第83話 マバラ隊長の決意
アリの前に三番隊のほぼすべての団員が亡骸として運ばれてきていた。
「一体、どういうことだ!」
アリはそれが現実とは信じられなかった。彼女はすぐにサイト隊長の亡骸のそばに駆けよった。
「隊長! サイト隊長!」
呼びかけたが言葉は返ってこない。顔をのぞき込むと血の気がなくなり、より死神のように見えた。完全に生気が失われている・・・。
その隣はジン正団員だ。相変わらず、しかめっ面をしている。その横はリーだ。高慢ちきだったが今は安らかな顔をしている。そしてその横には・・・。
「しっかりしてください! どうしたんですか! 起きてください! どうか・・・」
アリがそれぞれに必死に訴えかけた、だがもう誰も動くことはない。
「みんな・・・」
アリの目から涙が流れた。共に戦った仲間がこんなに亡くなってしまったとは・・・。だがただ一人、アリのそばに来た団員がいた。
「アリさん」
声をかけてきたのは三番隊で唯一生き残ったピエールだった。彼はカルヴァン団長に報告に行っていて無事だった。
「ピエール! 一体どうしたんだ? どうしてみんなやられたんだ!」
「アリさん。ゾルタン山にミハイルのアジトがあるというので三番隊、四番隊、五番隊で踏み込みました・・・」
ピエールの話ではミハイルを討伐するためにかなり大きな作戦が行われたようだった。そこにはカルヴァン団長やマリウスも参加したという。
「・・・三番隊は山の入り口を固めていたのですが、そこにミハイルが現れました。僕はカルヴァン団長に報告に行ったのですが、帰ってきたらみんなが・・・それで多分・・・」
ピエールはその時のことをまた思い出して目に涙をためていた。
「そんなことが・・・」
アリは絶句した。それはもしかして最初からミハイルが企んだ罠だったかもしれない。団員をおびき寄せて抹殺していくという・・・。幹部たちはそれにまんまと乗ってしまったようだ。
「傷からしてサイト隊長はミハイルの剣に後ろから一突き。あとの者は魔獣にやられたのでしょう。たぶんそれは悪魔熊かと思われます・・・」
ピエールは説明してくれた。それを聞いてアリは膝から崩れ落ちた。
(私がいたならこんな悲劇は避けられたかもしれない。そんなこともつゆ知らず、私は療養所のベッドでのうのうと寝ていたのだ・・・)
どうにもならないこととはわかっていたが、アリは自分を責めるしかなかった。
◇
ゾルタン山での作戦は大失敗に終わった。アジトを急襲して黒い剣を何本か、押収したが、それに見合わないほどの犠牲を出した。三番隊の壊滅。四番隊の多くの団員の死亡・・・もはやまともに作戦行動ができるのは五番隊しかいない。
それにもう一つ、カルヴァン団長の頭を悩ましていた。マリウスからの報告ではマバラ隊長はミハイルの弟だという。2人が話しているのを目撃している。
それでマバラ隊長を四番隊宿舎の隊長室に軟禁した。そしてマリウスたち一番隊の団員を監視につけている。カルヴァン団長はマバラ隊長を信頼しているが、そうせざるを得ない状況だった。それにずっとマバラ隊長は口をつぐんでいる。
「マバラ。言ってくれ! おまえは裏切るような人間じゃない」
「ミハイルがお前の兄であっても何も変わらない。俺たちの仲間だ」
カルヴァン団長やオーガ副団長が話しかけても黙ったままだ。それではどうすることもできなかった。
本部に戻るとオーガ副団長は嘆息してカルヴァン団長に言った。
「マバラはどうしてしまったんだ?」
「何か思い詰めているような気がする」
カルヴァン団長にはそう見えた。だからマバラ団長が危うく見えた。
「何かするのか?」
「それはわからない。マリウスを監視につけているから大丈夫だと思うが・・・」
ここはしばらく様子を見るしかなかった。
◇
それはそれからしばらくたった夜のことだった。マバラ隊長は手紙を書いて机の上に置いた。そして身支度をして聖騎士団の正装になった。
(これが最後だ)
聖騎士団に入って長い年月が流れた。ここに来たのは実家が没落してこの剣の腕で身を立てようとしたからだ。それでもしかしたら家が再興できる・・・そんな浅はかな考えだった。
ここは神聖な場だった。そんな考えはすぐに吹き飛び、剣の修業と精進にまい進した。王家の忠義を尽くす・・・それがこの国、いやこの国の人々のためになると信じて・・・。
その考えは少しずつ揺らぎ始めていた。彼も人々が苦しんで生活していることに気付いていた。その原因もうすうす感じていた。だがこの剣に誓った以上、もう後戻りはできない。
マバラ隊長は剣を手に取り、鞘から抜いてみた。剛力な自分では普通の剣はすぐに折れてしまう。特にその力を使った技を使うから・・・だから当時の隊長がこの剣を与えてくれた。ナタのように刀身が厚くて太く、やや短めの剣・・・その重さも相まって多くの魔獣を倒してきた。
その剣を振ってみると「シュッ! シュッ!」とこころよく空気を斬る音がする。手によくなじんでおり、もはや体の一部だ。窓を開けてその剣を掲げてみた。暗闇の中でもきらめいている気がする。
「俺は決意した。自らの手で決着をつけねばならない!」
マバラ隊長はぐっと剣を握りしめた。




