第4話 ライバル
一方、ルーカスも感じていた。13歳と言えども侮れないと・・・。
「始め!」
審判が声をかける。ルーカスはすぐには動かない。左に回って構えを変えながらこちらの様子をうかがっている。それに合わせてアリも左に動き、相手の隙を探す。しばらく膠着状態が続いた。
(ルーカスはこちらの出方を見ている。ならば・・・)
アリは前に進んで間合いを詰めた。そこを待ってましたとばかりにルーカスが突きを繰り出す。だがアリは後ろに下がらない。逆に前に突っ込んでいく。
「なにっ!」
これにはルーカスは驚いたようだ。今までの試合でこんなことをする者はいないと。それでも木剣をアリに向けた。そこを彼女は受け止め、つばぜり合いとなった。アリは力込めて木剣を押し込んでいく。
「な、なんだ・・・」
ルーカスは面食らっていた。こんな距離を詰めたら突くことはできない。アリは木剣で押して突き放すと横に回した。そしてすれ違いざま、ルーカスを胴斬りした。
見たこともない技に皆は驚き、会場は一瞬、静かになった。審判はしばらくしてはっと気を取りなおして声を上げた。
「そこまで! 勝者アリ!」
そこでやっと歓声が上がった。胴斬りでも有効技とみなされたのだ。アリは木剣を下げると相手に一礼した。
一方、ルーカスは茫然としたままだった。負けたことが信じられない様子だった。その彼を所属する道場の師匠が声をかけて奥に連れて行った。
アリの周りに多くの人が集まってきた。
「優勝おめでとう!」
それぞれがお祝いの言葉をアリにかけた。ローザン子爵やサン先生もそばに来て肩を叩いて喜んでいた。
(これで終わった・・・)
アリは試合が終わってほっとしていた。だがその時、背中に大きなオーラの気配を感じた。振り返って見るとそこには聖騎士団長のカルヴァンがいた。
「おめでとう! 素晴らしい技だった」
カルヴァン団長は右手を差し出していた。
「ありがとうございます」
アリも右手を出して握手した。カルヴァン団長は温かみのある目が印象的で、なぜか懐かしさを感じていた。
「どこで剣術を修行しているのかね?」
「剣術はサン先生に習っています」
「ほう! 最後の技も習ったのかね?」
「いえ、とっさに出ました」
「そうとは見えないほどキレがあった。なあ、どうだろう? マリウス」
カルヴァン団長は横にいるマリウスに尋ねた。
「まあ、そうですね」
マリウスは気のない言葉を返した。少年部の子供じみた試合など興味がない様子だった。カルヴァン団長はその態度に怒ることもなくある提案をした。
「どうだ? マリウス。優勝したアリと手合わせしたらどうだ?」
「僕がですか?」
マリウスは不服そうだった。年齢は近いとはいえ、自分は聖騎士団員だと。剣術大会で優勝する程度の相手では練習相手にもならないと思っていた。
「そう言わずにな。変わった技を使うからおまえのためにもなる」
カルヴァン団長は優しく何度も勧めるのでマリウスは断りにくくなった。
「そこまでおっしゃるならお相手しましょう。フィンリー君もいいな?」
「はい」
アリは再び木剣をかまえた。彼女には興味があった。最年少で聖騎士団員になったマリウスの実力はどれほどのものだろうと・・・。
マリウスも木剣をもった。だが構えようとしない。ただ突っ立ったままだ。
「どうした? 打ち込んでこないのか? 僕はこの通り、構えていないぞ!」
そう言われればこちらから行くしかない・・・アリは間合いを詰めて木剣を繰り出した。だがそれはことごとくマリウスに受け止められた。構えていないというのに・・・。
(私相手では構えてなくても勝てると思っている。自信過剰? それとも本当に強いのか?)
アリは攻撃を繰り返したが木剣がマリウスに当たることはない。彼はつまらなそうな顔をしてアリの攻撃を受けている。やがてそれにも飽きてきたようだ。
「なかなかの攻撃だったね。じゃあ、今度は僕の番だ!」
マリウスは攻撃に転じた。彼の突き出す木剣は鋭い。アリは後ろに下がりながらも何とか避けていた。
「なかなかやるね! これではどうかな?」
マリウスはアリを試すように足を使って間合いを詰めてくる。決勝戦のような接近戦に持ち込んでも体を回転させて攻撃してくる。アリは大きく後ろに下がって距離を大きく開けた。
(こっちは必死なのに、相手は余裕だ。どんどん追い詰められている。やはりすごい腕だ)
アリは左手で額の汗をぬぐった。片手持ちの木剣が汗で滑りそうだ。そこで思わず右手も木刀を握った。そうなれば体勢は半身ではない。木剣を両手もちで相手に向かって真っすぐにかまえている。
それを見てマリウスの表情に侮蔑の色が浮かんだ。木剣を両手で持つなど剣術のイロハも知らぬ奴。優勝したのはまぐれだと彼は鼻で笑った。
だがアリはこのかまえがしっくり来ていた。前世で無心一刀流を極めたその技がアリによみがえろうとしていた。
「じゃあ! これが最後だ! ご苦労さん!」
マリウスは決着をつけようと間合いを詰めてきた。




