第10話 弱点
聖騎士団でもケガを防ぐために、訓練の時の打ち合いの時は訓練用の剣ではなく木剣を使うことがある。アリは木剣をもってビッケルと向かい合った。試合に先立ち、オーガ副団長が2人に声をかけた。
「新人。ビッケルは剣の腕は見習いの中では中の下というところだ。特に凄腕というわけではない。ビッケル! 相手は新人だが侮るな。さあ、2人とも思いっきり行け!」
アリは半身の姿勢で木剣をかまえた。相手の構えを見る限り、それほど強くはないことがわかる。
「キエー!」
ビッケルが打ち込んできた。アリはそれを避けると木剣を横に払う。それはビッケルの体を横斬りにしていた。
「それまで」
勝負はついた。アリの勝ちだ。彼女はオーガ副団長を見た。彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
「ふふ。では次だ。訓練用の剣を使え」
また試合をさせようというのだ。今度は訓練用の剣。刃がついておらず、剣先に保護具がある以外は本物の剣と同じ造りだ。だから当たり所によってはひどいケガをすることがある。
「ではいいか? 始め!」
またアリはビッケルと対峙した。構えたが、剣の重みでピタリと定まらない。
「キエー!」
ビッケルが打ち込んできた。剣の重みに気を取られていたが何とか交わした。そして剣を振ろうとしたが・・・
(動かない・・・)
重みでスムーズに剣が出ない。その間にもビッケルがまた剣を振り下ろしてくる。それを今度は剣で受け止めた。「カキーン!」と金属音がして押し込まれる。そしてビッケルが打ち込んでくる・・・。アリは防戦一方だ。
(前世では男だったから重い刀を振り回すことができた。だが今は13の少女だ。筋力がないからこんな剣ですら自由に振り回せない。特に片手持ちでは・・・)
アリはさっと後ろに下がった。この剣は柄が短く、遊びが少ない。だがこうなっては・・・。アリは右手に左手を添え、正眼に構えた。
「待て! 剣を両手で持つな!」
オーガ副団長の声がかかった。
「我らは聖騎士団だ! 試合においては正々堂々、きちんとした型で戦え! 邪道な剣には邪な心が入る!」
そんなことを言われればどうしようもない。アリはまた片手持ちの構えに戻った。そこにビッケルが打ち込んでくる。その剣を受けるアリの右腕は次第にしびれてきた。
「どうした! 新人! 反撃しろ!」
オーガ副団長の叱咤が耳に入る。だがすでに右腕が言うことを聞かない。腕の動きもかなり鈍くなった。
「カキーン!」
ついにアリの剣が飛ばされた。そしてビッケルの剣がアリの腹を突いた。
「ううっ!」
アリは痛みで2つ折れになり、その場にうずくまった。
「勝負あったな! 新人! おまえの剣はおままごとだ。木剣なら立ち会えたかもしれんが、鉄製の剣ではこのざまだ。実戦ではおまえは死んでいた。生きているのをありがたく思うのだな」
オーガ副団長は冷たく言い放った。確かにその通りだ・・・アリはそう感じていた。
(本当の戦いでは斬られていた。今までは木剣での打ち合い・・・確かにおままごとだ。実戦ではこうはいかないことを私は知っていたはずだ・・・)
アリは膝をついたままうなだれていた。
「今日はこれで終わり! 各自、作業に戻れ!」
オーガ副団長はそれだけ言ってロウ従団員とともにその場を去っていった。
その姿が見えなくなると、真っ先にビッケルが駆け寄ってきた。
「大丈夫か? すまなかったな。つい本気で突いちまって・・・」
「はい、大丈夫です」
アリは痛みをこらえて立ち上がった。カーランがそれを支えてくれた。
「君はよくやったよ。ビッケルの腕が中の下ということはない。彼の一撃は重い。よくそれを受け止めていた」
「どうも・・・」
今日初めて会っただけなのに、心配してくれる仲間がアリにはうれしかった。だがクロスだけは冷ややかな目をしていた。
「でも剣を飛ばされるなんて・・・こんな無様な負け方をしたからには考え直した方がいい」
「おい! クロス! そんな言い方はないんじゃないか!」
カーランがクロスの肩をつかんだ。それをクロスはうるさそうに振り払った。
「俺らは厳しい世界に生きているんだ。見習いだからいいというわけはない。外に出れば命の保証はないんだ!」
クロスはそう言って本部の建物に戻っていった。その後姿を見送りながらビッケルが言った。
「アリ。クロスのことを悪く思わないでくれ」
「いえ、それは気にしていません」
アリにはクロスの言葉はごく当然のことのように思われた。
「クロスの兄は正団員だった。それも三番隊の隊長だったんだ。だが魔獣に襲われた人々を救うため、その命を散らした。クロスは口に出しては言わないが、その悲しみを今も引きずっているんだ」
アリはそれでわかった。
(クロスは暗い影を引きずっているように見えた。それは彼が命を懸けるという意味を厳しく受け止めているからだろう。それは私も同じ。実戦を潜り抜けてきた者しかわからない)
午後からも装備の手入れをした。アリは突かれた腹の痛みを引きずっていた。だがそれをここで言うわけにはいかない。言えば服を脱がされて女であることがばれてしまうかもしれないからだ。
寮に帰ると、後ろから呼び止められた。
「アリ! どうした? 腹が痛いのか?」
それはミラウス寮長だった。腹の痛みを隠していたのだが彼は見破っていた。
「剣の試合で突かれたので・・・少し痛いだけで大丈夫です」
アリはそう返事したがミラウス寮長は彼女の手を取った。
「一緒に来い! 傷を見てやる!」
「いえ、結構です。訓練用の剣で突かれただけなので・・・。たいしたことはありませんから・・・」
「そうかどうか見てやる。とにかく医務室まで来い!」
アリは(女であることがばれてしまう!)と焦りながらそのまま引っ張って連れて行かれた。




