単刀直入に言います。お嬢さんをぜひ聖騎士団にいただきたい」
これにはローザン子爵もマリ夫人も驚いた。
「聖騎士団に? アリは女なんですよ!」
「それはわかっています。しかし先の剣術大会で優勝されました。フィンリーという弟の名を使って」
「それは・・・」
「全て調べました。お嬢さんは類まれな腕を持つ剣士です。それをこの国のために生かしてほしい」
カルヴァン団長は頭を下げた。そこまで言われてはローザン子爵は無下に断れない。横にいるアリに尋ねた。
「アリ。おまえは聖騎士団員になる気はあるのか?」
「お父様。私はこの国のために働きたいのです」
アリはそう答えた。そこまで考えていたわけではない。子爵令嬢としておしとやかに過ごすのは性に合わない。ならばいっそのこと、この剣を生かして聖騎士団に入団するのは悪くないとアリは思ったのだ。
ローザン子爵はしばらく考えてからカルヴァン団長に返答した。
「団長。娘をよろしく頼みます」
「わかりました。必ず一人前の聖騎士団員にしましょう」
カルヴァン団長は誓って言った。そしてアリの方に向いてやさしく語った。
「君はすでに素晴らしい剣の腕を持っている。だが慢心してはいけない。これからの鍛錬により君の剣はもっと花開くだろう。剣の道は一生だ・・・」
それを聞いていたアリは前世のことを思い出した。無心一刀流・・・それは厳しい修行によりようやく身についたのだ。その師も同じことを言っていた。修業は一生だと・・・。アリはカルヴァン団長に師の姿を重ね合わせていた。




