第11話 動揺
アリはミラウス寮長に無理に医務室に連れて行かれた。
「頼もう! モウ先生はいるか?」
ミラウス寮長はノックするや否や、ドアを開けた。するとそこには白い服を着た中年の女性が机に向かって座っていた。
「どうしました?」
「新入りのアリだ。けがをしている。訓練用の剣で腹を突かれたようだ。診てくれ!」
ミラウス寮長は私を前に突き出した。
「じゃあ、そこに座って。服を脱いで」
モウ先生はそう言うが、私は服を脱ぐことができない。女であることを隠すために・・・。ためらっているとミラウス寮長が言った。
「モウ先生は魔法使いだ。ヒーリング魔法が使える。さあ、診てもらうんだ!」
それでもやはり脱ぐことができない。それを見てモウ先生ははっと気づいたようだ。
「寮長。外に。アリさんは・・・」
「そうだった。それは気づかなかった」
寮長は部屋の外に出た。そこでモウ先生は優しく言った。
「これでいいでしょう。男の人は外に出たわ」
「えっ! それでは・・・」
「知っているわよ。カルヴァン団長が寮長と私にだけにあなたの秘密を話したの。だから大丈夫よ」
それを聞いてアリは安心して服を脱いで腹を見せた。
「まあ、打撲傷ね。少しきついけど。でもすぐに治るわ」
もう先生はヒーリング魔法をかけてくれた。それで痛みは和らいだ。
「これでよし! 明日には大方引いているわ」
「ありがとうございます」
「けがをしたら無理しちゃだめよ。私たち魔法使いが治療に当たるのだから。いいわね」
「はい」
治療が終わり医務室を出た。そこにはミラウス寮長が心配そうに待っていた。
「どうだった?」
「打撲傷です。ヒーリング魔法をかけていただいたので明日にはもう大丈夫なようです」
「それはよかった。では寮に帰ろう」
ミラウス寮長は歩き出した。
「寮長は知っておられたのですね。僕の秘密を」
「もちろん当然だ。預かる者としては知っておかねばならない。モウ先生もそうだ」
「それなら幹部の方もすべてご存じなのですか?」
オーガ副団長はアリを排除したいように何となく感じていた。それは女だということを知っているからなのか・・・そんな疑問がアリにはあった。
「いや、知っているのは団長と俺とモウ先生だけだろう。もし知っていたら入団に断固反対するはずだ」
「でもどうしてそこまでして僕を? ここで僕がそれほど力になるとは思いません」
アリはそう言った。片手では剣を満足に振ることができないほどだ。女の自分には限界がある・・・そんな風に今のアリには思われた。そのアリの言葉を聞いてミラウス寮長の表情が険しくなった。
「本当にそう思っているのか? もしそう思うのならこの場を去れ!」
それは厳しい言い方だった。じっとアリをにらむように見てから語調をやわらげた。
「アリ。団長は君の可能性にかけている。君ならこの国を救えるほどの剣士になれると信じている。いや賭けているんだ。この国は危険に満ちている。これからももっと大きな危機が訪れるだろう。だから優秀な人材を集めているんだ。君が自分をあきらめたらそれまでだ」
その言葉はアリに刺さった。今日の無様な負けで心が参っていると自分でもそう思った。
「すみません。僕が間違っていました。これから鍛錬します。きっと団長の期待に応えられる剣士になります」
「うむ。それでいい。じゃあ、急いで帰ろう。今日の飯はな、特製のシチューだ。大きな肉の塊を何時間も柔らかくなるまで煮こんで・・・」
ミラウス寮長はさっきまでとは打って変わって楽しそうに話した。食べ物のことを話しているときは幸せそうな顔をしている。その様子を見ると心がほっと明るくなる気がした。
「おいしそうですね・・・」
アリも笑顔になって相槌を打っていた。
◇
次の日からもありの生活は変わらない。まず本部の清掃と雑用をこなす。本部にはいろんな人が来る。王宮の要人から市中の商人まで・・・。この聖騎士団に相談に来るようだ。その内容も部屋の書類の整理の時に目にすることがある。そこでこの国で起こっていることがおぼろげながらわかってきた。
そして朝の雑用が終わると訓練として庭に出される。そこではロウ従団員の指示通り、訓練用の剣を振るう。手がくたびれるほど・・・。その後は体力をつけるということで中庭を何周も走らねばならない。くたくたになるほどずっと・・・。それが終わると皆倒れ込んだ。
その横で正団員が模擬戦闘を行っていることがある。なかなかの技だ・・・アリは倒れながらもそれを感心して見ていた。そして本部に戻り、また雑用をこなして一日が終わる。
それにしても訓練の時に使う剣はアリにとって重すぎた。思い通りに振ることがまだできない。
(このままではいけない・・・)
アリはミラウス寮長から訓練用の剣を借り受けた。それを寮に帰ってから懸命に振った。だがそれだけでは十分ではない・・・アリは剣に重しをつけた。これが思う存分振れれば、試合において片手の構えでも勝機はあると踏んでいた。
そうして鍛錬をして部屋に帰ると、レイクがあきれたように言った。
「疲れていないのか? 寮に帰ってまで剣を振るなんて・・・」
「いや、大丈夫だ。ところでレイクさんは5番隊でどんな訓練を受けているのですか?」
「僕か? 魔法を練習することもあるし、剣を使った実技もするかな・・・」
「剣で打ち合うのですか?」
「まあ、実戦形式かな。魔法と剣を使って仮想敵を倒す。それが人形なんだけど魔法で人のようになって動くんだ。隊長がレベルを調整しているけど、なかなか強いよ」
5番隊の訓練にアリは引かれた。できればこんな訓練を受けたいとも思った。
「そういえば本部付きの見習いは掃除と雑用ばかりなんだって?」
「いえ、訓練もありますが・・・素振りと走り込みばかりで・・」
「そうなの? それはかわいそうだな。もしかして目をつけられた者はそこでずっと飼い殺しにされるのかもしれない」
そう言われてアリは思い当たることがあった。オーガ副団長ならそんなこともやりかねないかも・・・。新人がそこから逃げ出すように次々に転属していったのはそのためかもしれない。
「アリ。転属届を出した方がいいかも・・・」
「はい。考えてみます」
アリは嘆息してベッドに座り込んだ。




