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前世の執着を背負った剣の達人の武士が、異世界に生まれ変わって聖騎士団で活躍します。女ですけれど・・・  作者: 広之新


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第5話 露見

 アリはすり足で前に進んだ。両者の間合いは急に縮まった。マリウスは木剣を突き出した。そのスピードは目にも止まらぬほど速い。だがアリはその動きを見切っていた。自らの木剣を大きく横に払った。


「あっ!」


 マリウスが思わず声を上げた。彼の木剣は手を離れて空中を舞っていたのだ。彼は何が起きたか、わからないようだった。


「バン!」


 マリウスの木剣が床に落ちた。彼は茫然としていた。こんな形で敗れるとは・・・。目の前のアリは打ち込んで来ようともせず、木剣を正眼にかまえたままだ。


「マリウス殿。まだ勝負はついておりませんぞ。木剣をお拾いください」


 審判はそう促した。だがマリウスは負けを認めていた。完全な敗北を・・・。


 そこにローザン子爵があわてて飛び出してきた。何か急な事態が起こったようだ。


「申し訳ありません! 急なことがありまして・・・。このまま失礼します!」


 ローザン子爵はアリを抱きかかえるようにあわてて会場を出た。アリは何が起きたのかわからなかったが、父がかなり動揺しているのは感じた。


 残されたマリウスは茫然としていた。大人の一流剣士ならいざ知らず、子供に負けてしまったのだ。それも持っていた木剣を落とされるという屈辱的な格好で・・・。これは両者の間に相当な実力差がないとできないはず・・・


「マリウス。どうだった?」


 カルヴァン団長がやさしく尋ねた。


「完敗です。しかし次は負けない。きっと勝ちます!」

「まあ、気を張るな。世の中は広いということだな」


 カルヴァン団長はマリウスの肩をポンポンと軽く叩いて行ってしまった。


(この次はきっと勝つ! 勝ってみせる!)


 マリウスはアリとの再戦を心に誓っていた。



 ローザン子爵はあわてて屋敷に戻ると、アリとサン先生だけを書斎に入れた。召使には呼ぶまでこの部屋に近づくなと指示して・・・。

 ローザン子爵は険しい表情をしてアリに言った。


「おまえはフィンリーじゃない! アリだな!」


 入れ替わったのがばれてしまったのだ。


「今、領地の屋敷から使いが来た。そこにいたのはアリではなくフィンリーだったと。いつからだ?」


 こうなったら正直に言うしかない。


「6歳の頃からです」

「6歳? じゃあフィンリーはまともに剣術の稽古をしていないのだな」

「はい・・・」


 ローザン子爵は頭を抱えた。幼いころから鍛えてこそ剣術が身につくというのに、フィンリーはその大事な時期に稽古をしていない・・・。それでも彼はサン先生に頼むしかなかった。


「先生。これからでもフィンリーの稽古を頼みます」

「はい。それは・・・。しかし今からでは身につかないかもしれません」

「それでも結構です。フィンリーには軍役につかせませんから」


 ローザン子爵はサン先生と相談してからアリの方に向いた。


「おまえは何ということをしてくれたのだ!」

「お父様。申し訳ありません。しかし私は剣術がしたかったのです」

「女が剣術を覚えてどうする? どこの騎士団にも入れんのに。おまえはこれから屋敷でおとなしくしているんだ。いいな!」


 アリは領地に戻ると屋敷に閉じ込められた。ここで嫁ぎ先が見つかるまで過ごさねばならない・・・。アリは窓から外の景色を眺めてはため息をつくことが多くなった。


 ◇


 マリウスは憂鬱な日々を送っていた。フィンリーという無名の、それも同じくらいの年の者に負けてショックを受けていたのだ。これを吹き飛ばすのは完璧な勝利しかない・・・。彼は懸命に剣の稽古に励んだ。それと同時にフィンリーのいるローザン子爵家に再戦を申し込んでいた。だがどうしたわけが、それに応じてはくれない。


「あれからフィンリーは他の剣術大会に出た様子はない。しかもあの時はまるで逃げるようにローザン子爵と帰って行った。何かあるのか・・・」


 再戦に応じられぬわけがあるかもしれないが、いくら考えても分からない。結局、マリウスはローザン子爵領に出向いて直接、再選を申し込むことにした。それなら応じるだろうと・・・。

 馬を走らせて半日、ローザン子爵の屋敷に着くと、その門番に告げた。


「僕は聖騎士団のマリウス・トッドだ。フィンリーに剣術の試合を申し込みに来た。取り次いでもらいたい」


 門番は伝えに行ったが、その返事は思わぬものだった。


「フィンリー様は病気で寝込んでおります。剣術の試合などできかねるということです。お引き取りを・・・」


 そう断られても、すぐにあきらめて帰るわけにはいかない。マリウスは近所でローザン子爵家のことを聞き込んだ。するとフィンリーは寝込んでいることはなく、毎日昼間に散歩のために屋敷から出てくることを聞き出せた。


「きっと試合を受けさせる!」


 マリウスは屋敷近くに隠れて待った。すると門が開いて少年が出てきた。傍らに従者を従えている。その顔は・・・試合をしたあのフィンリーに間違いない。マリウスは2本の木剣をもってその前に出た。


「待て! フィンリーだな?」

「そうですが・・・。あなたは?」

「見忘れたか? 聖騎士団のマリウス・トッドだ。再戦を申し込みに来た」


 それを聞いてフィンリーはあわてた。


「いや、それは受けられません」


 そう言ってあわてて帰ろうとしたが、マリウスはその前に立ちはだかって木剣を投げた。


「それを拾え! ここであの時の決着をつけてやる!」


 マリウスは木剣をかまえた。フィンリーは恐ろしさのあまり、座り込んで震えていた。




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