第3話 剣術
剣術稽古の時、アリはフィンリーと服を変えて外に出た。双子だから見た目ではわからないはずだと思ったが、もしかしたらばれるかもしれない・・・内心ドキドキしていた。だが誰も気づかなかった。
(うまくいった! このまま稽古ができる)
アリはサン先生の言うとおり木剣を振るう。体は違うが記憶は体の動きを覚えている。ただし木剣の扱いはかなり違う。この世界では剣を片手持ちで扱い、半身になって突くのが主な技だ。前世での無心一刀流とは全く異なる。違和感を覚えながらも木剣を振り続けた。
剣術の稽古をすると気が引き締まり、気が晴れていく。そうなるとさらに体の動きも良くなる。稽古終わりにサン先生はほめてくれた。
「今日はなかなかよろしい。いつもと別人のようです」
アリは内心ビクッとした。だがばれている様子はない。次もこの手が使えそうだとアリは考えた。
一方、入れ替わったフィンリーは部屋でゆっくり読書ができたようで満足していた。部屋に帰ってきたアリに言った。
「いつもこうしてくれよ。この方が僕に合っている」
「わかったわ。フィンリーも気づかれないようにしてね」
こうしてアリは剣術の稽古を続けた。するとサン先生が驚くほど、みるみる上達した。この世界の片手持ちの剣術だが、前世の剣術と相通じるものがあるようだ。13歳になるとサン先生と堂々と打ち合えるまでになった。
「ここまで上達なされるとは驚きです。天才としか言いようがないでしょう」
サン先生はそう絶賛した。それを聞いて父のローザン子爵は大いに喜んだ。
「それならこの子には将来、剣で身を立てさせましょう」
「それは良い考えです。聖騎士団に入れましょう。いや騎士団長にもなれるかもしれませんぞ」
「そうなれば我が家の名誉だ。はっはっは」
ローザン子爵は上機嫌になって笑っていた。聖騎士団は国王直属の騎士団だ。そこの団員となれば周囲から大いに尊敬される。それが団長ともなると・・・。
そこでサン先生は提案した。
「13になられたことですし、試合にお出になってはいかがでしょう?」
「ほう。そんな場所があるのですな」
「はい。年に1回。王都で剣術の全国大会があります。少年の部がいいでしょう。ここでよい成績を残した者は聖騎士団に入る近道になります」
それでアリは剣術大会に出ることになった。アリはうれしかった。うわさに聞く王都とはどんなところなのか、興味がある。
王都まで行くことになるから屋敷を数日あけることになる。フィンリーにはその間、ばれないようにアリの振りをしてもらわねばならない。もちろんアリの方もフィンリーの振りで通さねばならない。
馬車で一日ほどで王都に着いた。そこは石造りの高い建物が立ち並ぶ都市だった。通りには多くの人が行き来している。あちこちに珍しいものがある。
だが辺りを見ている余裕はなかった。王都の屋敷に着いてからも気をつけて、とにかくばれないようにしなければならない。あまり人と話さないようにして、着替えも侍女に手伝わせなかった。トイレの時も何とかごまかして・・・。
やがて大会の日になった。王都の大きな競技場に人が集まっている。今日は少年の部だ。アリより少し上くらいの少年が集まっている。もちろんそこには少女の姿はない。
「これから剣術大会、少年の部の試合を始める。今回は聖騎士団のカルヴァン隊長とトッド男爵のご子息で最年少で団員になられたマリウス卿がご覧になる。各自、がんばるように・・・」
マリウスはアリより一つ年上だけだが、幼くしてその剣を開花させ、大人の剣士を次々に打ち破った。そして近頃、聖騎士団員になった。14歳で団員というのは前例がない・・・。
マリウスはつまらなそうにしていた。同じ年頃とはいえ、ここで見るものはないと思っているようだった。
試合は1対1のトーナメント形式だった。木剣を使い、的確に相手に当てれば勝ちというルールだった。
アリは初めて試合に臨んだ。もっとも前世では実戦を何度も経験しているから怖さはない。相手はドサール道場代表の少年。試合前から木剣を振り回して威嚇してくる。アリはそれに動じることなく、静かに心を整えている。
向かい合って剣をかまえると「始め!」と審判の声がかかる。これで試合が開始される。
「ヤーッ!」
と相手は間合いを詰めて突きを繰り出してくる。アリはそれを落ち着いてさばき、相手の木剣をはね上げて、それでできた隙に木剣を打ち込む。それは見事に相手の胸を叩いた。
「そこまで! 勝者フィンリー」
審判がアリの勝利を宣言する。観覧席のローザン子爵やサン先生は手を叩いてうれしそうにしている。
アリは次の試合、その次の試合も勝った。その強さに会場は騒然となった。最年少で初出場なのに圧倒的な強さだからだ。試合相手は目の色変えてアリに挑むが、木剣をアリにかすらせることすらできない。アリは勝ち続けていよいよ決勝戦となった。
決勝に相手は2年連続優勝のルーカスだった。17歳になり、少年の部は今年で最後だ。彼は3年連続優勝を狙っている。そして優勝すれば聖騎士団入りも決まるからこの試合にかける思いは格別だ。
(手ごわそうだ)
相手の構えだけでアリにはその強さがわかる。今までの相手とは違う・・・アリは「はあっ」と息を吐いて気を入れ直した。




