第84話 置手紙
マバラ隊長は剣を鞘に戻して、開いてある窓から飛び降りた。この真夜中、誰も見つからずにここを出ようと・・・。あとは高い塀を乗り越えるだけでいい。
「マバラ隊長!」
後ろから声をかけられた。振り返るとマリウスが立っていた。
「こんな時間にどこに?」
「マリウス。見逃してくれ! 俺にはやらねばならぬことがある」
「そういうわけにはいきません」
マリウスはそう言うと先に歩き出した。
「どこに行く?」
「塀を簡単に越えられる場所があります」
「では君は・・・」
「一緒に参ります。マバラ隊長1人だけに行かせるわけにはいきません」
「なんのことだ?」
「監視役としてここ数日、マバラ隊長の様子を拝見してきました。あなたは決心したはず。それで近々、行動を起こすと思って張り込んでいたのです」
「見抜いていたのか?」
マリウスはゆっくりうなずいた。
「あなたはミハイルの居場所を知っているのでしょう。それで一人で決着をつけようとしている。誰も巻き込まないために・・・。しかし僕だけは同行させてください。あなたの戦いを見届けるために」
「マリウス。君っていう人は・・・」
マバラ隊長はマリウスの心遣いがありがたかった。
「さあ、見つからないうちに行きましょう。他の団員は返しましたから僕だけです」
その夜、マバラ隊長とマリウスはロンチェスター寺院から消えた。
◇
マバラ隊長がいなくなったのに気付いたのは朝になってからだった。朝食をもっていった団員が気づいたのだ。そしてその机の上にはカルヴァン団長あての手紙が置いてあった。
本部でカルヴァン団長とオーガ副団長が知らせを受けた。
「マバラがいなくなっただと! 探せ! 団員を動員して協会中を探すんだ!」
オーガ隊長が怒鳴った。だがカルヴァン団長が冷静だった。
「いや、もうこの教会にはいないかもしれない」
「マリウスはどうした? マリウスが監視していたはずだ!」
すると報告に来た団員が答えた。
「マリウス隊長も姿が見えません」
「なに! マリウスもか!」
オーガ副団長は唇をかんだ。このようなことがあると思ってマリウスを監視につけたのに、一緒になって消えてしまうとは・・・。
「ジーク。落ち着け! まずはマバラの手紙を読もう」
「ああ、そうしよう」
オーガ副団長は息を吐いて怒りを鎮めながら、手紙を開いてカルヴァン団長に渡した。
カルヴァン団長へ
聖騎士団が大変な時なのにこんなことになって済まない。それに今回のことについて俺はあなたたちに何も話さず、沈黙を貫いた。この無礼も許してほしい。それは俺自身で決着をつけたかったからだ。だがその見込みがついたのでこの手紙ですべてを告げたい。
ミハイルの本名はロイド・カーズ。カーズ公爵家の跡継ぎだった。そして俺はカーズ公爵が馬丁の娘に産ませた子供だ。だから俺はミハイルの弟にあたる。
約20年前、カーズ公爵が王様に疎まれ、ついに反逆の汚名を着せられ死刑になった。そして一族善全員も抹殺されることになった。だがロイドと妹のリサ、そして俺は使用人に助けられて逃げることができた。それからずっとロイドとは会っていない。生きているといううわさも聞いたことがなかった。だからロイドは死んだものと思っていた。
だがゾルタン山でミハイルに遭遇した時、彼がロイドだとわかった。ロイドは王家に対して大きな恨みを抱いている。だから黒魔術師となり恐るべき計画を立てて、王家の転覆と王族の抹殺を実行しようとしている。それも何の罪もない王都の民を巻き込んで・・・。
俺は聖騎士団員だ。過去に何があろうと王家への忠義は揺らぐことはない。だから私自身の手でロイド、いやミハイルに対して決着をつけることにした。ミハイルはローク丘にいる。そこで勝負に挑むつもりだ。
勝手ばかりをして申し訳ない。今回だけは俺のわがままを見逃してほしい。
聖騎士団に栄光あれ!
チェズ・マバラ
カルヴァン団長は嘆息した。そしてこの手紙をオーガ副団長に渡した。
「マバラはやはり聖騎士団の誇りを忘れていない」
オーガ副団長は受け取った手紙をすぐに目を通した。その目は驚きで見開いている。
「馬鹿野郎め! マバラのやつ! どうして一人で背負おうとするんだ!」
オーガ副団長は読み終わった手紙を机に叩きつけた。
「マバラは死ぬ覚悟だ! ローク丘でミハイルと対決するつもりだろう。自分を犠牲にしてでも・・・」
「たとえマリウスがついているからといって・・・。マバラにそんなことをさせられるか! 俺は行く!」
「待て! ジーク!」
オーガ副団長はカルヴァン団長の制止を聞かずに団長室のドアを開けた。するとそこにアリが立っていた。
「どうしたんだ! アリ!」
「すみません。話は聞かせていただきました」
アリはマバラ隊長とマリウスがいなくなったと聞いて本部に駆けつけてきたのだ。それにはミハイルのことが関わっている。ここで何かわかるかもしれないと・・・。
「僕に行かせてください!」
「おまえはまだ傷が治っていないというじゃないか! おとなしく寝ていろ!」
「いえ、そういうわけにはいきません。三番隊の仲間も殺されました。もうじっとしておられません。僕はもう大丈夫です。十分に戦えます。お願いです。副団長!」
アリにそう言われてオーガ副団長は「うーん」と唸った。するとカルヴァン団長が言った。
「ジーク。アリとともに行け! アリはミハイルと戦ったことがある。助けになるだろう」
「わかった! アリ。一緒に来い!」
オーガ副団長はアリとともに部屋を出て行った。その彼らを見送りながらカルヴァン団長がつぶやいた。
「頼むぞ・・・やはりアリはこの国を救う運命を背負っているのか・・・」




